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上原隆の『こころ傷んでたえがたき日に』は一日で一気読みです。 
月刊誌に100回連載したお話の中から22編を選んで一冊にしたものだそうです。コラムノンフィクション作家の第一人者と言うだけあって市井の人々の人生の悲しみと喜びを、一篇の詩を口ずさむような静かなタッチで描いています。そして昭和の薫りがするような懐かしい心持ちにさせてくれる作品でした。

22編の物語のすべてが実在の方々からのインタビューで成り立っており、老若男女さまざまな人達が登場します。
妻が不倫相手の男の子供を出産したものの別れることなくその子を自分の子として育てようとする30代の男性。中学生の頃から訳あって60年間にわたって新聞配達を続ける74歳の男性。毎日新聞の「仲畑流万能川柳」への投稿を生きがいにする結婚経験のない61歳の男性。腸内がただれて食事ができない難病・クローン病を患う青年とその母親。ギャンブルが原因でホームレスとなり、広告看板に挟まれながら街角に立つちょっと見栄っ張りな53歳の男性。留学直前の娘が殺害され自宅にも放火された「柴又・上智大生殺人事件」の被害者となった69歳の夫婦。などなど・・・。

どんなに苦しくなったり落ちぶれたとしても、人間は明日への希望とささやかなプライドを支えに生きていくのですね。すべての人の人生にそれぞれの物語があり、命の炎が燃え尽きるまで各々の生の物語を投げやりになることなく丁寧に紡いでいくことが大切なのでしょう。

そうそう、連載時の表題はボブ・ディランの「くよくよするなよ (Don't think twice. It's All Right.)」だったのだそうです。うふふ、人生「くよくよするなよ」ですね。(^^♪

何となく元気をもらえるいい本です。ぜひ読んでみてください。
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