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『昨日がなければ明日もない』 宮部みゆき

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宮部みゆきの『昨日がなければ明日もない』は頁を捲る手が早くなり、一気に読んでしまいました。

宮部さんの本はぐいぐい惹きつけられるというか、呑み込まれるような迫力がありますね。心の深いところに潜む堆積物のようなものを描写させたら宮部さんの右に出る人はいません。
この物語も我儘、見栄っ張り、自己中心的、傲慢などの鼻持ちならない嫌な人間がキーマンになっています。こういう常識の欠片もないモンスターのような人間が身近なところにいそうな感じにさせるのもさすがに上手いです。
対極的に主人公で私立探偵業を営む杉村の正義感と善良さ、そして彼が間借りしている大家の竹中一家の「普通」の生活が、前述の嫌な人間の異常性を際立たせています。あくまでもヒステリックにならず、適度な距離感で淡々と描写しており、この静かで重苦しい雰囲気が、逆に物語に迫力を持たせているようにも思えます。

3つの短中編から成り立っています。
ダメな男に惚れた女の末路とその巻き添えで悲劇を迎える夫婦を描いた「絶対零度」、結婚式当日にドタキャンをくらう花嫁とその家族の因果応報を描いた「華燭」、金のためなら我が子まで利用する毒母とその余波を受けた周囲の人たちの悲劇を描いた「昨日がなければ明日もない」の3編です。

帯には〈杉村三郎 VS. “ちょっと困った”女たち〉とありますが、愛情と依存を履き違えて深みに堕ちてゆく女たちの悲劇が圧倒的な筆の力で描かれています。呻るほどに凄いです。
ぜひ読んでみてください。
P3080029

『神のダイスを見上げて』 知念実希人

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知念実希人の『神のダイスを見上げて』を読み終えました。

直径が400kmもあるという巨大小惑星『ダイス』が地球に接近して、あと5日で人類は滅亡するかもしれないという緊迫した状況の舞台設定です。世界各地で無政府状態に陥った国が続出する中、日本でもデモや暴動などが起きて警察や自衛隊が出動する事態になっています。
そんな異常事態の中で、主人公の漆原亮の姉で女子大生の圭子が惨殺されるという事件が起きます。二人だけで暮らしていた亮と圭子は、周りから「シスコン」と言われるほどに姉弟の愛情が深く、それだけに亮の犯人に対する憎しみは半端なものではありません。亮は、巨大小惑星『ダイス』が衝突して人類が滅亡する「裁きの刻」の前に、自らの手で犯人を探し出して復讐をしようと企てるのです。
高校のクラスメートである女の子の協力も得たりして犯人探しをするのですが、思いは空回りするばかりです。刻一刻とタイムリミットに近づいていきますが、彼の周囲では新たな殺人事件が起きたりして、事態は混迷を深めていきます。
そして「裁きの刻」の当日。数時間後に地球の運命が重大局面を迎えるという時になって、亮は本当の犯人を知ることになるのです。それは思いもしないような人物でした。
P3080032

『ゴリラからの警告』 山極寿一

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京都大学総長の山極寿一さんが書かれた『ゴリラからの警告』を読了です。
山極さんは、ゴリラを主たる研究対象として人類の起源を探る世界的な霊長類学者です。

少し前に『ホモデウス』を読んでの感想を書きましたが、今まさに私たち人間は内と外から問い直されている時代のように思います。「内」は私たちの身体そのもの。前回も書きましたようにデザイナーベイビーに代表されるような遺伝子編集によるDNA書き換えが現実味を帯びてきています。そして私たちを取り巻く「外」の社会では、AIやICT機器の登場でコミュニケーションそのものが急速に変わってきていることをあげなければなりません。長い間、人間であることを支えてきた遺伝子とコミュニケーションの根幹が揺らいでいるのですね。
そんなことを「人間社会、ここがおかしい」という副題で、山極さんは丁寧に分かりやすく指摘していきます。人類に近いサルやゴリラから人間社会を眺めてみるという山極さんのアプローチがとても深い意味をもって私たちに語りかけてきます。
P22400141

『ひと』 小野寺史宜

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コロッケ作りの後押しをしてくれた小野寺史宜の『ひと』、読んで良かったです。

ドラマチックなところは一つもなく、天涯孤独になった一人の若者と、彼を取り巻く優しい人たちが織りなす日常を淡々と綴った小説です。文章がとても読みやすいうえに、物語が醸し出す柔らかい雰囲気がとても心地よくて、こういう小説はいいなと思って読んでいました。

主人公の柏木聖輔は20歳の若者です。腕の良い調理師の父は鳥取で店を開くも失敗し、おまけに交通事故で亡くなってしまいます。母は女手ひとつで一人っ子の彼を東京の大学に進ませてくれていましたが、突然急死してしまいます。たった一人になった聖輔は大学をやめ、仕事を探さなければと思いつつも動き出せない日々が続いていました。そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられた砂町銀座商店街の総菜屋で、買おうとしていた最後に残ったコロッケを見知らぬお婆さんに譲るところから物語が始まります。

砂町銀座商店街の庶民的な雰囲気がとても良く描かれていますし、ホンワカとした「ひと」の優しさが心に沁み込んでくる小説です。本屋大賞にノミネートされている一冊、ぜひ読んでみてください。
P22400171

『常設展示室』 原田マハ

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原田マハの『常設展示室』を読み終えたところです。

6つのお話から構成される短編集です。親と子、姉と弟、男と女など・・・それぞれが戸惑ったり悩みながらも力強く生きようとする話しです。以下に掲げるような美術館と絵画がそれらの物語と微妙に絡まり、鮮やかな彩りを添えています。
泣いたり笑ったり、苦しんだり悲しんだり・・・そんな常設展示のような日常の暮らしの中の出来事を珠玉の物語として仕立てています。ぜひ読んでみてください。

そうそう、私たちは特別展や企画展には長蛇の列を作りますが、あまり常設展示には目を向けませんもね。静かな雰囲気の中で、ゆっくりと常設展示室を巡ってみたいと思っています。

第1話「群青 The Color of Life」
・"盲人の食事" 1903年 パブロ・ピカソ ニューヨーク・メトロポリタン美術館蔵

第2話「デルフトの眺望 A View of Delft」
・"真珠の耳飾りの少女" 1665年? ヨハネス・フェルメール マウリッツハイス美術館蔵

第3話「マドンナ Madonna」
・"大公の聖母" ラファエロ・サンツィオ 1505年 パラティーナ美術館蔵

第4話「薔薇色の人生 La Vie en Rose」
・"ばら" フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年 東京・国立西洋美術館蔵

第5話「豪奢 Luxe」
・"豪奢、静寂、逸楽" アンリ・マティス 1904年 パリ・国立現代美術館蔵

第6話「道 La Strada」
・"道" 東山魁夷 1950年 東京・国立近代美術館蔵

P2050009

『針と糸』 小川糸

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小川糸さんのエッセイ集『針と糸』を読み終えたところです。

ベルリンと東京を行ったり来たりしているようで、このエッセイでは主にベルリンでお暮しになっていて感じたことなどが多く書かれています。小川糸さんはラトビアがお好きだったようですが、ベルリンの街並みや佇まいもとても気に入っているようです。

とくに印象深かったのが、第1章の「日曜日の静けさ」でした。ベルリンで暮らして最初に驚いたことは、街中のお店の殆どが日曜日には休みになることだったそうです。街全体がシーンと静かになってしまい、おまけに買い物も出来ず戸惑ったといいます。

そうそう、私と家内も半世紀近く前になりますが、スイスのジュネーブで暮らしたことがあります。もちろん結婚前ですから、お互いに別々に生活をしていました。今でも思い出したように言うのは、スイスと日本の日曜日や休日の過ごし方の違いです。ジュネーブもベルリンと一緒で日曜日は小さなカフェなどを除いてすべてのお店は閉店になります。最初は戸惑うものの慣れてくると小糸さんと同じように静かでいいなと思うようになりました。教会に行く人、野山を散策する人、家で静かに本を読む人、子供と公園で遊ぶ人、日曜マーケットを楽しむ人など、思い思いに日曜日を楽しんでいる人たちを目にしました。ジュネーブは20万人程度の小さな街ですが、ベルリンは350万人もの大きな街ですから、なおさら平日と週末の人の流れなどの違いは大きいのでしょう。

日本のようにお正月も日曜日もかまわず24時間や夜間営業をするコンビニエンスストアやスーパーマーケット、ドラッグストアは便利でいいかも知れませんが、働いている人や社会に与える負の要素などを考えると、このままでいいのだろうかと思ってしまいます。地方都市はそんなでもありませんが、たまに行く東京などは不夜城のようで田舎者には毎日がお祭りをやっているような感じがしますもね。

