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実業之日本社 創業120周年記念作品として発刊された伊吹有喜の『彼方の友へ』を読みましたが、すごく面白かったです。

明治41(1908)年の創刊から昭和30(1955)年まで、激動の時代をくぐり抜けて刊行されていた少女雑誌『少女の友』がモデルとなってこの小説が生まれたのだそうです。
舞台は昭和12年の東京。主人公の佐倉波津子(ハツ)は16歳。芸術に心を寄せる少女ですが、経済的なことから進学をあきらめ、西洋音楽を教える私塾で女中として働いています。しかし、戦争の色が濃くなったこともあり私塾をたたむことになり、ハツは自分の身の振り方に悩みます。そんな折に親戚から憧れの少女雑誌『乙女の友』の編集部の雑用係をしないかという話が舞い込みます。ハツは主筆の有賀憲一郎、看板作家の長谷川純司など個性あふれる人々に囲まれ、迷い悩み苦しみながらも自らの才能を開花させていきます。

それから幾年月が経ち、卒寿を迎えて老人施設のベッドの上で微睡むハツ。そんな彼女のもとに「フローラ・ゲーム」と書かれた美しい小さな箱が届けられます。
昭和12年、昭和15年、昭和18年、そして昭和20年と激動の過去と現代を行き来しつつ物語は進んでいきます。若かり日の淡い恋慕の情や奮闘した日々のことに思いを馳せ、「彼方の友へ」とつぶやくハツの心情が胸に迫ってきます。

おすすめの一冊です。そして今期の「直木賞」をぜひ受賞して欲しい小説と思っています。
《図書館からお借りしました》
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