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カテゴリ:ちょっと面白かった本

『さらさら流る』 柚木麻子

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柚木麻子の『さらさら流る』を読み終えました。
アットホームな家族に囲まれ、平凡ながらも毎日を穏やかに幸せに過ごしている主人公の井出菫。ある日突然、たまたま自分の裸の写真がネット上に公開されているのを見付けてしまいます。6年前までつきあっていたかつて恋人に懇願されて撮影を許したことを思い出しまが、すぐ消させたはずなのになぜか多くの人の好奇の目に晒されることになっていました。あらゆる負の渦に飲み込れ心に深い傷をおいながらも、家族や親友の助けを借りながら少しずつ真相を明らかにし立ち直っていきます。
彼との最初の出会いは、大学の飲み会で酔い醒ましを兼ねて渋谷から自宅まで暗渠を辿りながら帰ったことですが、この暗渠に纏わる思い出が通奏低音のように全篇に流れています。まさに「さらさら流る」のように。人間は暗渠のように暗いところを流れている時もあるが、必ず日の当たる拓けたところに行きつくということを意味しているのでしょうか。
穏やかな幸せと崩壊そして再生を描いた作品です。現在と過去を行ったり来たりし、彼女と元恋人の視点両方を描きながら物語は進みます。二人の微妙な心の動きの描写が素晴らしく、このへんが柚木さんの文章力の確かなところなのかなと思います。
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『忘れられた巨人』 カズオ・イシグロ

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今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を読んでみました。
長崎生まれの日系英国人ということで、いずれの小説ももとは英語で書かれています。本書も日本語訳ですので英語版で読んだら細かいニュアンスが違うかなと思うのですが、私には読む力がありませんので、ちょっと残念に思っていました。
舞台は6、7世紀のブリテン島で、いきなり語り手が鬼の話をはじめるファンタジックなゲーム画面を思わせる舞台設定で物語が始まります。当時のアーサー王がサクソン人を虐殺してブリテン島を統一したことに起因するブリトン人とサクソン人との対立という背景が絡んでいます。主人公は、記憶をほとんど亡くした老騎士のアクセルと彼の妻のベアトリスという老夫婦です。ある日、息子のいる村を訪ねて旅に出るのですが、その道中で戦士や少年と出会い、竜退治へと向かう展開になっています。というのも、この雌竜が吐き出す魔法の息が、老夫婦はもとより村人みなの大切な歴史の記憶を奪っているからなのです。しかし、この魔法の息による忘却によって、ブリトン人とサクソン人の憎しみが忘れ去られ、束の間の平和がもたらされていたことも事実でした。竜の死は、争いの再燃を意味していることにもなります。

イシグロ氏は、平和な時代を迎えるのだと信じていた1989年のベルリンの壁崩壊後に発生したユーゴでの戦争勃発に大変なショックを受けたと仰っています。ボスニアやコソボでは、異なる民族同士の結婚さえある程度進み、互いに近所づきあいをしたりと平和に暮らしていたといいます。でも、その平和は本物でなく、あくまでもチトー政権によって力によって抑え込まれていたにすぎなかったのだそうです。そう、小説の中の雌竜から息を吹きかけられた状態のようにです。
イシグロ氏は、嘘の平和とは何か、真の平和とは何かという難しい問題を提起しているのでしょう。このところ俄かにキナ臭くなってきたイスラエルとパレスチナの問題しかり、スペインやスコットランドの自治政府独立の問題しかり、その根は深いところにあるようです。
ファンタジックな小説ですが、そんな深い意味を込めた一冊と思います。
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『月の満ち欠け』 佐藤正午

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今年の第157回直木賞を受賞した佐藤正午の『月の満ち欠け』を読み終えました。
月が満ちて欠けるように、生と死を繰り返す「生まれ変わり」をテーマにした作品です。前世を記憶する瑠璃と名付けられた女の子の話で、前世でそれぞれが関わった3人の男性への恋心から何度も生まれ変わります。輪廻転生というとても不思議なお話なのですが、妙に説得力のある内容で、背筋がぞっとするような不気味さとミステリー的な面白さをも兼ね備えている小説です。感動的なラストシーンへの落としどころの上手さはさすがに熟練した直木賞作家の文章力に拠るものと思いました。
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『ホワイト・ラビット』 伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の『ホワイト・ラビット』を読み終えました。
時間や場面が複雑に行き来して、思わず前に遡って二度見しちゃうような込み入った構成になっていますが、最後は複雑なピースが絶妙に結び合わさって物語の全体像が見渡せる、トリック満載のエンタメ小説です。
仙台を舞台にした一夜の籠城劇。誘拐というあり得ない生業を筆頭に、奇妙な人質立て篭もり事件、星座のオリオン座やさそり座といった天文学の蘊蓄(うんちく)、そしてヴィクトル・ユーゴーのあの有名な「レ・ミゼラブル」に纏わるお話、妻子を亡くして生きる目的を失っている警官の登場などなど・・・もう頭が混乱しそうですが、こんなゴチャゴチャ感とちょっとお洒落な文章が伊坂幸太郎ミステリーの醍醐味なのかもしれません。物語の進行の手助けする「狂言回し」の技法も盛り込んでおり、伊坂幸太郎が自在に操る人形劇を見ているような不思議な感覚の小説です。
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『盤上の向日葵』 柚木裕子

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柚木裕子の『盤上の向日葵』。600頁に近い長編ですが、面白くて一気に読み終えました。
舞台は平成6年、将棋のタイトル戦が行われている山形県天童市の会場に刑事が訪れるところから物語は始まります。刑事は山中で発見された600万円もの価値がある将棋の駒と一緒に埋められていた白骨死体の謎を追い、その捜査の進捗と同時並行的に昭和40年代に遡る将棋好きの少年の物語とが交互に語られる形で進んでいきます。読者は終盤にこの天才少年の宿命を知ることになるのですが、これは読んでのお楽しみということで・・・。どこか松本清張の『砂の器』を思い起こさせる感じです。
それにしましても柚木さんの盤上の真剣勝負の一手一手の描写がリアルで凄いです。藤井聡太四段の快進撃で盛り上がっている将棋界ですし、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
私の予想では、この本も「本屋大賞」の候補10冊のなかにノミネートされると思っていますが、どうでしょうね。
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『鳳凰の船』 浮穴みみ

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幕末から明治初期の函館(箱館)を舞台にした小説『鳳凰の船』を読み終えました。
平成30年の北海道命名150年に向けて書かれた作品のようで、函館や七飯の歴史に名を刻んだ人々の激動の人生を描いた5つのお話で構成されています。小説とはいえ、実在の人物が殆どですから、当時の函館や七飯で暮らしていた人々の新しい時代に対する情熱や息遣いが感じられて、なかなか読み応えがあります。