現在のジュネーブの様子は分かりませんが、スーパーマーケットは私たちが住んでいた当時もあった"coop(コープ)"と"Migros(ミグロ)"程度でしょうし、コンビニに至っては殆どないかあっても僅かなのではないでしょうか。この半世紀近くの間の日本の目まぐるしい街並みと経済の変化、そして殆ど変わっていないのではと思うヨーロッパ、この違いは何なのでしょうね。単なる「石」と「木」の文化の違いだけではないような気がしています。
小糸さんはベルリンには日本的な便利さはないけれど、それ以上に生活は充実して楽しいと仰っています。ベルリンに恋している小糸さんの気持ちがちょっぴり分かるような気がしています。
P2050007

『静おばあちゃんと要介護探偵』 中山七里

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中山七里の『静おばあちゃんと要介護探偵』、痛快で面白かったです。

静おばあちゃんは前作で既に亡くなっていたようですが、時代を2005年に逆戻りさせて再び登場です。物語の主役は、元判事で80歳の高遠寺静と不動産会社「香月地所」を一代で築き上げた70歳の香月玄太郎です。静は名古屋の法科大学に客員教授として迎えられ大学で一般向けの講演をしていたのですが、その際に客席から大声でヤジったのが車椅子に乗った玄太郎でした。玄太郎は、商工会議所の会頭を務めるなど名古屋では立志伝中の人物と言われ、口が悪いものの皆から慕われています。

その老老コンビが、高齢者による詐欺や万引き、老老介護、外国人の不法就労など高齢化や国際化に纏わる5つの難事件に果敢に挑んでいきます。冷静沈着な元判事おばあちゃんと暴走気味ながら情にもろく曲がったことが大嫌いの要介護探偵の凸凹コンビが大活躍します。
P2050001

『キンモクセイ』 今野敏

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今野敏の『キンモクセイ』を読了です。

主人公は警察官僚で30歳の隼瀬(はやせ)という男です。物語は、在日米軍について話し合う「日米合同委員会」に関与していた35歳の法務官僚の神谷が何者かに殺害されるところからスタートします。隼瀬は情報の収集を始めるのですが、同僚の岸本から神谷は殺害される前日に「キンモクセイ」という謎の言葉を残していたと知らされます。しかし、その岸本は隼瀬と会った翌日に遺体となって発見され、隼瀬も岸本殺人の容疑をかけられ警察から追われる立場になります。

「日米合同委員会」と公安組織「ゼロ」の暗躍、そしてコードネーム「キンモクセイ」の謎に迫っていくというストーリーです。著者・今野さん初の警察インテリジェンス小説ということですが、私たちの知らない国政の本質そしてそこで活躍するキャリア官僚の姿が、スピーディーにスリリングなタッチで描かれています。

特定機密保護法と共謀罪が成立したのは記憶に新しいところですし、日米地位協定など旬な問題の核心にも触れた一冊です。ぜひお読みになってみてください。
P2050003

『沈黙のパレード』 東野圭吾

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東野圭吾の『沈黙のパレード』。さすがに面白かったです。

単行本のガリレオシリーズとしては6年ぶり、そして第1作発刊から20年経つそうです。20周年の記念すべきこの一冊は、過去のシリーズ8作を含めて3本の指に入るのではと思える力作でした。

物語のネタバレをしちゃいますと幻滅ですので、「bookデータベース」をそのまま掲載します。

突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は。アリバイトリックは。超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。

登場人物相互の水平的な繋がり、そしてそれを貫く垂直的な時間軸。それらが複雑に絡まるものの何らの齟齬もなく、ぴったりと繋がっていることの見事さに感動しました。440頁ほどありますが、最後の1頁まで油断をしてはいけません。どんでん返しの連続、東野マジック、凄いです。
ここ数年の東野作品は映像化を意識するあまり、あまり面白い作品には出会えないでいました。しかし、この一冊は良く練られた超ワンダフルな作品と思います。
P2050006

『はつ恋』 村上由佳

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村上由佳の『はつ恋』、とても良かったです。(^^♪
村上さんの流れるような綺麗な文章を読んでいると心地よいメロディーが聴こえてくるようです。

物語の主人公は房総の平屋建て古民家で一人暮らしをしているハナです。彼女は40歳代で作家を生業にしています。相方の恋人は幼なじみのトキヲです。歳はハナの一つ下で大阪で大工をしています。二人は幼馴染みで、幼い頃は姉弟のような感じで遊んでいた間柄です。そして二人はそれぞれ別の相手と二度結婚して、二度とも離婚しています。そんな経験をした二人が、ひょんなことで出会い、そして「幼なじみ」「はつ恋」の相手として千葉と大阪を行ったり来たりしながら暮らし始めます。お互いに本音をさらけ出しても、離れていかないという安心というか確信を二人は持っていて、大人の「はつ恋」を静かに楽しんでいます。

南房総の四季折々の景色が目に浮かんできますし、大人の渋い恋心が絡んで、「う~ん」と唸るほどいい小説です。
P2020011

『こころ傷んでたえがたき日に』 上原隆

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上原隆の『こころ傷んでたえがたき日に』は一日で一気読みです。 
月刊誌に100回連載したお話の中から22編を選んで一冊にしたものだそうです。コラムノンフィクション作家の第一人者と言うだけあって市井の人々の人生の悲しみと喜びを、一篇の詩を口ずさむような静かなタッチで描いています。そして昭和の薫りがするような懐かしい心持ちにさせてくれる作品でした。

22編の物語のすべてが実在の方々からのインタビューで成り立っており、老若男女さまざまな人達が登場します。
妻が不倫相手の男の子供を出産したものの別れることなくその子を自分の子として育てようとする30代の男性。中学生の頃から訳あって60年間にわたって新聞配達を続ける74歳の男性。毎日新聞の「仲畑流万能川柳」への投稿を生きがいにする結婚経験のない61歳の男性。腸内がただれて食事ができない難病・クローン病を患う青年とその母親。ギャンブルが原因でホームレスとなり、広告看板に挟まれながら街角に立つちょっと見栄っ張りな53歳の男性。留学直前の娘が殺害され自宅にも放火された「柴又・上智大生殺人事件」の被害者となった69歳の夫婦。などなど・・・。

どんなに苦しくなったり落ちぶれたとしても、人間は明日への希望とささやかなプライドを支えに生きていくのですね。すべての人の人生にそれぞれの物語があり、命の炎が燃え尽きるまで各々の生の物語を投げやりになることなく丁寧に紡いでいくことが大切なのでしょう。

そうそう、連載時の表題はボブ・ディランの「くよくよするなよ (Don't think twice. It's All Right.)」だったのだそうです。うふふ、人生「くよくよするなよ」ですね。(^^♪

何となく元気をもらえるいい本です。ぜひ読んでみてください。
P2020009

『死に山』 ドニ―・アイカ―著 安原和見訳

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ドニ―・アイカ―著 安原和見訳の『死に山』を読了です。「世界一不気味な遭難事故」《ディアトロフ峠事件》という副題がついているノンフィクションです。
読後感想から先に言いますと、とにかく面白いというか興味深い一冊でした。絶対にお勧めです。

事故(もしくは事件)は60年前の今頃の季節(1月~2月)に起こります。旧ソ連体制だった頃のスヴェルドロフスク州内のウラル山脈北部においてスキーでのトレッキングをしていたウラル科学技術学校(現ウラル工科大学)の学生および卒業生(男性7名女性2名)が不可解な出来事に巻き込まれて全員命を落としてしまいます。
一行の最終目的地はオトルテンという山でしたが、不可解な出来事はその10kmほど手前の丘陵地で深夜のキャンプ中に起きました。踏破ルートは氷点下40℃以下、さらに強風に曝されるという悪条件で、難易度が極めて高いと推定されましたが、一行の全員が長距離スキー・トレッキングや山岳遠征の経験を有しており、この探検計画に表立って反対するものはいなかったといいます。

60年前の悲惨な出来事およびその後の捜索の様子、そして2010年から2012年にかけてのドニー・アイカー自身による詳細な現地調査などを織り交ぜ、交互に時代を行ったり来たりしつつ結論へと導いて行きます。

