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島本理生の『ファーストラヴ』を読み終えました。
『蜜蜂と遠雷』以来、個人的に直木賞受賞作品で心ときめく作品はありませんでしたが、今回(第159回)受賞の本作『ファーストラヴ』は、さすがに読んで良かったと思える作品でした。

ある夏の日、多摩川沿いを血まみれの姿で歩いていた女子大生が殺人容疑で逮捕されるところから物語が始まります。彼女の名前は聖山環菜。刺されて死亡したのは彼女の父親で画家の聖山那雄人。彼が講師を務める美術学校の女子トイレ内での出来事でした。しかし、逮捕後の取り調べで、環菜は犯行を認めたものの動機については本人ですら分かっていないようなのです。
この事件を題材にしたノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士の真壁由紀は、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉とともに、環菜や彼女の周辺の人々への面談を重ねていき、少しずつ真実への手がかりを見出していきます。

全体的に薄ぼんやりとしたミストの籠る舞台の上で演じられているような感じのする小説でした。性的虐待や歪んだ親子関係など、とても重いテーマの物語ですが、静かなタッチで淡々と綴られているのが印象的です。物語の終盤に向かって謎解きのように一つひとつのピースが繋がっていく過程が丁寧に、そしてミステリアスに描かれています。

ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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