2015年11月
『砂の街路図』 佐々木譲
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母の四十九日を終えた岩崎俊也。彼の両親が青春時代を過ごした北海道の運河町へ旅立つことから物語はスタートします。20年前、父は家族に内緒でこの町を訪れ、酔って運河に落ち溺死するのですが、その父の死の真相を追うことが旅の目的でした。時代から取り残されたような街並みが広がる運河町を舞台に、父が在籍した大学や所属した漕艇部関係者と接触するうちに、父の隠された過去が暴かれていくことになります。
架空の町が設定ということですが、小樽と函館をミックスしたような感じで、運河町なる街へ実際に足を踏み入れたような気分にさせられるちょっと不思議な雰囲気のミステリーです。
『900年の秘めごと~国宝・源氏物語絵巻~』
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まず今回の修復の過程をじっくり見せていただきましたが、絵具の剥落や紙の損傷がとても激しく、4年におよぶ大修理は相当に困難を極めたものであったことが分かりました。江戸時代にも修理がされていたようですが、その裏打ちの紙をはがした過程で下絵の様子などいろいろなことが判明したようです。それにしましても長い時を経て、これだけの絵画が残っていたことに驚嘆するとともに、これほどまでに素晴らしい修復をして供覧させていただいたことにも頭がさがります。
寂聴さんの源氏物語に寄せる熱い思い、そして900年という時を経て現代に生きる私たちへのメッセージがお話しから伝わってきました。また 宮廷画家たちが物語の登場人物の心情などに思いを巡らし、試行錯誤しながらも絵筆に情熱を込めた様子など修復過程から分かった事実はとても興味深いものでした。
《写真はNHK-BSプレミアムの画面を撮影したものです》
私の少し後に徳川美術館を訪れたreikoさんから同館で販売されている企画展書籍をお借りしました。写真が大きくて鮮明で、実際に観た絵巻よりも数段詳しく細部まで読み取ることが出来ます。源氏物語が書かれた背景やそれぞれの詞書の説明なども詳細に記されていますので、源氏物語のさわりしか読んだことがない私などにとって同物語へのアプローチには良いテキストと思っています。
物語としても絵画としても好きなのが、「宿木(やどりぎ)」の一場面を描いた第49帖です。前述のテキストと番組の内容を加味して書いてみます。
男性は光源氏の孫である匂宮(におうのみや)、女性は匂宮の妻である中君(なかのきみ)です。舞台は秋のしみじみとした夕暮れ。二条院の庭の枯れかかった前栽(ススキ、萩、藤袴)が風になびき、御簾をわずかに揺らして、揺れ動く二人の心情を表しています。匂宮はリラックスして青革張りの琵琶を奏でています。中君はこの時、懐妊中の身です。脇息(きょうそく)にもたれて扇を手に琵琶の音を聴いています。琵琶は中君も好きな楽器なのですが、匂宮が新たに夕霧の娘である六君(ろくのきみ)を妻としたことで中君は苦悩しています。一方の匂宮も、中君の姉である亡き大君(おおいぎみ)を恋い慕う薫(かおる)が中君に近づいていることを知り、中君と薫との仲に猜疑心を抱いています。 今どきのお昼のドラマのようですが、男と女の関係はいつの時代も普遍的な題材になるようです。
組高欄、簀子縁(すのこえん)をめぐらす廂間(ひさしのま)が舞台ですが、左の大きなスペースには前栽のある庭、そして廂間を斜め上から眺めるという構図、人物の微妙な配置・表情など、900年前の絵画とは思えない斬新さがありますね。
中部国際空港 セントレア
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講演 『日本酒の文化・よもやま話』
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私が参加したのは1日だけですが、それでも午前中から夕方までびっしりワークショップや特別講演などを聴いてきました。この学会の面白いところは毎回必ず仕事とは関係しない講演を聴けることです。今回は半田市の中埜酒造顧問の馬場信雄氏による『日本酒の文化・よもやま話-乾杯の今と昔-』という講演がありました。お酒好きに限らず、お酒にまつわる歴史的背景やお酒が古来の人々に与えた影響、お酒と神との関係などとても興味深い内容のお話でした。