これ以上のことを書きますと本書の面白さが台無しになりますので、このくらいにしておきます。
以下は本書の帯の内容紹介です。

***************************************
959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で起きた遭難事故。
登山チーム9名はテントから1.5kmほども離れた場所で、
この世のものとは思えない凄惨な死に様で発見された。
氷点下の中で衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。
三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの1人は舌を喪失。
遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。
最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ。
地元住民に「死に山」と名づけられ、事件から50年を経てもなお
インターネットを席巻、われわれを翻弄しつづけるこの事件に、
アメリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。
彼が到達した驚くべき結末とは・・・
***************************************
P1190004
本書の面白さは著者の緻密な調査と推理があればこそですが、それを蔭から支えていたのが素晴らしい翻訳といって過言はないと思います。安原和見さんはアガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』など数多くの翻訳書を出版されていることを知りましたが、経歴をみましたら1980年代に東京大学文学部西洋史学科を卒業されているようです。東京大学文学部西洋史学科といいますと、村川堅太郎氏(1907-1991)や伊藤貞夫氏(1933-)など錚々(そうそう)たる名前が挙げられますが、その方々とも一緒に研究をされていたのでしょうね。知的な歴史学に裏打ちされた安原和見さんの他の翻訳本も読んでみたいと思っています。

『一億円のさようなら』 白石一文

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白石一文の『一億円のさようなら』を読了です。

物語の主人公は52歳の加能鉄平という男です。ある日、妻の夏代の不在時にかかってきた弁護士からの電話を機に、驚きの秘密を知ることになります。今から30年前、夏代は伯母から34億円もの巨額の遺産を相続し、うち2億円を投資した株式は時価16億円にもなって、現在は総額で48億円も所有しているというものでした。結婚して20年もの間、なぜ妻はひた隠しにしていたのか鉄平は疑心暗鬼になるのです。ほどなく、その秘密の理由が夏代の口から語られるのですが、「あれは私のお金じゃないの。だから善いことにも悪いことにも、どんなことにも使わないって決めてるのよ」というものでした。
それと時を同じくして、大学生の娘の妊娠や別の地で暮らす息子の同棲など、鉄平にとっては寝耳に水のような家庭内の出来事を知ることになります。これらも夏代から知らされることはありませんでした。そんなある日、夏代は鉄平に「自由に使って。私は娘の様子を見に行く」と言って1億円を手渡して家を出ていくのです。
一方の勤務先の会社は祖父が創業し、先代社長は叔父、現社長は従兄弟という化学メーカーですが、親族である鉄平は社長から邪魔者扱いされています。当然のような社内抗争は激化し業績も低迷しているのですが、そんな折に工場内で大きな爆発事故が起きるのです。
日常の歯車が静かに狂い始める中、鉄平は1億円を抱えて新たな人生を歩んでいくのです。鉄平のその後、夏代との関係、そして化学メーカーの行方など、その先はお読みになってみてください。

550頁に迫る長編ですが、それなりに面白く、割とスラスラと読める小説でした。
ただ、あまりにも物語の筋からそれるというか付随する枝葉の話が多すぎて、読んでいて何となく怠くなってきます。それらをカットして300~400頁くらいまでスリムにしてもいいのではと個人的に思っています。最後のオチは「えーっ。こう来るの」というほど予想外の展開だっただけに、もう少しすっきりした読後感が得られれば一押しにしてもいいかなと思っています。
PC290030

『白いジオラマ』 堂場瞬一

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堂場瞬一の『白いジオラマ』を読了です。
堂場さんの作品ですから面白いかなと思って読んだのですが、ちょっと肩透かしをくらったような感じがしています。1週間ほど前に読み終わった『熱帯』がかなり複雑な内容で頭をフル回転しないと読みこなせない感じでしたので、それとのギャップが大きかったのかも知れませんが、個人的には退屈な小説でした。

物語は、定年退職した元刑事で防犯アドバイザーの麻生和馬が、大学に通わず引き籠り中の孫の将を都内から小田原に呼び寄せ、自身の活動を手伝わせることで自立を促していくといった内容です。行方不明となった高齢者や、ネグレクトなどが原因で家出をした女子中学生の問題などに取り組むなかで、やる気のなかった将の気持ちに少しずつ変化が表れてきます。
頑固一徹で熱血漢の祖父と現代っ子の孫の視点を対比しつつ、現代の家族が抱える問題を浮きぼりにしていきます。
P1190002

『熱帯』 森見登美彦

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ということで、森見登美彦の『熱帯』を読了です。

何とも摩訶不思議というか難解な小説です。物語の中に何層にも別の物語が入っている入れ子の入れ子で、長方形の紙を180度ひねって端と端をくっつけたメビウスの輪のように最後は最初に繋がるという複雑な構造になっています。謎を追うたびに「千一夜物語」が深く関わっていることを知るのですが、あたかも千一夜をトレースしているような、はたまた1001夜(アラビア語写本では282夜)の続きの新しい夜話を聴いているような幻想にとらわれます。舞台は古書店の連なる神保町、大文字焼きの輝く京都、海賊の跋扈する海域、戦争の爪痕残る満州と目まぐるしく変わります。すべての謎は「千一夜」のなかにあり、魔王のような振る舞いをするある男の持つカードケースがその謎の鍵を握っているのです。

誰も読み終わることの出来ない大人の童話『熱帯』、500頁を超えるボリュームがありますが、ぜひ読んでみてください。
PC290033

『フーガはユーガ』 伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の『フーガはユーガ』を読了です。

話題性が高かっただけに期待して読んだのですが、個人的には「ウーン」って感じです。
常盤風我(フーガ)と優我(ユーガ)という双子の男の子の物語です。風我と優我は毎年の誕生日のみ2時間おきに入れ替わるという特異体質を持っています。中身が入れ替わるのではなく、身体ごと物理的に瞬間移動するというのがポイントです。この瞬間移動がいろいろな出来事の場面で効果的に使われ、それに添って物語が進行していきます。
物語は、優我が仙台市内のファミレスで一人の男に語り出すところから始まります。決して幸せでなかった子供時代を回想するなかで、いじめや虐待などひどい状況におかれていたことが明かされます。大切にされなかった2人が大切なものを守るために奮闘する、そんな兄弟愛が読みどころなのかもしれません。
PC290032

『宴の前』 堂場瞬一

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堂場瞬一の『宴の前』を読み終えたところです。

物語はこんな感じです。日本海に面したとある県が舞台です。イメージ的には新潟県あたりが近いように思います。この県の知事、安川美智夫は4期16年を務めあげ、県の定例議会ですでに引退の宣言をしています。しかし後継者指名をためらううち、知事選まであと2ヶ月という時期に意中の副知事が病で倒れてしまいます。一方の対抗馬は16年前の冬季オリンピックで銅メダルを獲得したアルペンスキーの選手、中司涼子です。知名度は抜群ですし、既存の政党のしがらみに縛られない無所属出馬という清新さもあって、前評判は上々です。安川陣営は新たな候補者として現役国会議員の牧野という男を据えようと考えますが、彼には致命的な問題があり、断念せざるを得ません。結果的に安川自らが引退宣言を撤回して中司と選挙戦を戦う決意をするのです。さて、その結末とは・・・。

私たち庶民があまり知ることのない政治と金、選挙戦を左右しかねない地方紙との関係など、選挙の裏側の人間模様がリアルに描写されており、あたかも陣営で選挙戦に加わっているような臨場感があります。小説としては最後の終わり方に物足りなさ感が否めませんが、スイスイと読めちゃいますし、来春には知事選を含めた統一地方選挙がありますので、それに絡めて読むのも面白いです。
PC290027

『ある男』 平野啓一郎

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平野啓一郎の『ある男』を読み終えました。

物語のさわりはこんな感じです。宮崎県のS市で実家の文具店を手伝うバツイチの女性・里枝は林業会社に勤める職人の谷口大祐と店先で出会い、それが切っ掛けで再婚することになります。真面目で優しく働き者の大祐との間にやがて女の子が生まれ幸せに暮らしていましたが、大祐は突然の伐採事故で亡くなってしまいます。生前、実家とは縁を切ったと言っていた大祐でしたが、思うところのあった里枝は一周忌が終わってから実家に報告をすることにしました。しかし、駆けつけた大祐の兄から、写真の男は弟ではないと言われてしまうのです。
頼る人のいない里枝は、前夫との離婚の際に世話になった弁護士の城戸に相談をし、谷口大祐を名乗っていた男が誰だったのか調べてもらうことにします。

自分の過去の人生をデリートし、まったく別の人間の人生を生きたいと思う「ある男」の正体とは、そしてその動機とは・・・。この先は読んでのお楽しみということで。

複雑に絡まる出来事や問題を描写しつつ、そこに生きる様々な人々のアイデンティティを浮き彫りにしていきます。「私とは何か」、それが平野さんのテーマなのですね。
文章がとても読みやすく、またミステリーとしても読み応えのある一冊でした。ぜひ読んでみてください。
PC160001