はじめの「鳳凰の船」は、優れた洋式帆船を次々と作った船大工の続豊治が主人公です。豊治はスクーネル型と呼ばれる「箱館丸」を安政4年7月に竣工しており、この船は日本人の手による最初の洋式帆船と言われています。この豊治のもとに伊豆で同じように洋船を作っていた上田寅吉が突然訪ねてくるところから物語が始まります。寅吉はあの榎本武揚とともに箱館を訪れていたのですが、二人の遣り取りのなかに時代に翻弄されながらも未来への情熱に燃える稀代の船大工の姿が描かれていて感動的です。
この「箱館丸」の復元船は函館港西埠頭に展示されています。

2作目の「川の残映」は、日本で地震学の基礎を作ったと言われるイギリス人のジョン・ミルンと結婚してイギリスに渡った願乗寺の娘・堀川トネのお話です。彼女のエドウィン・ダンの妻・鶴に対する微妙な女心の揺れ動きの描写が時代の背景も絡んで面白いです。
また、トネの父親・堀川乗経は願乗寺の住職でしたが、生活用水に乏しい町であった函館(箱館)に願乗寺川と呼ばれた水路を開削し、町の発展に大いに尽力した功労者として知られています。

次の「野火」は、北海道初代長官の岩村通俊が主人公です。かつて七重村開墾条約を結び開墾に尽くしたプロシア人のガルトネルとの遣り取りが読みどころです。ガルトネルと七飯(七重)の結びつきは強く、300万坪もの土地を所有して西洋農法を実践していたと言います。私の家の近くには農園の名残のガルトネル・ブナ林の一部が今でも残っています。

4作目の「函館札」は、函館築島ガラス邸と呼ばれた英国人ブラキストンの邸宅に女中として仕えた16歳のれんが主人公です。ブラキストンは、津軽海峡を境にして動物学的な分布境界線があることを指摘し、この境界線がのちにブラキストン・ラインとして知られたことはご存知の通りです。

最後の「彷徨える砦」は、苦学をして立身出世し函館港湾改良工事監督になった廣井勇とかつて恋仲だった志津とその夫のフランス人ピエールとの関わりを描いたお話です。廣井が改良工事を行ったのは弁天台場であり、この台場は五稜郭を作った武田斐三郎(あやさぶろう)によるものと言われています。面積は3800平方メートル、石垣の高さは8.48メートルもある当時としては稀にみる最新鋭の洋式砲台だったようです。台場自体がとても頑強に作られていたため、廣井による改良工事は難航を極めたことが知られています。台場の石の一部は現在の函館漁港石積み防波堤(函館市入舟町)の一部に使われています。

来年の春にでも、5つのお話に関連することを詳しく紹介したいと思っています。
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『つぼみ』 宮下奈都

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宮下奈都の『つぼみ』を読み終えました。
『スコーレNo.4』のスピンオフ作品を含む短編集です。スピンオフ作品は3編入っているのですが、それがお花(華道)に関するお話でしたので、これらを含めた6編に共通するものとして『つぼみ』というタイトルになったそうです。

主人公たちの織りなす物語はどこか懐かしく、そしてほんのりとした優しさに包まれて、読む者の心の琴線に触れます。そっと「大丈夫だよ」と声をかけてくれるような感じで、読後感がとても心地いいです。

そうそう、表紙の装画もなかなか素敵ですよね。これは日本画家の岩﨑絵里さんの「かなたのひかり せかいのはじまり」という作品なのだそうです。
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『宮辻薬東宮(みや・つじ・やく・とう・ぐう)』

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超人気作家たちが2年の歳月をかけて繋いだ前代未聞のリレー・ミステリー・アンソロジーという触れ込みの『宮辻薬東宮(みや・つじ・やく・とう・ぐう)』を読み終えました。
本の題名は何とも意味不明で怪しげですが、リレーで執筆された宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介という5名の錚々たる面々の名前から頭文字をピックアップして命名したものです。
ミステリーというよりもホラーテイストの色濃いものであり、その手の小説が好きな方にはおすすめと思います。私はあまりホラーというのは好きではありませんが、あまり強烈なものではありませんので、私のような弱虫でも楽しめるような内容になっています。それにしましても、さすがに宮部さんはじめ短編を繋いだ作家さん達は読者の心をとらえるのがお上手で、背筋がゾクゾクするような不思議なお話の怪奇小説に仕上がっています。

トップバッターの宮部さんは郊外の一軒家を舞台にした小説。二番手の辻村さんは宮部作品から写真に纏わるモチーフを引き継いで母娘が織りなす奇妙な物語を綴っています。続く薬丸さんは家出少女が主人公の不思議な物語。東山さんは幼少期を台湾で過ごした経験を生かし、怪異文学の古典「聊斎志異(りょうさいしい)」をベースにスマートフォンを題材にした小説を書いています。最後の宮内さんはゲームのプログラムに巣くう幽霊バグがモチーフになっています。
それぞれ単独で読んでも面白いですし、リレー形式の繋がりを楽しむのもいいです。そうそう、最後の宮内さんの作品で振り出しの宮部さんのお話とリンクするのも面白いです。
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『夜の谷を行く』 桐野夏生

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桐野夏生の『夜の谷を行く』を読み終えました。
物語の材題は、1971年から72年にかけて社会に大きな衝撃を与えた連合赤軍によるあさま山荘事件の前の群馬県山中での凄惨なリンチに発展していった山岳ベース事件がもとになっています。あくまでもフィクションですが、実際に事件にかかわった新左翼組織のメンバーなどは実名ですし、事件の推移も事実に添って展開されます。

私とほぼ同じ年代の団塊世代が起こした事件だけに、この事件に参加した者たちが何を考え、どうして参加したのか興味深いものがあります。あの巨大な鉄の球で山荘を破壊しているテレビの映像が今でもはっきりと蘇ってきます。

物語は、連合赤軍の兵士として山岳ベース事件で逮捕され服役した女性が主人公です。過去を隠し淡々と目立たぬよう生きていますが、もとの仲間からの電話、永田洋子の死、そしてあの東日本大震災が起きることで、心の中に少しずつ変化が現れます。

読後感・・・う~ん。主人公が淡々と日常を過ごしている現代の生活ぶりの描写が妙にコミカルで面白いだけに、45年前の山岳ベースでの非人道的な暴力行為の凄惨さがより深く浮き彫りになって背筋が寒くなるような気がします。ありえないことでしょうが、自分があの山岳ベースにいたらどのように振る舞っていたかと思いつつ主人公に重ねて読むのも、この本を読むうえで意味があるかもしれません。
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『かがみの孤城』 辻村深月

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装丁がとても綺麗で手にした一冊、辻村深月の『かがみの孤城』。
読み進めるほどに頁を捲る指が前へ前へと早まり、まさに一気読みでした。ほとんど予備知識のない一冊でしたが、今年読んだ中では三本の指に入れたいというか、星5個つけても良いほどに感銘を受けました。ファンタジーミステリーとしての構成がとても巧みですし、なにより辻村さんのリズミカルな文章が読むほどに心地よさを感じさせます。