簡単ですが、要旨に拝聴した講演内容を加筆して掲載いたします。
「乾杯」という行為は昔からあったわけではなく、明治時代から始まりました。それ以前は日本酒を道具として、厳粛な儀式が行われていました。最初は村人たちが無病息災、五穀豊穣を祈念する儀式でしたが、武家政権になり酒席での礼儀作法を通して精神修養や仲間意識の醸成をする儀式に変化しました。室町末期に確立したこの作法は「酒道」と呼ばれ、酒のつぎ方、飲み方、酒膳の配り方に至るまで、厳しい決まりがありました。しかし、あまりに厳格すぎて明治時代初期に廃れてしまいます。この「酒道」の中身に触れてみますと古くて新しいことが一杯詰まっています。現代社会だからこそ、改めて「酒道」の精神が必要のように感じています。
『国宝 源氏物語絵巻』 徳川美術館
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ただ徳川美術館だけにはぜひ行きたいと思っていましたので、中部国際空港に着いてすぐに名鉄の特急に飛び乗り、閉館の1時間少し前に何とか美術館に到着することが出来ました。常設展示室は飛び越して、一番奥にある蓬左文庫館へ直行です。
12月6日までの会期で『国宝 源氏物語絵巻』の4巻19場面の全点を一挙に観ることが出来ます。この絵巻物は12世紀に描かれた現存する最古のもので、3巻15場面を徳川美術館、1巻4場面を東京の五島美術館が所蔵しているそうです。900年の時を経ていますが、4年にわたる修復により極めて良好な状態に復元されており、ため息が出るほどに素晴らしいものでした。いつもとても混雑して待ち時間が出ているそうですが、夕方の閉館時間近くになって観覧者は少なくなりましたので、ゆったりと観ることが出来ました。
先日のNHKのニュースでも報じられていましたが、絵巻の保存修理の過程で、幼子を抱く光源氏を描いた「柏木三」を透過赤外線で撮影したところ、胸で組まれた幼子の両手は、下絵では源氏に差し伸べる形だったことが分かったそうです。また、源氏の左手は下絵ではかなり下にあったようで、幼子の顔も数回の描き直しのあることが判明したようです。同館の四辻秀紀学芸部長によりますと、「光源氏が父の妃・藤壺と密通した自分の因果におののく複雑な心情が主題なので、薫がほほ笑んで手を伸ばすのは具合が悪い。単純に物語の挿絵として描かれたのではなく、内容を掘り下げようとする絵師の苦心のあとがわかる」とのことですが、なかなか興味深い背景がありそうですね。
出典 www.nikkei.com
11/26(木) NHK-BSプレミアムで『900年の秘めごと~国宝・源氏物語絵巻~』(午後8時00分~午後9時00分)という番組が放映されるそうです。作家の瀬戸内寂聴さんと画家の山口晃さんが、修理を終えた源氏物語絵巻を見つめ、平安絵師たちが絵筆に込めた情熱に思いをはせ、みやびな世界を堪能するというのが番組の趣旨のようです。
『流』 東山彰良
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同賞選考委員各氏の絶賛の帯紙に惹かれてページをめくったのですが、文章がやや翻訳文的で粗い感じがしたことと、中盤までダラダラとしてスピード感にかけることが最初の印象でした。(東山さんは5歳の時に日本に移り住んだ台湾国籍の方ということを後で知り納得した次第です。)
物語は、蒋介石率いる国民党とともに中国本土から台湾に移り住んできた「外省人」の家族のお話です。東山さん自身を思わせる17歳の秋生という青年が主人公です。祖父を殺した犯人捜しに執念を燃やすのですが、結末は思わぬ展開に発展します。ミステリー仕立てにしつつ、1970年代以降の台湾の猥雑ながらも生き生きとした世相を見事に描いていて、大戦後の台湾、日本そして中国の歴史を再認識することが出来る点からも読む価値があります。
『あの家に暮らす四人の女』 三浦しをん
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家主の鶴代、その娘の佐知、佐知と同じ年頃で転がり込んできた雪乃、そして雪乃の会社の後輩・多恵美、それに長らく敷地内の守衛小屋(?)に住む山田という老人。古びた洋館を舞台に繰り広げられる女四人と一人の爺さんの暮らしはお互いの個性が絡み合って、楽しくもあり姦(かしま)しく過ぎていきます。