『ホモ・デウス ㊦』 ユヴァル・ノア・ハラリ

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『ホモ・デウス ㊦』も読み終えました。
歴史学者だけあって、大きな歴史の流れを踏まえ、何がどういう理由で未来につながるのか、そしてその過程がどのような意味を持つのかを分かりやすく読み解いてくれます。なぜ人間は「不死」と「至福」と「神のような力」の獲得を目指すように出来ているのか、過去の歴史から浮かび上がる人間の思考や行動を分析し、その延長線上を生きていくであろうホモ・サピエンスの未来を考えていきます。

まずもって本書を読むにあたって、私たちホモ・サピエンスも太古の昔から延々と続く人類進化の時間軸のなかの一過程にあることを忘れてはならないということです。私たちの知っているホモ・エレクトスやホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)と同様に、あくまでも完成形ではなく、生物学的進化という進行形を歩み続けているヒト属のひとつなのですね。ですから、絶滅しないで生存していれば、いずれ私たちホモ・サピエンスも他の種や亜種に進化というか変化するのが必然といえるでしょう。

本書では一貫して、私たちホモ・サピエンスは「神性」を獲得してホモ・デウスにアップグレードするだろうと予測しています。ここでいう「神性」は、イスラム教やキリスト教などの既存の宗教をさしているわけではなく、「神のような力」と解釈されます。しかも、今までの種の変遷は数万年単位という途方もない時間を経てなされた奇跡的な出来事だったのですが、前述したアップグレードは人為的にしかも超短時間でなされるだろうとハラリは考えています。

AI(人工知能)やナノテクノロジーの進捗は加速度を増すばかりであり、いずれ生物学的に定められた限界を突破するだろうと言います。AIが進歩し、殆どの分野で人間にとって代わった段階では、大多数の人々は存在価値を失い、巨大な「無用者階級」が誕生するようです。人間の人生と経験はかけがえのないものであるという人間至上主義の信念は脆くも崩れ去ることになるといいます。

そのアップグレードするホモ・デウスなるものも、一握りのエリート層だけの特権らしく、前述の不死と至福と神のような力を獲得するのも彼らだけのようです。AIや高度テクノロジーを縦横に駆使出来るのは彼らだけでしょうから、「無用者階級」へと落ちぶれた旧来のホモ・サピエンスは、彼らから切り捨てられたり支配されるのかも知れません。現在でも、多額のお金のかかる高度先進医療などの恩恵を受けられるのは富裕層や特権階級だけであり、お金や権力を持っているものは命さえも買えるといえます。その延長と考えると、この予測もまんざら間違っていないような気がします。

なにやら怖い予測なのですが、ハラリは未来は変えられるという前提で本書を書いています。どのようにすれば、私たちの未来は変えられるのか、ぜひ本書を読まれて考えてみてください。
PC160005

『ホモ・デウス ㊤』 ユヴァル・ノア・ハラリ

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ユヴァル・ノア・ハラリの話題の書『ホモ・デウス ㊤』も面白くて一気読みです。

ハラリが本書で述べていることの要約は次のようなことです。
人類は過去300年の間に「神」至上主義から「人間」至上主義に考え方を変え、人類共通の敵であった飢饉、疫病、戦争というものを葬り去って現在の繁栄を達成したといいます。こう書きますと、皆さんはまだ前述の3つの敵は克服されていないのではないかと異議を申し立てると思いますが、ハラリは以下のように説明します。
まず飢餓についてです。異常気象や内戦などで栄養状態が悪くなっている人々は確かにいるが、その何倍もの人々が過剰栄養による肥満や生活習慣病で悩んでいるといいます。疫病もウィルスなどによる克服されていない疾患が沢山あるが、同様に癌や脳血管系の病気で亡くなる人の方が断然多いといいます。そして最後の戦争。中東などでは依然として血なまぐさい内戦や紛争が起きているが、これもテロや紛争で亡くなる人よりも、先進国を中心とした自殺者の方が圧倒的に多いのだそうです。こうして解説されますと何となく頷いてしまいますね。

さらに遺伝子工学や生命化学、ナノテクノロジーの発展によって、人類が次に向かうのは老化と死の克服へのトライだろうといいます。確かに私たちの周りでは、健康志向やアンチエイジングなどが大流行りですし、太古の昔から「不老不死」というのは人類の最大の願いですもね。私が水泳やサイクリングをするのも一緒かもしれません。

そして、私たち「ホモ・サピエンス」が次に向かう先では、神性を獲得し「ホモ・デウス(神)」にアップグレードするだろうとハラリは予測をするのです。何やら毛色の違った人類に進化するというか変化するという仮説なのですね。それも遠い未来ではないらしいのです。
そういえば、世界で初めて受精卵のゲノム編集操作によって手を加えられた遺伝子を有する双子の女児が中国で誕生したと発表されたのは先月のことでした。いわゆる「デザイナーベビー」なのでしょうが、倫理上の懸念などがあるものの、この手のテクノロジーは進化のスピードを緩めることはないでしょう。ハラリが言うように人類は「神」の領域に踏み入った感じがしますね。そして人為的に変えられた遺伝子は、「デザイナーベビー」にとどまらず私たちの子孫のサピエンスに粛々と取り込まれていくのは言うまでもありません。

本書には、「情動、共同主観、書字、人間至上主義、アルゴリズム」といった何やら難しい言葉が沢山出てきますが、これらをキーワードに人類(ホモ・サピエンス)の未来を考えていきます。

まだ上巻を読んだだけですが、未来はどんな風景になっているのか、ちょっと怖いような気がしています。下巻はこれからですので、また感想を書いてみます。
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『ひとつむぎの手』 知念実希人

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知念実希人の『ひとつむぎの手』も面白くて一気読みです。
都内の私立医科大学病院の心臓外科で過酷な勤務に耐えている平良祐介が主人公です。医局の最高権力者である赤石教授のもとで心臓外科医としての研鑽を積んでいます。将来が約束されている一流関連病院への出向を目論んでいますが、ライバルの出現や医局内の権力争いに巻き込まれたりして、なかなか思い通りにことは運びません。強引に研修医の指導を押し付けられたり、赤石教授に纏わる怪文書に翻弄されたりと、鬱々とした日々を過ごしている平良ですが、そんな日々の出来事の中から少しずつ医師として本来あるべき姿を見出していきます。

「人紡ぎの手」とも読み取れるタイトル。心臓に大切な血液を送り込む冠動脈のバイパス手術で血管を織るように縫い合わせる手ともとれますし、優秀な人材を生み出し育てる手とも解釈できます。一気に読んでしまいたくなるほどにスリリングでエンターテインメント性に富んでいる物語ですが、心優しく懸命に仕事に取り組むひとりの医師を応援したくなる、そんなヒューマンドラマとしても印象に残る一冊でした。

この作品も、本屋大賞に推したいですね。
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『愛なき世界』 三浦しおん

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三浦しおんの『愛なき世界』。まずもって表紙の装丁が素晴らしいですし、恋愛ものと思って手にされた方も多いのではないでしょうか。タイトルからは連想できないような一途に研究にいそしむ若い院生と洋食の世界で道を開こうとしている若者の物語です。
主人公はT大学理学部生物学科(たぶん東京大学)で植物学の研究者を目指す本村紗英という大学院生です。もう一人は本郷キャンパスの赤門近くにある洋食屋・円服亭でコック見習いをしている藤丸陽太という若者です。本村のいる研究室の面々は、よく藤村の勤める食堂を利用したり出前を頼んだりしているのですが、度々会っているうちに藤丸は本村へ恋心を抱きます。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナという植物の研究が好きで、恋などへはまったく関心がありません。当の藤丸は2度もフラれてしまい、店主からは「フラフラ丸」という洒落にもならないあだ名をつけられる始末です。
見かけは殺し屋のような面構えなものの研究熱心で優しい松田教授。私生活は謎だらけですし、喪服のような黒い服しか着ない拘りにも訳があります。そしてイモに惚れ込む隣の研究室の定年間近の老教授。安田講堂の前の生垣にこっそりサツマイモを植えたりしています。そんな何とも愛おしくもちょっと風変わりな学究たちに囲まれて、ひたむきに研究に情熱を燃やす日々が綴られています。

本村たちが研究しているのはシロイヌナズナやサボテンなどの植物。その植物の細胞は、我々を含めた動物の細胞とは些細な構造の違いしかありません。前者の集合体である植物は整然と枝葉を茂らせて繁茂し、「感情」や「愛」とは関係なしに生殖行動が成就します。一方、同様の細胞の集合体である人間はと言えば、複雑な感情や欲望に翻弄される生命体であります。物語は、それらを同一線上に並べて対比し、素朴ながらも混沌とした「愛」や「感情」というもののあり様の不思議さにアプローチしていきます。