物語の主人公は中学一年生「こころ」です。ある出来事をきっかけに学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしています。ある日、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこはお城のような不思議な建物の中でした。そこには「こころ」を含め、似た境遇にあるらしい中学生が7人集められていました。このお城の主は、狼の面をつけた少女(オオカミさま)です。彼女が取り仕切るお城は9時から17時までの間であれば現実世界との出入りは自由ですが、お城にいられるのは1年間だけという期限が定められています。そんな彼らには隠された鍵を探し出すという課題が与えられます。

こんなお話で前半部は過ぎていきます。思春期の自分もそんなことで傷ついていたなぁとか、傷つけていたなぁなんて思わせる・・・辻村さんの細かい心の揺れ動きの描写が素晴らしいです。

そして後半部。一転してミステリーの要素が絡んで物語は佳境に達します。もうこれ以上お話しすることは出来ませんので、小説をぜひお読みになってください。個人的ですが、来年の「本屋大賞」にノミネートされる一冊と思っています。出来れば、大賞を取って欲しいなとも思っています。
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『宿命と真実の炎』 貫井徳郎

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寒いですし天気が芳しくありませんので、こんな日は本を読むのが一番ですね。そんなことで先日から読んでいた貫井徳郎の『宿命と真実の炎』を読み終えました。

幼い日に父親が絡んだ警察沙汰で離れ離れになった誠也とレイという義兄(妹)が一方(犯罪者側)の主人公として物語は進んでいきます。大人になって再会したふたりは、警察への復讐を誓い、警察官の連続殺人事件を遂行します。当初、事故や自殺と思われていた連続殺人事件ですが、古い体質の警察組織に翻弄されながらも真実を追い求める女刑事・高城理那と、かつては名探偵とまで言われながらもスキャンダルで警察を追われた西條という男の機微に富んだ推理によって徐々に謎が解かれていきます。
幼い頃に誠也とレイに降りかかった衝撃の出来事、それに対する後悔と贖罪、そして復讐へと向かう内面の心の動きが丁寧に綴られていて、怖いというか凄いです。
犯人者の心理と事件を追う警察の推理が複雑に絡み合い、それが最後は一本の糸で結ばれるという、とても読み応えのある小説でした。
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『院長選挙』 久坂部羊

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久坂部羊の『院長選挙』を読み終えました。
「超エリート大学病院を舞台に、医師たちの序列と差別、傲慢と卑屈だけを描いた抱腹絶倒、本音の医療小説」という触れ込みで、ちょっぴりミステリーの要素も入れた小説です。著者は大阪大学医学部卒業の医師だけあって、大学病院の負の部分を「白い巨塔」ばりに、詳細に描いているところはさすがと思います。ただ、現実の生臭さを打ち消すためなのでしょうが、あまりにも面白可笑しく書き過ぎていて、意図したコメディタッチがちょっと上滑りしている感じの否めないところが残念です。
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『アノニム』 原田マハ

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原田マハの『アノニム』を読み終えました。
キャンバスを床に置いて直接絵具を滴らせるドリップ・ペインティングという独自のスタイルを展開したアメリカの抽象表現主義の画家ジャクソン・ポロックの未発見の絵画を題材にした小説です。物語はこの絵が香港の絵画オークションにかけられることから始まります。落札を狙う非道なコレクターの一味と、ひそかにすり替えを企てるアノニムという義賊のような怪盗集団の虚々実々の駆け引きが読みどころです。ちなみにアノニムのメンバーは、天才エンジニアのオーサム、美術品修復家のネバネス、フランス貴族の末裔オブリージュ、花形オークショニア(競売人)のネゴ、ブルックリンでギャラリーを経営する美女ヤミー、気鋭の建築家ミリ、美術史家でありトルコ絨毯店経営者のエポックという7名。頭文字を並べると、anonyme(作者不詳)になる仕掛けも作者の遊び心が感じられて面白いです。
この『アノニム』という小説はシリーズになりそうな感じがしますが、この次は誰にスポットライトが当てられるのでしょうね。個人的にはシャガールあたりがお話として面白そうな気がしていますが・・・。
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『すいか 1 , 2』 木皿泉

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木皿泉の『すいか1』と『すいか2』、もう10数年も前にテレビドラマ化されシリーズ放映されたようですが、そのシナリオの文庫本です。
朝夕食事付きの人気レトロ下宿「ハピネス三茶」に暮らす血のつながりのない女性4人の日常を描いたお話です。大した事件が起きるわけでもなく、私たちとそれほど変わらない平凡な毎日ですが、その日々の営みの中に明日に繋がる何かを見出していきます。いつもおおらかで、すべてに対してポジティブな「ハピネス三茶」の住民と彼らを取り巻く優しい人々の姿に思わず微笑んでしまいます。木皿作品は、日々ちまちまと生きる市井の人達に優しさと希望を与えてくれるようで大好きです。
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『アキラとあきら』 池井戸潤

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池井戸潤の『アキラとあきら』を読み終えました。
文庫体裁とはいえオリジナルの700頁を超える長編小説ですので相当に読み応えがあり、星を5つあげてもいいくらいに面白いです。そしていつものようにスピーディで歯切れが良くて、読後感も最高です。

共に社長の子として生まれながら、まったく違う境遇で少年時代を過ごした二人の青年の物語です。順風満帆の子供時代を過ごしてきた大会社の御曹司の階堂彬というのが一人目の主人公。そして、零細の町工場の子供として過酷な幼少期を過ごした山崎瑛がもう一人の主人公です。二人は偶然にも同じ大学で出会い、そして同じ銀行に入行した後、そこでの経験を踏まえて才能を開花させ共に優秀なバンカーとして成長していきます。幾多の困難を乗り越えて大会社の社長に就任することになった彬と、メインバンクの融資担当者として支えることになった瑛、2人がタッグを組んで難局を乗り越えていく姿が感動的です。
このように日夜身を粉にして働く男達がいるということに胸が篤くなりますし、窮地に陥った人達を何とか助けようと行動する二人の「あきら」のような青年がいる限りこの国は大丈夫かなと思ったりします。
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『この嘘がばれないうちに』 川口俊和

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『コーヒーがさめないうちに』の続編です。舞台は前作と同じ喫茶店「フニクリ・フニクラ」。ある特定の席に座るとコーヒーが冷めない間だけタイムリープ出来るというお話です。今回も泣けるお話が4つ収録されています。いずれも愛する人を思うがために生み出された優しい嘘にウルウルしてしまいます。こんな心温まる素敵なお話、舞台でもテレビドラマにしてもいいでしょうね。
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『スコーレ No.4』 宮下奈都

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宮下奈都の『スコーレ No.4』を読み終えました。
本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』もそうでしたが、宮下さんの文章は静かな音楽を聴いているような感じで、繊細で丁寧に書かれていて、いいなあと思いながら読んでいました。小さな町の骨董屋で生まれた女の子が、思春期から大人として成長していく日常をスコーレ(学校)に例えて描いた物語です。主人公が過ごした各時代のお話が4つの短編のような体裁をとっており、いずれも私達の日常と同じようにいろいろな出会いや出来事があるもののドラマチックなことは何一つなく淡々と綴られています。そんな中での主人公・麻子が感じる細かな心の動きや周囲から優しく助けられて成長する過程が読みどころです。読後感がとても爽やかですし、女性の方は共感できるところがあるのではと思います。ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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『出会いなおし』 森絵都

