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澤田瞳子の『火定』を読み終えましたが、星4つ半つけてもいいくらいに感動しました。伊吹さんの『彼方の友へ』も良かったですが、こちらの澤田さんの『火定』も甲乙つけ難いほどに良かったです。う~ん、お二人とも直木賞が取れなかったことが残念でなりません。

時は奈良時代の天平年間、権力者である藤原四兄弟までもが罹患して亡くなった寧楽(奈良)の都・平城京での天然痘のパンデミックが主題になっています。太平年間には、世を震撼させた疫病の他にも旱魃や飢饉、大地震などが続き、これらの大きな出来事が引き金となって聖武天皇の親政や大仏建立などがなされたことが知られています。

遣新羅使が持ち込んだとされる天然痘が徐々に都に蔓延し猛威を奮うところから物語が始まります。原因も治療法も分からないなか、市中の病院「施薬院」では医師やスタッフが次々と担ぎ込まれる膨大な感染者の治療に昼夜をおかず奮闘します。
そんな「施薬院」の外では、疫病を避けて畿内から逃げ出す者、藁にもしがみつこうと「まじない」など怪しい宗教を頼る者、はたまたこの機に乗じて金儲けに走る者など世は混乱の渦に巻き込まれてしまいます。

まさに人間の心の中にある清い部分と濁った部分が、パンデミックという極限の状態のなかで炙り出されることになります。「火定」とは、自らの身体を火の中に投げ入れて死ぬ「火定入滅(かじょうにゅうめつ)」という仏教用語から来ているのだそうです。疫病の流行に対して無力さを感じ、おのれを含めた人間の業の深さを嘆く、主人公のひとり名代(なしろ)の叫びが「火定」という響きの中に聴こえてくるようです。
1300年も前の世の物語ですが、今まさに眼前で繰り広げられているような躍動と恐怖をおぼえる小説です。ぜひ読んでいただきたいと思います。
《図書館からお借りしました》
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