柔らかい語り口ながら、研究の手順などは科学的にきわめて精緻に描かれており、「なぜ」という知的好奇心の大事さと、発見の喜びが生き生きと伝わってくる一冊です。そして普遍的な命題である「愛」とはなんぞやということを翻って考えるきっかけが得られるかも知れません。450頁を超える長編ですが、ぜひ読んでみてください。
2度目の本屋大賞ノミネートがありそうな気がしますが、どうでしょう。
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『ボーダレス』 誉田哲也

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誉田哲也の『ボーダレス』を読み終えたところです。
物語は脈絡のない4つのお話が同時並行的に進行していきます。小説家志望の女子高生とその級友のお話からスタートします。そして、舞台は山奥の別荘に変わり、謎の男から逃げる盲目の少女と彼女を支える姉のお話へと続きます。3つ目は音楽家への道を諦め実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との接触を避ける才能あふれる妹のお話です。最後は高級住宅の一室で精神を患って療養している令嬢が、年上の美女と出会い世界を変えられていくというものです。
女子高生達の平和な夏休みの一日で幕を開けた物語は、ほんの少しずつ繋がりながらクライマックスで収斂するという仕組みになっています。タイトルの『ボーダレス』は、そのことを意味していたのですね。
個人的には、小説家志望の女子高生が書いた小説が、現実世界とリンクするというか境目が曖昧(ボーダレス)になっていくようなストーリーを想定していたのですが、その意味ではちょっと期待外れかなと思っています。サスペンスだけではなく、ファンタジーの要素もあったほうが面白いように思うのですが・・・。
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『下町ロケット ヤタガラス』 池井戸潤

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池井戸潤の『下町ロケット ヤタガラス』を読み終えました。
現在、TBSで同ドラマが放映中ですので、詳しいネタバレは避けたいと思いますが、池井戸さんの小説は最初の数ページを読んだだけで物語の全体像と最後の結末のおおよその予想がついてしまいます。でも読まずにはいられないという気持ちになりますので、池井戸小説には惹きつける何かがあるのでしょうね。
今回も佃航平が率いる「善」のチームと、それに対抗する「悪」のチームという分かりやすい構図で、最後はいつものように正義の味方の佃チームが勝つというお決まりのパターンです。
物語は帝国重工の大型ロケットで打ち上げられた準天頂衛星「ヤタガラス」のGPS機能を利用した無人の農業トラクターの開発に纏わるものです。具体的には、佃チームが加わる帝国重工の「アルファ1」とダイダロスが中心となって開発する対抗馬の「ダーウィン」の開発競争です。技術開発というテクニカルなお話ですのでクリーンなイメージがあるのですが、こと人間の我欲や複雑な感情が絡んでくると話はいい方向へ進まないのは世の常です。人間の怨念の凄まじさを感じるか、佃航平の人間味溢れる「善」にホッとするのか、それは読んでのお楽しみということで。
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『星をつなぐ手』 村山早紀

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村山早紀の『星をつなぐ手』は読んで良かったと思える一冊でした。
2016年の『桜風堂ものがたり』の続編になり、2017年の『百貨の魔法』とも関連があります。小さな地方都市の風早市にある老舗の星野百貨店とテナントの銀河堂書店、そして辺鄙な山奥の美しい里、桜野町にある桜風堂書店が舞台です。主人公は月原一整という青年です。田舎の小さな桜風堂書店を継いだ彼が、いろいろな困難に直面しながらも本に纏わる縁で繋がった友人たちの助けを借りて書店を再生していく物語です。
村山早紀さんの文章は、ふんわりと包まれるような優しいタッチでとてもいいですね。登場人物や情景、展開が限りなく美しく、抒情的そしてメルヘンチックに描かれていて、あたかも夢心地で星野百貨店のショーウィンドーや桜風堂書店の店先を覗いているような気持になります。こんな素敵なデパートや書店が近くにあればいいなと思ってしまいます。
読んでいて優しい気持ちになれる一冊、ぜひ本屋大賞にノミネートされて欲しいと思います。
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『任俠浴場』 今野敏

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今野敏の『任俠浴場』は最高に面白かったです。
知りませんでしたが、これはシリーズ物で「任俠書房」、「任俠学園」、「任俠病院」に続く第4作になるそうですね。前の3作もぜったいに読まなくてはと思うほどに傑作でした。

舞台は東京の下町に事務所を構える阿岐本組です。組長の阿岐本雄藏は義理と人情に篤く、昔気質(かたぎ)のヤクザです。ヤクザの寡占化と広域化が進む中、指定暴力団の枠から外れるほどに弱小ということが幸いして、ここまで何とか生き延びてきました。
そんな阿岐本のもとに持ち込まれたのが、赤坂6丁目にある古ぼけた銭湯の再建話でした。阿岐本は代貸の日村たちと浴場経営再建に乗り出すのですが、銭湯経営者の家庭事情や赤坂署のマル暴などが絡んで、ヤクザといえどもそう簡単にことを進めることはできません。でも、そこはヤクザの中のヤクザと言われる阿岐本です。見事に銭湯「檜湯」を庶民の憩いの場に生まれ変わらせるのです。
「世直し」に燃える任俠の物語をぜひ読んでみてください。個性豊かなヤクザたちがとても魅力的です。
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『ブロードキャスト』 湊かなえ

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湊かなえの『ブロードキャスト』、高校生時代を思い出して、懐かしい気持ちで読み終えました。

物語は中学生時代に陸上部に所属し駅伝で全国大会を目指していた町田圭祐が主人公です。陸上の名門・青海学院高校に入学したものの交通事故が原因で断念し、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することになります。陸上への未練を感じつつも、脚本家志望の正也、いじめを受けている正也の同級生の久米という女の子、そして放送部先輩女子たちの熱い思いに触れながら、その面白さに目覚めていくのです。SNSによるいじめ、部活での理不尽な遣り取りなど身近な出来事を乗り越えて、彼らが全国大会出場という大きな目標を目指して真剣に取り組む姿勢が読みどころです。
当然のように登場人物はいろいろなパーソナリティを有していますのでぶつかり合ったりしますが、みんな等身大で活きいきと描かれており、青春っていいなぁと思わせてくれます。現役の高校生にはぜひ読んで欲しい一冊です。
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『みんなちがって、それでいい』 重本沙絵監修

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本は図書館か本好きの知人から借りるなどして、あまり買うことはありませんが、この本だけはすぐ購入しちゃいました。なんたって沙絵ちゃんの本ですからね。(^^♪
小さい頃から努力と工夫を重ねて何でも他の人と同じようにできる力を身につけてきた沙絵ちゃん。ハンドボールからパラ陸上へ転向してリオ・パラリンピックとロンドン世界陸上で感動の銅メダルを獲得したのは記憶に新しいところです。そしてその先にあるのは東京2020パラリンピックです。
パラアスリートとしてここまで成長した彼女ですが、今年の2月に大学の同級生の重本さんという良き伴侶を得て、ひとりの人間として、またひとりの女性として新たな一歩を踏み出したところです。
「あるがままの自分を受けいれたら、自分がもっと好きになりました」という沙絵ちゃん。幼い頃から現在に至るまでのスポーツとのかかわり、両親や仲間からの励まし、素晴らしい指導者との出会い、そしてリオを経て輝かしい未来へと・・・感動の軌跡が綴られています。
将来は体育教師を目指していると言いますが、いろいろな貴重な経験を糧に素晴らしい教育者になることは間違いないでしょう。
思春期を迎えいろいろと悩みをかかえている子供さんにはぜひ読んで欲しい一冊です。小学生でも読みやすい文章ですし、漢字にはルビがふってあります。

ちなみに著者はスポーツジャーナリストの宮崎恵理さんです。ポプラ社、1300円。
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『能面検事』 中山七里

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中山七里の『能面検事』を読み終えました。

大阪地検一級検事の不破俊太郎と、彼のもとに検察事務官として赴任した新米の惣領美晴のコンビが主人公です。周囲の空気を読むようなことはせず、どんな圧力にも屈せず、自らの流儀に則って検事という仕事を粛々とこなす不破は、被疑者は勿論のこと同僚に対しても表情筋を少しも動かすことがないので、仲間内からは「能面検事」と呼ばれています。
検察というところは警察から上がって来た案件を起訴するかどうか決定する機関なのですが、彼はあるストーカー殺人事件を調べるうちに捜査資料が大量に紛失していることを発見します。この一件がやがて大阪府警全体を揺るがす一大スキャンダルへと発展していくのですが、そもそものストーカー殺人事件自体も思わぬ展開へと向かっていきます。ここからはぜひ読んでみてください。
誰に対しても怯むことのない不破俊太郎は「月光仮面」のように正義の味方で超格好いいです。