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『年を重ねるということは、おなじ相手に、何回も、出会いなおすということだ。人は会うたびに知らない顔を見せ、立体的になる』・・・こんなくだりで始まる珠玉の6つの短編集です。
この物語の登場人物たちは、過去に出会った人にもう一度「出会いなおし」をします。思いを伝えられないままの別れであったり、誤解や負の感情を抱いたままでの別れであっても、時空を超えた思わぬ出会いなおしで、そこに横たわる過去を肯定できるようになっていきます。人生の大切な場面が詰まった6つの素敵な物語、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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『青森県の山』 いちのへ義孝

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山と渓谷社から8/5に発売になる分県登山ガイド『青森県の山』を著者・いちのへ義孝さんから送っていただきましたので紹介いたします。いちのへさんは八甲田連峰をフィールドにして活躍している写真家であり、また山岳ガイド、登山家としても国内外に知られています。
本書は45巻にわたる分県登山ガイドの一冊であり、統一された体裁をとっていることもあって、山の紹介はもちろんのこと、アクセス、登山適期、難易度、アドバイス、チェックポイントなどがとても見やすくレイアウトされています。そして、さすがに山岳写真家だけあって写真がとても綺麗で、山に行かなくても山の写真を眺めているだけでうっとりします。
並んでサインをいただいた志津子さんは奥様であり、本書の取材協力者として山行に同行され、また執筆のお手伝いもされたとお聴きしています。本書のモデル登山者としても登場しています。そうそう、私と志津子さんとは20代の頃からの知り合いであり、東京で一緒に机を並べた仲でもあります。
今年秋にはお二人と一緒に八甲田山系の縦走を予定していますので、とても楽しみです。

本書は全国の主要書店、amazonなどで発売していますので、ぜひお買い求めいただければと思います。なお、集大成の写真集「八甲田山」も発刊すべく撮影が進行中のようです。
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『虹の岬の喫茶店』 森沢明夫

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森沢明夫の『虹の岬の喫茶店』、2014年に映画化されたようですが、心の休まるいい本でした。
まるで岬の突端にある喫茶店に座り、女主人の悦子さんが淹れてくれた美味しい珈琲を飲みながら、窓の外に広がる静かな海を眺めているような錯覚に陥ってしまいます。6つの物語のそれぞれに悦子さんが選曲した曲が流れるのですが、訪れる客の人生に寄り添うような素敵な曲ばかりで、そんな音楽を聴きたくなりますし、虹の岬の絵も描いてみたい衝動にかられます。
物語のモデルとなったカフェは、千葉県鋸南町の明鐘岬に実在しているようですが、どんなところなのでしょうね。行って見たいと思います。 
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『素敵な日本人』 東野圭吾

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東野圭吾の『素敵な日本人』を読み終えました。
バラエティに富んだ9つの短編からなります。いつもながら明快な分かりやすい文章とスピーディーな展開で一気に読めちゃいます。それぞれのお話はストーリーとして面白く、さすが人気作家の東野さんの作品と思いますが、過度に期待するとちょっと物足りないような気がします。いずれの短編も読み終えてからあまり印象に残らないといった感じです。前作の時も思いましたが、やはり長編ものを読みたいですね。
それとタイトルの「素敵な日本人」というのも私にはピンときません。登場人物は主人公も含めて素敵なような素敵でないような・・・タイトルにはちょっと首を傾げたりしています。
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『本を守ろうとする猫の話』 夏川草介

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夏川草介の『本を守ろうとする猫の話』を読み終えました。
「本」と「猫」という取り合わせと、表紙の絵柄が何となくファンタスティックなので手に取った一冊でした。現代版の「銀河鉄道の夜」というだけあって面白かったです。 

高校生の夏木林太郎は祖父を亡くし天涯孤独となるのですが、祖父が営んでいた古書店「夏木書店」に人間の言葉を話す猫が本を助けるために「力を貸せ」と突然やって来るところから物語が始まります。1人と1匹は4つの不思議な迷宮へ彷徨い込んで、本を救うために迷宮の敵と本について議論を繰り広げるというファンタジー風の小説です。

年間の書籍出版数は8万点といわれていますが、そんな本を取り巻く現状に対しての著者なりのメッセージが込められているようです。
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『不時着する流星たち』 小川洋子

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小川洋子の『不時着する流星たち』を読み終えました。
まずもって装画や挿絵がとても美しくて、まるで大人のための童話のような短編集です。過去に実在した風変わりな人物や出来事からインスピレーションを受けて執筆したというファンタジー10編からなっています。誰にも顧みられず世間から押し出されたところでひっそりと生きている人たちを見つけ出し、視野から瞬く間に消え去ってしまうであろうこれら流星たちの欠片を両手の掌の中に掬い上げて慈しんでいるような優しさを感じる作品です。思いを遂げられず不時着せざるを得なかった物語の数々、ぜひお読みになって流星たちの放つ微かな光を感じてみてください。
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『秋山善吉工務店』 中山七里

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中山七里の『秋山善吉工務店』、これも面白くて一気読みです。
活躍するのは昭和のお爺ちゃんこと大工の秋山善吉。べらんめぇ口調で喧嘩が強く、誰もが恐れる頑固者ながらも皆から慕われ人望があります。そんな善吉のもとに、火事で夫と家を失い居場所がなくなった嫁と孫二人が転がり込むことになります。孫や嫁に降りかかる災難を察知して適切に守っていく善吉の男気に溢れる優しさに、当初は苦手意識を持っていた孫や嫁も少しずつ心を開いていきます。物語の後半は、失火の原因究明に警察が絡んで、一転してミステリーの要素が強くなり最後まで目が離せなくなります。中山七里さんの人情ミステリー、読後感も爽やかで、おすすめです。(^^♪
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『山猫珈琲 下巻』 湊かなえ

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湊かなえさんの『山猫珈琲』、上巻に続いて下巻も読み終えました。上下巻とも湊さんのエッセイ集ですが、普段の作品からは見えてこない湊さんの人となりがちょっぴりとうかがわれて面白い2冊でした。「山」「猫」「珈琲」がお好きということで本のネーミングになっているのですが、下巻ではそれらに加え若い頃に青年海外協力隊として赴任したトンガ王国のことやお住まいの淡路島での生活、そして専業主婦から本格的な執筆活動にいたった経緯などにも触れられていて興味深いです。これからプロの作家や脚本家を目指す方にも参考になる一冊と思います。湊さんの初期の頃の作品はほとんど読んでいませんので、あらためて読んでみたいと思っています。
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『山猫珈琲 上巻』 湊かなえ

