『Iの悲劇』 米澤穂信
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物語の舞台はどこか雪深い県の内陸部「南はかま市」。その市街地から車で40分も走った山の中の限界集落。住民が全員立ち退いて滅びてしまった蓑石地区に、Iターンで新しい住民を呼び込み、地域を再生しようという市長の施策を実行するのは市役所の「甦り課」の三人です。主人公は勤勉な公務員を絵に描いたような万願寺邦和という青年。他の二人は、何事にもやる気がなく定時に帰ることばかり考えている課長の西野秀嗣と、人当たりが良くさばけた新人の観山遊香という若い女性です。
一癖あって一筋縄ではいかない移住者たちは、互いの価値観の違いなどによってぶつかり合い、果ては犯罪的な出来事すらに発展していきます。原因不明の火事、忽然と消えた養殖鯉、幼児の行方不明事件など、山村の中で起こった不可解な5つのトラブルに翻弄されながも「甦り課」の三人はプロジェクトを成功させるべく奔走します。しかし、万願寺らの願いもむなしく開村時には10世帯いた移住住民は、1年ほどの間に櫛の歯が欠けるようにポツポツと村を去っていきます。
過疎化や高齢化に悩む自治体は日本中のありとあらゆるところにあり、地方再生や創生の名のもとに同様のプロジェクトが行われていますが、あまり成功した事例というのを耳にしたことはありません。特に過疎化の進んだところでは、個人の暮らしを守ることと共同体を営むことの間には避けがたいギャップが生じるのは火を見るよりも明らかです。災害などの危険性が叫ばれているにもかかわらず便利で肥大化する大都市、一方で過疎化が深刻な地方。自治体まかせではなく国の施策として何とかならないものかと思ってしまいます。
そうそう、この物語の最終章「Iの喜劇」がミステリアスというか凄いです。移住者10世帯がすべて去った本当の謎が明かされます。テンポが速くて小気味いいですし最高に面白いです。ぜひ読んでみてください。
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