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東野圭吾の作家デビュー30周年記念作品という『人魚の眠る家』を読み終えました。
あらすじについては他に譲るとして、本書の核心は脳死、臓器移植、延命処置という難しい問題を取り上げたところにあると思われます。

可愛い我が子が脳死状態と宣告されても、高度医療や最新の科学技術を駆使して延命治療を施したいと思うのは親として当たり前の気持ちでしょうし、一方で臓器移植でしか命を継続することが出来ない子を持つ親の切実な気持ちも理解できます。「こんな物語を自分が書いていいのか、今も悩み続けています」と東野さんは語っていますが、それぞれの個人や家族のおかれた状況、宗教観などに帰結するものが大きく、何が適切で何がそうではなのか一概には論ぜられないように思っています。

平成22年7月17日に改正臓器移植法が施行されて6年目を迎えますが、昨年6月末までに15歳未満の子供からの提供で行われた臓器移植は7例(うち6歳未満は3例)にとどまっているそうで、小児のドナー(臓器提供者)およびレシピエント(移植希望者)それぞれの苦悩がいかに深いかを物語っています。

また、脳死という言葉も普通に見聞きしていましたが、これほどまでに深く考えたことはありませんでした。一昔前までは、誰もが共通して抱いていた死(臨終)という概念がありましたが、臓器移植に伴って脳死判定というものが持ち込まれてからは、死そのものの扱いが複雑になったことをあらためて認識させられました。
医学を含めた科学技術の進歩は人類の幸福に繋がっていると信じていますが、同時に生殖医療や高度治療などの選択肢が際限なく増えるということでもあり、それに伴う社会的な問題も否応なしに個人や社会に課せられてくると思っています。
そんなことを考えさせられた一冊です。多くの方にお読みいただきたいと思います。
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