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湊かなえの『山猫珈琲』の上巻、このエッセイ集もとても面白くて一気読みです。
タイトルの『山猫珈琲』って喫茶店の名前 ?・・・と思っていたのですが、「山(登り)」「(飼い)猫」「珈琲」に癒されて日々の執筆活動に励んでいるという湊さんが、それらの話題も含めてデビューから10年間にわたって書いたエッセイを上下巻2冊に纏めたものです。日々の出来事のあれこれから、お住まいの淡路島の食べ物を主体にした観光情報まで、幅広い話が詰め込まれていて、作品とは一味違った湊さんの素顔がうかがわれてとても楽しい一冊です。これから下巻を読み始めるところです。こちらも楽しそう~。(^^♪
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『れんげ荘物語 ネコと昼寝』 群ようこ

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群ようこのれんげ荘シリーズ3作目『れんげ荘物語 ネコと昼寝』、こういう本は大好きですので一気読みです。
都内の古い安アパート「れんげ荘」で相変わらず自由なひとり暮らしを続けるキョウコさん。無職で貯金を崩しつつ月10万円での生活ながら、美術館や図書館へ行って好きな本を読んだリ絵を観たり、隣室の人生の達人クマガイさんや自由な旅人コナツさんとおしゃべりしたり、近所のネコ「ぶちお」と仲良くお昼寝したりと心穏やかな日々が過ぎていきます。
キョウコさんの住んでいる「れんげ荘」が、私が学生時代に過ごした4畳半のボロアパートでの人間模様ととても似ていて、懐かしいというか貧しいながらいい時代だったなと思い出していました。
モノが溢れたり、仕事で神経をすり減らし疲れ切っている現代人にとっては、ふとこんな暮らしも悪くないかなとも思っています。
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『脇坂副署長の長い一日』 真保裕一

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表紙が妙に漫画っぽい感じでしたので、期待せずに読み始めた真保裕一の『脇坂副署長の長い一日』ですが、意外に面白い小説でした。舞台は地方都市にある警察署、アイドルを迎えての「一日署長」というイベントに合わせるように事件が起きます。副署長の脇坂誠司は、部下の失踪、息子のトラブル、アイドルの薬物疑惑など次々起こる不可解な出来事に翻弄されつつも、一つ一つの糸を手繰り寄せて的確に対処していきます。いくつもの事件や事柄が面白可笑しく絡み合い、一見コメディタッチなのですが、最後は一つに収束する緻密なミステリーであるところが読みどころです。
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『失われた地図』 恩田陸

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直木賞と本屋大賞の2冠に輝いた『蜜蜂と遠雷』とは真逆と言ってよいほどの不思議な世界を描いた連作短編集でした。私の中では『蜜蜂と遠雷』が恩田作品に接した初めでしたので、この方の作風の幅広さには驚いてしまいました。

さて、その物語の舞台となるのは過去に軍の重要な施設があったという錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木の六つの街。世の中に戦争への気運が高まると、これらの街のどこかに裂け目が生まれ、そしてそこから「グンカ」という兵士の亡霊が溢れ出てくるのです。主人公である元夫婦は、血筋として継いだ特殊能力を駆使して「グンカ」を退治し、裂け目を縫うという任務に就いています。

現実とはまったく異なるダークファンタジーの世界を鮮やかに細密に描き出す恩田さんの筆の力はさすがと思いました。ここにきて朝鮮半島の緊迫化にともない現実世界でも軍靴(ぐんか)の音が聞こえて来そうなキナ臭さを感じる昨今、時代の風を感じさせる一冊なのかなと思っています。
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『あさ美さんの家さがし』 黒野伸一

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黒野伸一の『あさ美さんの家さがし』。こういう小説は大好きですので一気読みです。

些細な理由で銀行を辞め、キャバクラ「濱乙女」のナンバーワンになったあさ美をメインに、彼女と繋がりのある男女が繰り広げる人生の喜怒哀楽を綴ったものです。女装を始めたあさ美のお父さん、ホームレスになった幼なじみ、子連れでキャバクラに出勤する若い主婦、ゴミ屋敷に住む高齢のお隣さんなど、港町に暮らす人々が織り成す人生模様を家というモチーフに絡めてオムニバス形式で進めていきます。
人生っていいこと悪いこといろいろあるけど、それほど捨てたもんじゃないと思わせてくれる一冊です。
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『暗幕のゲルニカ』 原田マハ

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原田マハの『暗幕のゲルニカ』が未読でしたが、やっと読み終えることが出来ました。 
物語は1937年4月29日のパリにあるピカソのアトリエ兼住居から始まります。ピカソの愛人で「泣く女」など多くの名画のモデルをつとめた写真家のドラ・マールの視点で「ゲルニカ」誕生のドラマとその後の数奇な運命が描かれていきます。ご存知のように「ゲルニカ」は、パリ万国博覧会のスペイン館のために内戦のさなかにあるスペイン共和国政府の依頼を受けて製作されたもので、バスク地方の小都市ゲルニカでの空爆の惨状を縦横350x780cmの巨大なキャンバスに描いたものです。
物語は並行して二機の旅客機によるテロが起きた2001年9月11日のニューヨークへと飛びます。このテロで夫を失ったピカソ研究者でニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーター、八神瑤子がもう一人の主人公です。
「ゲルニカ」という作品が、20世紀の第二次大戦のさなかに起きたゲルニカ空爆と、イラク戦争の契機となった9・11テロの悲劇をつなげていきます。ピカソや彼を取り巻く人たちの「ゲルニカ」に対する思いと、同時に八神瑤子が企画するピカソ展に纏わる「ゲルニカ」をめぐる策謀が読みどころです。後者の部分は米国大統領や国務長官が架空の名前に置き換えられていますが、ノンフィクションとフィクションが絶妙に絡み合い、最後のクライマックスに近づくにつれ息詰まるような展開になります。骨太の小説で面白かったです。
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『さまよえる古道具屋の物語』 柴田よしき

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柴田よしきの『さまよえる古道具屋の物語』を読み終えました。
見慣れた町の通りに忽然と古道具屋が現れるのですが、それはそれぞれの登場人物が人生の岐路に立った時に限られるのです。気になって入ってみると、年齢も性別も不明な店主から、決まって役に立たない商品を強引に買わせられます。絵と文章がさかさまの絵本、底のないポケットがついたエプロン、取っ手がなく持てないバケツ、お金を入れる口のない金色の豚の貯金箱など。それらの商品を手にした人々の生活は不思議と一変するのです。ファンタジーのようなミステリーのような面白いお話です。
物を集めたり、捨てたり、依存したり、はたまた懐かしんだりと、物に価値を与えるのは人間ですが、個人の思い入れの度合いなどもありますから、物との関係は意外と複雑ですよね。物に限らず何ものにも過度に囚われないことが大切なのかも知れません。
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『桜風堂ものがたり』 村上早紀

