カテゴリ:
朝日新聞出版10周年記念作品となる道尾秀介の『風神の手』を読み終えました。
物語の舞台は、鮎の"火振り漁"で有名な西取川という綺麗な川の流れる町にある鏡影館という遺影専門の写真館です。この写真館に纏わる人々の4篇からなる連作短篇集ですが、それぞれのお話は関連性を持ちながら最後に収斂するという仕掛けになっています。
第一章の「心中花」は、死を目前にした母親が娘と一緒に訪れた鏡影館で若かりし頃の初恋の人との出来事を娘に語り聞かせるという内容です。自らの嘘が招いた罪の告白がキーになっています。第二章の「口笛鳥」は、鏡影館をたまたま訪れた青年が遺影と共に飾られた1枚の写真を見た事が切っ掛けとなって、小学生時代の親友との思い出を回想するというものです。子供なら誰でもついたであろうささやかな嘘が話の軸になっています。第三章の「無常風」は、ある老女が若き日に犯した罪を語ることで長い間の心の重荷と葛藤からようやく解放されるというものです。それと並行してこの町に過去に起きた出来事の経緯とそれらの因果を探る若者たちの姿を描いています。
一見バラバラに思えるピースが、世代を超えて一つの物語に収束していく筋立ての見事さには唸ってしまいます。
ちょっとした出来事が悲劇を生み、それをきっかけに些細な嘘と誤解が伝播して、多くの人たちの人生を変えていく・・・人生は人智を越えて「風神」の風の吹くままに揺らいでいるものなのかも知れません。ただ、変わってしまった人生が必ずしも不幸とは限らないという優しさが全編を通じて流れていて、温かい人間愛を感じさせる作品に仕上がっています。

そうそう、短編の「心中花」、「口笛鳥」、「無常風」、「待宵月」のそれぞれの末字を合わせますと「花鳥風月」となります。ちょっと粋ですね。いい本です。
IMG_2647