ドラマ化されても楽しいかなと思っています。鶴代には・・・あの人がいいかな、なんて勝手に配役をキャスティングするのも楽しいです。
森町のお鮨屋さんへ
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大将の手から繰り出される芸術品のようなお鮨。口に入れるのが勿体ない気がします。一つ一つにひと手間が加わっていて、口に入れた瞬間、「こんな美味しいものがあるの」というくらい美味しいです。
前浜の噴火湾の魚は脂がのってきて、これから魚の種類が増えることもあって、鮨ファンには堪らない時季を迎えるようです。新幹線に乗ってきて、ここまで足を延ばす価値は十分にあります。
ヒヨドリとの競争
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我が家の3本のリンゴの木についている実も一段と赤く色づき、そして甘みも増してきています。大小さまざま、見たら笑われそうですが、リンゴの実を成らせてみたい、そして食べたいときに木からリンゴを捥いでくるという夢が実現したのですから大満足です。都会の人から見たらちょっと贅沢だと思うのですが・・・(^^♪
ヤマガラ、シジュウカラとともにやってくるのがヒヨドリ。これが結構果物好きで、鋭い嘴でリンゴに穴をあけていきます。このヒヨちゃん、1個を食べ終わるまで、他に手を付けないでくれると有り難いのですが、これが割と浮気っぽくて、見てると結構手当たり次第に啄むといった感じです。こんなに実をつけているのですから、「大目、大目」と太っ腹でいきたいところですが、むやみに傷をつけられたくないというのが本音です。そんなことで、雪が本格的に降る前には収穫したいと思っていますが、何個無傷で残っているでしょうね。
『ラプラスの魔女』 東野圭吾
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未来予測をテーマにした作品で、ガリレオシリーズと同様に理系出身の作者らしいSFミステリーです。wikipediaによりますと、「ラプラスの悪魔(魔女)」というのは、『すべての物質のあらゆる力学的状態を知ることができ、かつそれらのデータを解析できるだけの知性があれば、不確実なことは何もなくなり、未来は計算によって予測できる』という理論を提唱した18世紀のフランスの科学者ラプラスの概念に基づいたものなのだそうです。
物語は、脳神経外科の権威である父を持つ羽原円華という少女が、母親と北海道旅行に出かけた際に遭遇した自然災害の場面から始まります。長編にもかかわらず、いろいろな仕掛けが絶妙に絡み合って、ストーリーを複雑に面白くしていきます。東野ファンにはたまらない一冊と言ってよいでしょう。
この小説を読んで、この春に放映されたNHKスペシャル「NEXT WORLD-未来はどこまで予測できるのか-」を思い出しました。舞台は30年後の2045年という設定。人々は超高性能の知能端末を脳内に埋め込んだり身につけて、すべての行動はその人工知能の未来予測に従って生きているというのです。受験勉強などは意味をなさず、人々は間違いを起こさず、超効率的な社会のなかで暮らすらしいのです。高い確率でこのような社会に変貌していくようなのですが、少なくとも私はこんな世界で生きていく自信がありません。うふふ、30年後のNEXT WORLDまで生きていませんね。(^^♪
フルート 「いい日旅立ち」
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- 70の手習い (フルート)
この曲はフルートの音域の一番下のオクターブの音符が主で、低音域が苦手の私にとってはなかなかきれいな音を出すことが出来ません。(高音域も苦手ですが…) 楽譜には「感情を込め、フレーズを大きく感じてください」とのコメントが記されていますが、間違わずに吹くことだけしか頭になく、そんなことはどこかに吹っ飛んでしまいます。やれやれと云った感じです。でもいい曲ですね。(2015.11.02)
今日もう一度再収録してみました。前回出来なかったところを重点的に練習したのですが、あまり変わらないようですね。(2015.11.05)
初めて実った西洋グルミ
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