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村上早紀の『桜風堂ものがたり』を読みました。
村上さんの文章が頬を撫ぜるそよ風のように柔らかくて爽やかで、読んでいてとても気持ちの良い素敵な本でした。舞台は古い百貨店の中にある銀河堂書店。そこに勤務する月原一整は人とのコミュニケーションが苦手な人間でしたが、書店員としては一目を置かれる存在でした。そんな彼でしたが、少年の万引き事件がきっかけで銀河堂書店を辞めることになります。将来への不安を抱える中、以前よりネット上で親しくしていた桜風堂という書店を営む老人を訪ねて桜野町という小さな町を訪ねるのです。そこで思いがけない出会いが彼を待っています。

本屋さんやそこで働く書店員さんがいかにして本を売り出すのか、その思いや熱意が伝わってくる小説でした。こうして沢山の素敵な本に出合えるのも彼らのお蔭なのですね。桜風堂のある桜野町の描写も素晴らしく、こういう町が実在するならば住んでみたくなりました。心温まるいい本でした。
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『夜行』 森見登美彦

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2016年下期の直木賞の候補にノミネートされていたということで森見登美彦の『夜行』を読んでみました。
友達が失踪してから10年。再び集まった仲間たちが旅先でそれぞれに体験した不思議な話を語りだすところから物語が始まります。彼らが話す一つひとつの体験談には何かよく分からない怪異現象がつきまとうのですが、それは彼ら自らが抱えている後ろ暗い感情と結びついています。一人の銅版画作家が描いた「夜行」と「曙光」という相反する二つの作品の中のパラレルワールドをそれぞれが行き来しつつ、読む者を不思議な世界へといざないます。P30900081
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『花咲小路3丁目のナイト』 小路幸也

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小路幸也の『花咲小路3丁目のナイト』、超面白くて一気読みです。こういう楽しい本は大好きです。
花咲小路商店街シリーズの第4弾。舞台は、CDやDVDのレンタルをしつつ、夜だけのよろず相談所になっている深夜喫茶「ナイト」。店主で自称knight(騎士)の仁太が客から持ち込まれる相談を突拍子もない方法で解決していきます。そんなお店に居候する甥でゲイの望が、賑やかな商店街に繰り広げられる騒動に巻き込まれながらも奮闘していく物語です。
日本中のどこにでもありそうな商店街のお話ですが、この商店街に住んでいる住民がとてもユニークで、何となくほんわかしてきます。こんな昭和レトロを感じさせる商店街に住んでみたいと思いますね。
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『罪の声』 塩田武士

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塩田武士の『罪の声』を読み終えました。
この本も星5個以上をつけてよいほどに読み応えのある素晴らしい小説でした。
主人公は、「グリコ・森永事件」(作中ではフィクションの形をとっているため「ギンガ・萬堂事件」)の特集を組むために再取材を命じられた阿久津英士という冴えない文化部の新聞記者。もう一人の主人公は、父の遺品の中に「グリコ・森永事件」で恐喝に使われた子供の声が録音されたテープを偶然発見する京都でテーラーを経営する曽根俊也という青年。俊也は、このテープに録音された声が自分の子供の頃の声と気づくことから物語が始まります。
前述のように物語の中では、グリコはギンガ、森永製菓は萬堂製菓となっていますし、犯人グループの「かい人21面相」は「くら魔天狗」という名前になっていますが、事件の発生日時、場所、犯人グループの脅迫・挑戦状の内容、その後の事件報道などは、殆ど史実通りに再現されています。
詳しく書きますとネタバレになってしまいますが、阿久津英士と曽根俊也の両者が別々とはいえ執りつかれたように真相に近づいていく構成が巧みで、息詰まるようなストーリーに釘付けになってしまいます。
幸いなことに、「グリコ・森永事件」では直接の犠牲者はいませんでしたが、毒入り菓子がばら撒かれたのは知っての通りです。また、何も知らずに脅迫メッセージを吹き込んだ罪のない子供が3人もいたことも事実ですし、彼らのその後の人生を狂わせてしまったことも許せないことと思います。
塩田さんの渾身の力作ですし、多くの方に読んで欲しい一冊です。

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『草花たちの静かな誓い』 宮本輝

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宮本輝の『草花たちの静かな誓い』を読み終えました。
物語は、米西海岸の超高級住宅街ランチョ・パロス・ヴァーデスというところが舞台です。叔母から40億円を超す莫大な遺産を相続することになった小畑弦矢という青年が、多くの人と出会いながら叔母の秘められた人生に迫るというちょっとミステリータッチの小説です。

薄紫のジャカランダの花が咲き誇るランチョ・パロス・ヴァーデスの輝くような景色が目の前に広がるようで、読んでいて心躍るような気持になっていました。ストーリーはちょっとシリアスなものなのですが、抜けるような青空と、アメリカ建国以前からその場所にあるようなジャカランダの巨木を見た主人公が感じたように、読む者は人間一人一人の来歴がどうでもよいような思いにさせられます。宇宙や植物などの長遠な時間を思う時、私たちの生きている時間はほんの一瞬なのでしょうから、そのように相対化して考えれば、どんな辛いことも悲しいことも少しは和らぐのかなと思ったりします。物語の最後は草花と心を交わす場面で終わるのですが、私もそんな経験をすることがあります。もう少しで北海道も芽吹きの時季を迎えます。明日にでも裏の林の木に声をかけてあげようかなと思ったりしているところです。
宮本輝さん、文章や物語の組み立てなどさすがに上手ですね。
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『みかづき』 森絵都

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森絵都の『みかづき』を読み終えました。
学習塾業界を舞台に、昭和30年代から平成にかけて教育に情熱を傾けた女系家族の3代にわたる奮闘の物語です。小説の中で学ぶ子供達は私とほぼ同世代ですので、私が受けてきた戦後教育の変遷、とりわけ国の定まらない教育政策に振り回された学童や生徒、教育関係者の苦悩を浮き彫りにしているのが印象的でした。
さて、読後感ですが・・・個人的には直前に読んだ恩田陸の『蜜蜂と遠雷』から受けたインパクトがあまりにも強かったせいもあり、こちらは少し退屈といったら言い過ぎですが、ちょっとときめくものが少ないかなと思っていました。戦後から現在に至る教育問題を取り上げているものの、小説の主題は3代にわたって学習塾を守り抜いた家族の物語であり、ところどころでその描写が決まり過ぎというか技巧に走ることが気になったからかも知れません。ただ、ストーリーとしてはホロリとさせられるところがあったりして面白いと思いますので、私の個人的な感想そして嗜好は別にして、お読みになってみてください。
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『静かな雨』 宮下奈都

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宮下奈都の『静かな雨』を読み終えました。
交通事故による高次脳機能障害で新しい経験や情報を覚えられなくなった女性とその傍で彼女の為に生きる青年のお話です。『羊と鋼の森』でも感じた事ですが、宮下さんのゆったりとした日常の描き方がとてもいいですね。宮下さんは人の可能性について書きたかったと仰っていますが、諦めというか可能性を失った先に見える世界を描きたかったのではと私は思っています。『羊と鋼の森』と同様に、丁寧に書かれた文章は美しい旋律を聴くように、とても心地よく心に響いてきます。
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『よるのばけもの』 住野よる