「能面検事」の不破俊太郎と新米の惣領美晴のコンビによる難事件解決物語はシリーズになりそうな予感がします。小気味が良くてすらすら読めるのが中山七里さんの小説の持ち味ですから、この「能面検事」シリーズにも期待したいですね。面白かったです。
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『大家さんと僕』 矢部太郎

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お笑いコンビ「カラテカ」のボケを担当している矢部太郎さんの『大家さんと僕』が売れていますね。8年前から大家さんの家の2階に間借りしている矢部さん、1階に住む88歳の大家さんとの交流の日々を、4コマ漫画として描いた作品です。大家さんは東京生まれの東京育ち、とても上品な物腰の方で、挨拶は「ごきげんよう」が口癖です。お二人とも一つ屋根の下の二人暮らしがとても楽しいらしく、ほのぼのとした触れ合いが滲み出ています。好きなものは伊勢丹とNHKと羽生結弦くんという大家さん、何となく浮世離れしていていいですね。その大家さん、残念なことにこの8月にお亡くなりになり、矢部さんは大家さんからいただいた手紙に号泣したそうです。
誰もが感じるような人生の哀しみや寂しさがコマの隅から見え隠れしているようで、いい本でした。20万部突破の大ヒットを記録しているといいますし、第22回手塚治虫短編賞を受賞したのも頷けるような一冊でした。
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『ののはな通信』 三浦しをん

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三浦しをんの『ののはな通信』をやっと読むことが出来ました。
1984年、主人公の野々原茜(のの)と牧田はな(はな)は、横浜にあるミッション系の女子校で出会います。頭脳明晰でクールな「のの」と、外交官の家庭に育った天真爛漫な「はな」は、親友から恋人へと進展していきます。
そんな出来事があった日から二人は手紙のやり取りを始めるのですが、その後の30年間に渡る往復書簡(後にメール)のみで、450頁の本書は構成されています。お互いを心の底から愛し、慈しみ、愛するが故に別れ、そして40代になって再会し、昔とは異なる形で愛と理解を深めていくのです。愛、嫉妬、下心など心の葛藤に翻弄される姿を、時とともに移り変わる二人を取り巻く世界と絡めて描いています。

男の私が二人の秘密を覗き見るような感じで、最後まで居心地の悪い思いで読んでいましたが、語り口はとても静かで穏やかなトーンで綴られている小説でした。
本屋大賞にノミネートされるかなと思っていますが、どうでしょうね。
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『人の心に木を植える』 畠山重篤

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加美町のsea to summitシンポジウムで基調講演をされた畠山重篤さんが、交流会の会場で著書の『人の心に木を植える』の販売とサイン会をしていましたので一冊購入しました。

畠山さんは、気仙沼湾でカキ養殖業を営んでいるのですが、「森は海の恋人」の合言葉とともに1989年から気仙沼湾にそそぐ大川上流の室根山で植樹運動を続けています。その活動が今年で30年を迎えることから、今までの軌跡や思いをまとめて刊行したそうです。その間、2011年には「千年に一度」と言われる東日本大震災の大津波に襲われて、お母さんを亡くされ、また養殖設備も壊滅的な被害を受けたそうです。すべてが流され、大量の油に覆われて海は死んだかに見え、一時は絶望的になって漁師を辞めようとさえ思ったそうです。しかし、ひと月半後には奇跡的に魚が戻って来たそうで、これは植林運動によって背景の森林の環境を整えたゆえの成果だったとの確信に至ったようです。
「30年やってきて気が付いたのは、結局は人間に還るということ。科学的な裏付けがわかっても、人間が自然を壊すような生活をしていたら、自然はよくならない」と仰います。植林運動は環境整備という大事な役割と当時に、「人の心に木を植える」という精神運動でもあるようです。

著書にサインをしていただいたら、一緒に写真も撮りましょうということで、並んでファインダーに収まっていただきました。大きくて心優しい方といった印象でした。
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『送り火』 高橋弘希

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第159回の芥川賞を受賞した高橋弘希の『送り火』を読み終えました。
 
主人公は、父の転勤に伴って東京から津軽地方の山間に広がる小さな集落へと引っ越してきた歩という少年です。東京にはない見渡す限りの緑豊かな山々、裾野に広がる田圃と畦道、茅葺き屋根や囲炉裏のある家、そして独特の方言や風習が醸し出す風景に目を瞠ります。今年度限りで廃校になる中学校に転入し、思いのほか簡単に学級の輪の中に溶け込んだ歩でしたが、ほどなくして学級の中心人物の晃がひとりの級友に酷い暴力を振るっている事実を知ることになります。

これ以上のネタバレをしますと、この小説の魅力が半減しちゃいますので、このへんで止めますが、すみずみまで抑制の効いた美しい語り口で綴られた文章からは、登場人物の心理とその場の状景が手に取るように分かります。まさに怖い名作の映画を観ているような感覚にとらわれます。

短編のような短い小説ですが、物語からはいろいろなことが読み取れます。まず、都会から来た者が地方へ向ける身勝手な感傷と蔑視、そして厭なら抜けられるという非定住性。そこから生まれるあくまでも傍観者としての振る舞いや態度。この小説では、いじめの被害者と加害者という単純な括りではなく、俯瞰というか上から目線的な傍観者としての立場に焦点を当てています。ラストでは、そんな傍観者であった歩に対して思いもしないような復讐が待ち構えています。
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『むすびつき』 畠中恵

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ファンタジーミステリー小説の『しゃばけ』シリーズ第17弾『むすびつき』を読んでみました。
病弱な若だんなと、彼に仕える妖(妖怪)たちが協力して事件を解決するという奇想天外な短編集です。
大店である長崎屋の一人息子の若だんなは寝たり起きたりの人間ですが、屋敷に住み付く多くの妖(あやかし)達に愛されてどうにか無事に生きています。今回の5つの物語のテーマは輪廻転生です。数百年、数千年と生き続ける妖達に比べ、人である若だんなの生はせいぜい数十年。お互いの生きる時間が違うのですが、優しい若だんなと可愛い妖達は来世でも一緒に楽しく暮らしたいと願っています。そんな若だんなと妖達が住む長崎屋には、いつも難しい事件が持ち込まれて、てんやわんやの大騒動が繰り広げられます。
お伽話のような、昔の紙芝居を見ているような雰囲気でしたが、人の生き死にや時間というものを考えさせるなかなか深い一冊と思いました。
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『下町ロケット ゴースト』 池井戸潤

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池井戸潤さんの人気小説シリーズで2010年の第145回直木賞を受賞した『下町ロケット』。5年後の2015年に出版になった第2弾は『下町ロケット ガウディ計画』でした。そしてシリーズ最新作となる第3弾の『下町ロケット ゴースト』も面白くて一日で読み終えてしまいました。

今回の主題は農業です。耕運機の変速機トランスミッションのバルブをめぐる佃製作所の開発計画と、その変速機を製作しているベンチャー企業のギアゴーストに仕掛けられた特許紛争に纏わるお話です。今回も佃航平社長の誠実さと神谷弁護士のスカッとさせる敏腕ぶりが読みどころです。

今月末には『下町ロケット ヤタガラス』が発売になりますが、この刊をもってシリーズは完了のようです。
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『ロンリネス』 桐野夏生

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桐野夏生の『ロンリネス』。
前作の『路上のX』が面白かったので期待して読んだのですが、個人的には期待外れでした。

物語の主人公は、都内のタワーマンションに住み、それほどの財力もないのに背伸びをしてセレブ風の生活を楽しむ妻たちです。マンション内にある保育所のママ友なので、それぞれを子供の名前にママをつけて呼び合い、暗黙のうちに何らかのヒエラルキーも存在します。一見幸せそうな妻たちなのですが、本の題名のように皆それぞれに家庭やコミュニティ内で、「孤独」や「孤立」といった気持ちを抱えて過ごしています。その寂しさを紛らわす意味合いもあるのでしょうが、既婚だろうがご近所だろうがお構いなしのママ友たちの不倫のオンパレードが展開されます。当然のように子供を含めてみな傷つくのですが、それでも突っ走っていくママ友の凄さには唖然とさせられます。
私たち中高齢の世代が共有していると思っていた価値観や社会常識が軽んじられているようで、あまり好きにはなれないストーリーでした。孤独で寂しいのなら他にやることがありそうに思うのですが、まあ人それぞれですから仕方がないのかも知れませんね。小説に文句を言ってもしょうがないのですが。(笑)

