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平成30年上半期の直木賞にノミネートされた湊かなえの『未来』を読み終えました。

物語の主人公は章子という10歳の少女です。ある日、彼女のもとに一通の手紙が届きます。「10歳の章子へ」で始まるその手紙の送り主は、20年後の自分だと書いてあります。その証拠として、未来の章子しか知らないようなことが書かれていましたし、10周年を迎えたばかりの「東京ドリームマウンテン」の30周年記念グッズも同封されていました。その手紙を信じた彼女はその日から未来の章子に返事を書き始めます。未来の章子に問いかけるように日々の出来事をしたためていきます。ただ、未来の章子からは後にも先にもこの一通の手紙だけだったのですが・・・。

10歳の章子が手紙に記したのは、一人の少女を襲ったあまりにも辛い出来事の数々でした。
父をガンで亡くし母は心の病を患っているため、幼い頃から家事を担っていること。学校ではPTAの役員の娘で人気者の実里に目を付けられ、陰湿で執拗なイジメに遭っていること。章子を救う立場にある林という担任教師が歪んだ動機で彼女に手を差し伸べたことが原因で教職を追われたこと。父方の祖母から母が犯したという謂れのない過去の出来事を暴露されたこと。母の新しい恋人の早坂という男からも暴力を受け、自由を奪われたこと。そして、そんな状態から学校にすら行けない状況に陥ってしまったことなど・・・。
そんな辛い現実を「未来の章子」へ向けて淡々と綴っていきます。

章子の両親の抱える不幸な過去と現在を起点に、章子を支える教師や章子と同じような悩みを抱える友人をも巻き込みながらストーリーは進んでいきます。性的虐待、精神崩壊、家庭内暴力、イジメ、殺人、放火、自殺など小説とはいえ目を背けたるような不幸の連鎖が続きます。
この物語に登場する子供たちが苦しんでいる原因は、自分の都合や欲望で子どもを振り回す身勝手な大人たちにあるのですが、一方で子供たちが未来を信じることができるように温かい救いの手を差し伸べる大人たちの存在も用意されています。

「未来の章子」からの手紙は本物なのか。手紙に書かれていた「悲しみの先には光さす未来が待っています。それをあなたに伝えたくて」という文面を信じていいものなのか。
それは読んでのお楽しみということで。
ちょっと悍(おぞ)ましい描写の連続ですが、ミステリーの要素はさすがに面白くて一気に読めちゃいますので、ぜひ読んでみてください。
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