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昨年夏に発刊されて、とても印象深かった『君の膵臓をたべたい』を書かれた住野よるさんの新刊です。
夜になると化け物になる少年と、クラスメイトで苛められている少女の物語です。テーマは、高校という閉じた空間の中でのそれぞれの立ち位置に関わるもので、どこにでもありそうな問題が主題になっています。少年は昼は普通の高校生、しかし夜になると化け物に変身するのです。ただ、昼間の人間の姿をした彼はクラスに蔓延している苛めのルールに逆らうことが出来ないのですが、化け物に姿を変えると、自分の意思で行動し、彼女へも自分の本心を普通に話すことが出来るのです。

私達は誰しも世間や社会の一員として、取り巻く人間関係の中で生きています。往々にして自分の意思を押さえ、周囲に合わせることが生きる上では大切ということも知っています。しかし、その結果として周りの誰かを傷つけたということは時として経験したことがあると思います。
彼女は化け物の彼に「そっちが本当の姿なの?」と訊きます。本当にどちらが人間で、どちらが化け物なのでしょうね。狭い世界から逸脱しないことが大事と思いつつ、そのことに違和感を感じている若い方々にぜひ読んで欲しい一冊です。P20800031
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『三鬼 三島屋変調百物語 四之続』 宮部みゆき

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『おそろし 事始』(2008年7月) 、『あんじゅう 事続』(2012年2月) 、『泣き童子 参之続』(2013年6月)に続く『三鬼 四之続』を読み終えました。
いつものように宮部さんの書く時代物は語り口が優しいですし、読み進めるうちに江戸の街中に紛れ込んだような気さえ起こさせてくれますので、大好きです。
物語は、江戸神田で人気の袋物屋・三島屋の"お嬢さん"おちかが語り部を招き入れてひらいている怪談語り「変わり百物語」が舞台です。今回も4人の語り部が話す不思議なお話で構成されていますが、それぞれが亡き人への愛情だったり、人間の怨念や業の深さなどがもとになっており、強く心を動かされたり、ホロリとさせられたりします。読み応えのあるいい本です。
新しい『三島屋変調百物語』が新聞に連載されていますので、続編の『五之続』として単行本化すると思いますが、次はどんな不思議なお話が出てくるのでしょうね。今から楽しみです。
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『雪煙チェイス』 東野圭吾

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『白銀ジャック』、『疾風ロンド』、『恋のゴンドラ』に続く東野圭吾の雪山シリーズ『雪煙チェイス』を読み終えました。私の中では、前作の『恋のゴンドラ』はあまり好きな内容ではなかったのですが、一転してこちらはスリリングでサスペンス性もあって面白かったです。
東野さんご自身もスノーボードに嵌っておられるようで、さすがにスキー場での描写が素晴らしいです。読んでいますと、あたかも読者自身がパウダースノーを滑っているような気になります。いつものように展開が早いですし、最後にちょっとしたどんでん返しがあったりして、それなりに楽しめます。
新刊ですが、文庫サイズですので、一気に読めちゃいます。
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『蜜蜂と遠雷』 恩田陸

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恩田陸の『蜜蜂と遠雷』を読み終えました。
500頁を超え、しかも上下二段組みですが、一気に読んでしまうほどに面白かったです。平成28年下半期の直木賞の受賞作ですが、この本ほど先を読まずにはいられないという気持ちになったのは久々です。星5個などと云わず、手持ちの星を全部をこの本にあげてよいくらいに心が躍る一冊でした。詳しいことを書きますとネタバレになってしまいますので、帯の紹介をそのまま記載しておきます。

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3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝するジンクスがあり、近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵(かざまじん)16歳。 かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜(えいでんあや)20歳。 音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。 完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?
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上記の4人は闘争心むき出しのコンテスタントではなく、お互いの才能を尊重し、自らにない魅力を互いに感じ取って、音楽的にも人間的にも成長していきます。芳ヶ江国際ピアノコンクールという短い期間のお話ですが、ピアノ曲の解釈が凄いですし、4人のコンテスタントそしてそれを審査する審査員の葛藤など揺れ動く心の描写も見事です。まさに最初から最後まで、コンクールで張り詰めたコンサートホールの真っただ中にいるような感じです。自らがピアニストになったり、審査員になったり、聴衆になったりして・・・。
音楽が題材の小説で、こんなにエキサイティングな気持ちになったのは久々です。

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『上流階級 富久丸百貨店外商部 Ⅰ』 高殿円

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新刊の『上流階級 富久丸百貨店外商部 Ⅱ』を読みたくて、それではということで数年前に発刊された前作の『富久丸百貨店外商部 Ⅰ』から読んでみました。うふふ、面白くて一日で読了です。

物語の舞台は神戸の老舗一流デパート「富久丸百貨店」。ネット通販や量販店が幅を利かせてきつつあるものの、デパートは誰もがワクワクする「夢の宝石箱」であることは間違いありません。私の中の「宝石箱」の思い出は、なんといってもフロアいっぱいの大きなファミリー食堂ですね。食べるのはカレーとかラーメン程度だったと思いますが、子供にとっては美味しいものを食べれる数少ない夢のような場所でした。そんなデパートの外商部でノルマ達成に頑張る唯一の女性社員がこの小説の主人公です。

私のような貧乏人には一生縁のない一流デパートの外商の世界ですが、店の売上の3割以上を占める事実上の屋台骨だとはまったく知りませんでした。高級車が買えるような値段の時計や宝石、着物の販売は勿論のこと、いろいろなパーティ、お葬式、家のリフォームまでありとあらゆる顧客の要望にきめ細かく応える姿勢には驚いてしまいました。それにしましても、外商部が相手をする富裕層というか超セレブの世界というのも凄いですね。
『上流階級 富久丸百貨店外商部 Ⅱ』も楽しみになってきました。
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『 i (アイ)』 西加奈子

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西加奈子の『 i (アイ)』を一気に読み終えました。
主人公は1988年にシリアで生まれたワイルド曽田アイという名前の女性。赤ん坊の頃に混乱のシリアから奇跡的にニューヨークに連れてこられ、米国籍のダニエルと綾子夫婦の養子になって、小学6年生の時に父の転勤にともなって来日します。高校生になり、選ばれた自分の身上と恵まれた環境に罪悪感をおぼえるのですが、そんな彼女に安らぎを与えてくれるのが数学でした。本作のタイトル「i」には虚数という意味もありますが、本文中には通奏低音のように「この世界にアイ(i)は存在しません」というフレーズが何度も語られ、アイの心情を代弁します。