『ハピネス』のシリーズ続編らしいですからこの続きも出そうですが、まず読まないと思います。
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『ファーストラヴ』 島本理生

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島本理生の『ファーストラヴ』を読み終えました。
『蜜蜂と遠雷』以来、個人的に直木賞受賞作品で心ときめく作品はありませんでしたが、今回(第159回)受賞の本作『ファーストラヴ』は、さすがに読んで良かったと思える作品でした。

ある夏の日、多摩川沿いを血まみれの姿で歩いていた女子大生が殺人容疑で逮捕されるところから物語が始まります。彼女の名前は聖山環菜。刺されて死亡したのは彼女の父親で画家の聖山那雄人。彼が講師を務める美術学校の女子トイレ内での出来事でした。しかし、逮捕後の取り調べで、環菜は犯行を認めたものの動機については本人ですら分かっていないようなのです。
この事件を題材にしたノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士の真壁由紀は、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉とともに、環菜や彼女の周辺の人々への面談を重ねていき、少しずつ真実への手がかりを見出していきます。

全体的に薄ぼんやりとしたミストの籠る舞台の上で演じられているような感じのする小説でした。性的虐待や歪んだ親子関係など、とても重いテーマの物語ですが、静かなタッチで淡々と綴られているのが印象的です。物語の終盤に向かって謎解きのように一つひとつのピースが繋がっていく過程が丁寧に、そしてミステリアスに描かれています。

ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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『焦土の刑事』 堂場瞬一

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堂場瞬一の『焦土の刑事』を読み終えました。
昭和20年3月10日に起きた東京大空襲の日、銀座の防空壕で首に切り傷のある若い女性の他殺死体が見つかるところから物語は始まります。警視庁京橋署刑事で28歳の高峰は捜査に乗り出すのですが、署長から「あれは空襲の被害者で、身元不明ということにする」という思ってもいない指示を受けます。高峰は、特高に本籍を置き警視庁保安課で芝居台本の検閲などに当たっている幼なじみの海老沢にその不満を漏らすのです。そうこうしているうちに、同じ手口で女性の他殺体が防空壕内で連続して見つかるのですが、同様に上層部から捜査に対する圧力がかかるのです。
そして同年8月15日に終戦を迎え、高峰らは新制警察の体制で本格捜査を行うことになります。その結果、ある劇団との接点が浮かび上がるのですが・・・、ここから先は読んでのお楽しみということにいたします。

戦争という狂気のなかで引き起こされた殺人事件をモチーフに、個人の正義と国家の正義のはざまで揺れ動く若き警察官、そして戦争に翻弄された人々の姿を描いています。高峰・海老沢というコンビが活躍するシリーズのようですから、次作も楽しみな一冊になりそうです。
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『噛みあわない会話と、ある過去について』 辻村深月

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辻村深月の『噛みあわない会話と、ある過去について』を読み終えました。
メルヘンチックな装丁の表紙からは想像できないような何とも怖い四つの短編で構成されています。
第1話は男として見てあげられなかった男友達のお話「ナベちゃんのヨメ」、第2話は昔の教え子を傷付けていたことに気づけなかった教師のお話「パッとしない子」、第3話は自分の価値観で縛り続けた母親のオカルト的なお話「ママ・はは」、そして第4話は何となく気にくわないという理由だけで仲間外れにし、それがイジメだとも気づかないまま成人した女に対する復讐のお話「早穂とゆかり」。
タイトル通り、4篇を通して共通するのは、悪気はなしに何気なく発した言葉や良かれと思ってやった行動が、発した側と受け止めた側ではまったく捉え方が違うという、どこにでもありそうながら繊細で難しい問題をテーマにしていることです。気にも留めないような思い出や過去の出来事が、異なる立場や価値観によって、まさに「噛み合わない会話」として現在に蘇り、時を経て因果応報のごとく自分に襲いかかってくるというお話です。
どうしようもなく分かり合えない二人の人間・・・どちらの立場にもなり得そうで、鳥肌が立つような怖さを感じた一冊でした。
『かがみの孤城』とは趣を異にした辻村さんの短編集。ぜひお読みになってみてください。
《図書館からお借りしました》
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『ウォーターゲーム』 吉田修一

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吉田修一の『ウォーターゲーム』を読み終えたところです。
『太陽は動かない』『森は知っている』に続く、「産業スパイ・AN通信」シリーズ第3弾です。 前2作を読んでいませんので、最初ちょっと物語に入り込めなかったのですが、この3作目だけでも充分に楽しめる内容になっています。
冒頭からダムの爆破など少し現実離れしたお話から始まるエンタメ系の小説で、水道事業の利権をめぐる騙し騙されのコンゲーム(confidence game 信用詐欺)がスピーディなタッチで描かれています。国内の水道事業民営化に纏わる政財界の怪しい影、そして国際的な利権が複雑に絡み合う中央アジアの水資源問題と、場面は世界を股にかけて目まぐるしく変わっていきます。ミッションインポッシブルを思わせるスパイたちの情報戦など、ハラハラドキドキの連続ですので、お好きな方には堪らないかも知れません。

話は変わりますが、この7月5日に私たちには十分に知らされないまま、水道法改正法が衆議院本会議で可決されましたね。そう、W杯での日本代表の活躍に湧き、オウム真理教の松本被告ら7名の死刑執行に驚かされた週でした。この小説のように水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みが盛り込まれた法案で、自民・公明両党などの賛成多数で可決されています。海外ではフィリピンとボリビアで民営化が失敗しており、わが国でもこのまま民営化して大丈夫なのだろうかと思ってしまいます。人間が生きていくうえで最低限必要なのは「空気」と「水」ですからね。

《図書館からお借りしました》
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『砂の家』 堂場瞬一

カテゴリ:
堂場瞬一の『砂の家』を読んでみました。
この物語の主人公は、大手外食企業「AZフーズ」で働く30歳の浅野健人です。ある日、父が刑務所から出所するという電話が弁護士からかかってきます。彼が10歳の時に父は事業に失敗して一家心中を企て、結果として母と妹が殺害され彼と弟の正俊は助かります。残された兄弟は犯罪被害者として、また加害者の家族として、絶望的な日々を送ることになります。事件後叔母に引き取られた健人は、犯罪者の子とレッテルを貼られながらも、大学を出て真面目に働き、恋人もできます。しかし、施設に入れられた弟の正俊は、まともな仕事に就けず、正反対の人生を歩んでいます。
そんな弁護士からの通告と時を同じくするように、健人の勤める「AZフーズ」の社長の竹内のもとに誰も知るはずのない竹内の秘密を暴露した脅迫文がメールで届くのです。解決役を任された健人ですが、警察へ届けることを勧める危機管理会社の助言を断り秘密裏に解決しようとします。これには社長の竹内に対する大きな恩義があったからなのです。
父親に対する兄弟の恨み、そして幸せそうな普通の生活を送る兄に対する弟の嫉妬。そんな暗い心の闇を抱えた兄弟の過去と現在を行き来しつつ、竹内社長の複雑な家族環境と「AZフーズ」という会社の内情も絡めながら物語はサスペンスフルに進んでいきます。
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『未来』 湊かなえ

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平成30年上半期の直木賞にノミネートされた湊かなえの『未来』を読み終えました。

物語の主人公は章子という10歳の少女です。ある日、彼女のもとに一通の手紙が届きます。「10歳の章子へ」で始まるその手紙の送り主は、20年後の自分だと書いてあります。その証拠として、未来の章子しか知らないようなことが書かれていましたし、10周年を迎えたばかりの「東京ドリームマウンテン」の30周年記念グッズも同封されていました。その手紙を信じた彼女はその日から未来の章子に返事を書き始めます。未来の章子に問いかけるように日々の出来事をしたためていきます。ただ、未来の章子からは後にも先にもこの一通の手紙だけだったのですが・・・。

10歳の章子が手紙に記したのは、一人の少女を襲ったあまりにも辛い出来事の数々でした。
父をガンで亡くし母は心の病を患っているため、幼い頃から家事を担っていること。学校ではPTAの役員の娘で人気者の実里に目を付けられ、陰湿で執拗なイジメに遭っていること。章子を救う立場にある林という担任教師が歪んだ動機で彼女に手を差し伸べたことが原因で教職を追われたこと。父方の祖母から母が犯したという謂れのない過去の出来事を暴露されたこと。母の新しい恋人の早坂という男からも暴力を受け、自由を奪われたこと。そして、そんな状態から学校にすら行けない状況に陥ってしまったことなど・・・。
そんな辛い現実を「未来の章子」へ向けて淡々と綴っていきます。