テヘランで生まれ、カイロで育った西さんですから、中東とりわけシリアのことについてお書きになりたかったのでしょうね。些細な子供の悪戯が事の発端だったというシリアの内戦、大国の思惑がぶつかり合い、敵か味方か分からないほどに膨れ上がった武装集団の争い、本当にシリアに平和な日が再び訪れるのだろうかと思ってしまいます。
この小説ではありませんが、自分もなぜ戦火の止まない中東や欧州に押し寄せる難民キャンプの中ではなく、平和で豊かな日本に生まれてきたのか不思議に思うことがあります。誰しも自分の生まれる場所や時代などを選べませんもね。そんな日本も70年ほど前までは同様の戦火で悲惨な状態にありました。母が若い頃に「お前は戦時中に生まれていたら、甲種合格だったね」と呟いていたのが記憶に残っています。ちょっとだけ早く生まれていたら、今頃は桜に錨の金ボタンをつけて海の藻屑と散っていたかもしれません。そんなことを思い出してしまいました。

そうそう、西さんは人と人との繋がりも大事にされているようですね。この小説の主人公の名前は「アイ」、中学校で知り合った親友が「ミナ」、そして原発反対のデモで出会い恋人そして所帯を持つようになる写真家の男が「ユウ」といいます。「アイ」は愛、英語の私、「ミナ」はみんな、そして「ユウ」は友、英語のあなた。何となく西さんの暖かいメッセージを感じてしまいます。

今年の本屋大賞にもノミネートされたようですが、なかなか読み応えのあるいい本です。
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『きらきら眼鏡』 森沢明夫

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2012年に高倉健の遺作になった映画『あなたへ』を観て、とても感銘を受けて気になっていた作家・森沢明夫。彼の小説はまだ読んだことがありませんでしたが、やっと『きらきら眼鏡』を読む機会を得ました。

主人公が買った古本に挟まっていた一枚の名刺が思いがけない運命の扉を開けるところから物語が始まります。ある年の6月から9月にかけて船橋そして房総半島を舞台にした物語で、まるで映画の中の美しい光景を観ているような錯覚に陥るほどに全篇の描写が素晴らしいです。

この小説の登場人物は誰もが傷つきながら、それでも他の人のことを思いやり、そしてその暖かい輪が周囲にも広がっていくという、とても心温まる内容です。この小説のように「きらきら眼鏡」をかけて、たとえ傷つこうともポジティブに前向きに誰かと一緒に生きていけたらいいなと思いますね。読み進めるうちに目が水分過多になってしまい、文字が霞んでしまいました。頁にも名残をつけてしまったかもしれません。(^^♪
森沢明夫さんの本はいいですね。映画化も決定したようですよ。
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『マチネの終わりに』 平野啓一郎

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平野啓一郎の『マチネの終わりに』、久し振りに心に響くような本を読んだ気がしています。


物語は、クラシックギタリストの蒔野と、海外の通信社に勤務する国際ジャーナリストの洋子の出会いから始まります。初めて出会った時から、強く惹かれ合っていた二人ですが、運命のいたずらで行き違いになり、ついに二人の関係は途絶えてしまいます。互いへの愛を断ち切れぬまま、別々の道を歩む二人ですが・・・。
バグダッド、パリ、ニューヨークと目まぐるしく舞台が転換し、その都市の風景や暮らす人々が物語に深みを与えています。また、世界中で繰り広げられている紛争や経済、人権問題なども織り込まれており、否応なしに読者はそれらの諸問題にも目を向けることになります。ただ、闇雲に問題を提起するのではなく、洗練された芸術観、人生観に裏打ちされて物語は展開します。知的で成熟した大人のラブストーリーといって過言ではなく、しかも静謐で丁寧な文章で書かれており、読み応えのある小説です。絶対に読んで欲しい一冊です。

主人公の一人がギタリストということもあり、文中に沢山の音楽作品が登場します。あたかも映像とともに音楽が聴こえてきそうな感じがするのですが、選曲のセンスが素晴らしく、物語に彩を添えています。一番多く登場するのがロドリーゴのアランフェス協奏曲で、この曲をお聴きいただきながら章ごとに登場する曲目を紹介したいと思います。先日紹介したファド歌手のアマリア・ロドリゲスが歌っています。



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『失踪者』 下村敦史

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前作の『生還者』も凄く面白かったのですが、今回の『失踪者』も期待通りの面白さで一気に読んでしまいました。
舞台はペルーのブランカ山群。山岳カメラマンの真山道弘は、シウラ・グランデ峰で10年前に命をおとし、クレバスに置き去りにしてしまった親友を迎えに行ってみると、クレバスに横たわる彼は年を取っていたという衝撃的な出だしで物語が始まります。
クライマーしか知らない専門用語が出てくる山岳ミステリーですが、山の迫力と臨場感の描写が凄く、山を知らない一般の方でも映像を見ているような雰囲気で読み進むことが出来ます。ミステリーとしてのワクワク感もありますし、生命の息吹の感じられない8000m級の高峰の圧倒的な迫力、そして友への友情と信頼が胸を打ついい本です。おすすめの一冊と思います。
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『ヒポクラテスの憂鬱』 中山七里

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前作の『ヒポクラテスの誓い』が昨年10月からWOWOWでドラマ化されており、その続編にあたる『ヒポクラテスの憂鬱』を読み終えましたが、面白かったです。
まず登場人物のキャラクターが面白いです。浦和医大法医学教室の教授・光崎藤次郎、解剖の腕は超一流ながら、口が悪く、頑固で偏屈なうえに短足で歩くのが遅いという強烈な個性の持ち主です。准教授はアメリカ生まれのキャシー・ペンドルトン、解剖好きで医学生時代に光崎のことを知り、日本にやってきました。時々おかしな日本語を話して場の雰囲気を和らげます。そして「試用期間」として入った研修医の栂野真琴、気が強く感情的になる面があります。一方の埼玉県警には捜査一課の刑事として古手川和也がおり、熱血で猪突猛進なところがあります。

物語は埼玉県警のホームページの掲示板にコレクター(修正者)と名乗る人物からの書き込みが寄せられることから始まります。コレクターは事故死や病死で処理されそうな遺体の解剖を促す書き込みをするのですが、それを受けて浦和医大法医学教室は真相を確かめるため解剖を行うというストーリーです。それぞれ異なる事件の6つの短編で構成されていますが、どれもテンポが速く、登場人物の強烈なキャラクターも相まって面白いです。最後にコレクターの本性が明らかになるのですが、それは本書を読んでのお楽しみですね。
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『遠い唇』 北村薫

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北村薫さんの文章が醸し出す気品のようなものが感じられる短編集です。人の情と文学作品、そして上品な謎解きが加わって、とても読後感のいいお話が7つです。日常生活で巡り合う些細な出来事に、奥ゆかしさと茶目っ気たっぷりの暗号めいたものが散りばめられていて、ちょっと遠回りで間接的な表現ながら、この場面にはこういう謎解きがぴったり・・・なんて思いながら読んでいました。
ノスタルジックな香りが漂う「遠い唇」、ちょっと異色で思わず微笑んでしまう「解釈」が個人的には好きでした。
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