章子の両親の抱える不幸な過去と現在を起点に、章子を支える教師や章子と同じような悩みを抱える友人をも巻き込みながらストーリーは進んでいきます。性的虐待、精神崩壊、家庭内暴力、イジメ、殺人、放火、自殺など小説とはいえ目を背けたるような不幸の連鎖が続きます。
この物語に登場する子供たちが苦しんでいる原因は、自分の都合や欲望で子どもを振り回す身勝手な大人たちにあるのですが、一方で子供たちが未来を信じることができるように温かい救いの手を差し伸べる大人たちの存在も用意されています。

「未来の章子」からの手紙は本物なのか。手紙に書かれていた「悲しみの先には光さす未来が待っています。それをあなたに伝えたくて」という文面を信じていいものなのか。
それは読んでのお楽しみということで。
ちょっと悍(おぞ)ましい描写の連続ですが、ミステリーの要素はさすがに面白くて一気に読めちゃいますので、ぜひ読んでみてください。
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『あやかし草紙』 宮部みゆき

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宮部みゆきの『あやかし草紙 三島屋変調百物語・伍之続』を読み終えました。
550頁を超える分厚い長編小説ですが、面白くてほぼ一気読みです。
これまでに4巻刊行されている人気シリーズですが、この巻で26話になりました。いつものように江戸は神田の筋違御門先にある袋物をあつかう三島屋で、風変わりな百物語を続けるのが、このお店の主人の姪のおちかです。実家は川崎宿にある旅籠の丸千で、訳あって三島屋へ身を寄せ、お手伝いをしながら、語り手の聞き手として務めをしています。今回も口入屋の灯庵という老人の周旋で語り手が三島屋へ訪れることから物語が始まります。
「開けずの間」、「だんまり姫」、「面の家」、「あやかし草紙」、「金目の猫」の5話。
・・・語って、語り捨て。聞いて、聞き捨て・・・
欲望、憤怒、怨念、嫉妬、妄執、後悔など、人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業の深さを思い知らされます。そしてそれらを超えたところでの人間の心の温かさも伝わってきます。今まさに猛暑の夏真っ盛り、少し涼む意味でも『これぞ江戸怪談の最高峰』と銘打った物語の数々をお楽しみいただければと思います。体感温度は首筋から背中にかけて、ぞく~っと5℃ほど下がる感じですが、一つの物語を読み終えますと心はほっこりと温かくなりますから、ご安心のほどを。(笑)
そうそう、おちかさんは三島屋から三丁ほど離れた多町二丁目にある貸本屋の瓢箪古堂の若旦那・勘一さんのもとへめでたく嫁いでいくことになります。そんなことで、このシリーズはいったん完結して、次巻からは三島屋の小旦那である富次郎さんが百物語の聞き手を務めることになります。黒白の間で語られる27話からのシリーズも楽しみですね。 
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『風は西から』 村山由佳

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村山由佳の『風は西から』を読み終えました。 

物語は幸せそうなカップルの日常から始まります。同じ大学のサークルで知り合い、夢と希望をもった、ごく普通の若者である藤井健介と伊東千秋がこの物語の主人公です。健介の両親は広島で居酒屋を営んでおり、彼は将来この店を継いで大きくしたいという夢を持っています。ノウハウを学ぼうと就職したのが、大手居酒屋チェーンの「山背」という会社です。この会社を創立した山岡誠一郎というカリスマ経営者に心酔するのですが、入社してみるととんでもないブラック企業だったのです。本社勤務から繁盛店の店長となると生活が一変することになります。度を超えたサービス残業など悪質な労働環境、さらに人格を否定するような吊し上げなどが常態化しています。数ヶ月後、心身ともに疲れ果てた彼は、正常な判断をする精神的な余裕さえ奪われて自死を選んでしまいます。
健介の死後、千秋は彼の両親とともに、このブラック企業「山背」から労災認定と謝罪を獲得すべく奔走することになります。3年9ヶ月にもおよぶ長い闘いでしたが、大切な恋人と最愛の息子を失った小さな個人の思いが、大企業ひいては社会をも動かす大きなうねりとなって広がり、最後には勝利を勝ち取ります。
あらためてブラック企業の悪辣さを思い知らされましたが、若者の過労死や自死の報道を見るたびに、これは氷山の一角なのだろうなと思ってしまいます。「電通」や「和民(※正式には子会社のワタミフードサービス)」での過労死問題を見るにつけ、東証一部上場にあるまじき企業体質と思ってしまいます。このところの異常気象もそうですが、日本いや世界はどうなっちゃったのでしょうね。
最後に吹く西からの風が千秋たちにとって心地いいものだったのが、せめてもの救いだったと思います。
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『ノーマンズランド』 誉田哲也

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誉田哲也の『ノーマンズランド』を読み終えました。

この本はシリーズになっているようで、いずれも姫川玲子という警察官が主人公です。現在は警視庁捜査一課殺人犯捜査係第十一係の主任警部補というのが肩書です。
ひとり暮らしの女子大生がマンションの部屋で扼殺されるという事件が起き、彼女が所轄の葛飾署の特別捜査本部に入り捜査を担当するというくだりから物語がスタートします。そして容疑者を逮捕するのですが、調べが進むにつれ20年前に埼玉県のある街で突然消えてしまった女子高校生の事件とリンクすることが分かり、思いもかけないような事実が浮かび上がってきます。

エンタメ小説かと思いきや、北朝鮮による拉致問題が絡んだり、さらには自衛隊や憲法議論にまで踏み込んでいますので、作者はこのへんのところに読者の眼を向けさせたかったのかなと思っています。戦争によって生じた空白地帯を「ノーマンズランド」と言うらしく、現在の日本は広い意味でのノーマンズランドに近い状態にあるのではと作者は考えているようです。きっと政治や外交が未熟ってことを言いたいのかも知れませんね。

北朝鮮の問題や政治的な議論を絡ませているのはタイムリーで、それなりに理解できるのですが、姫川玲子が大活躍するエンタメ風のこのシリーズに馴染むのかどうか、空回り感もあって個人的には疑問です。ちょっと消化不良気味で面白さが伝わってきませんでした。
《図書館からお借りしました》
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『さざなみのよる』 木皿泉

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木皿泉の『さざなみのよる』。涙と鼻水でグショグショになりながらも一気読みです。
図書館からお借りした本なのですが、涙の粒が一滴くらいは落ちたかもしれません。鼻水はティッシュで鼻栓をしていましたので、大丈夫だと思います。(^^♪

2016年、2017年のお正月にNHK総合で新春ドラマとして放映された『富士ファミリー』をご覧になりご記憶の方は沢山おられると思います。2018年の今年は放映がありませんでしたね。そう、あのドラマの前というか後というか、ともかくドラマのシーンが目に映るような小説です。
しかも、この小説の主人公は小泉今日子が演じた幽霊のナスミが主人公で、彼女が癌に侵されて、今まさに死に向かう病床の様子から物語が始まります。そして、ナスミは静かに旅立っていきます。享年43歳でした。平凡ながら真っ直ぐに信念を通して生きてきたナスミですが、水面にポチャンと石が落ちた時に立つさざ波のように、生前に関わった人たちの心に彼女の思いが広がっていきます。
姉の鷹子や妹の月美、夫の日出男、そしてあの謎の笑子バアさんなど、周辺の人々の内面が丁寧に描かれているのは勿論ですが、ナスミの幼馴染とその妻、ボーイフレンドの妹、そしてかつての同僚など、彼女のことを大切に思い、思われた人たちとの思い出がさざ波のごとく綴られています。第1話から第14話まで泣いたり笑ったりの素敵なお話で凝縮されています。

そうそう、ナスミって名前のことですが、こっそり教えますね。このくらいネタバレしても大丈夫でしょう。もう43年も前の昔のことですが、彼女の父と母が、同居していた笑子バアさんに命名をお願いしたらしいのです。笑子バアさんによると、家族が営む古い商店が「富士ファミリー」、長女が「鷹子」、だから次は「ナスビ(茄子)」だろうということになったらしいのです。でも、当然のように両親は、「その名前では可哀そう」ということで、結果的に笑子バアさんがちょっと折れて「ナスミ」に落ち着いたようです。(笑)

それと、ドラマでは笑子バアさんだけが台所でナスミの幽霊と会って会話していますよね。あれにも秘密があるのですが、これを書いちゃうと叱られそうなので、止めておきます。後のストーリーと大きく関係しますので、ぜひ読んで「ああ、そうだったの」と思ってください。

「よいことも悪いことも受け止めて、最善をつくすッ!」ってナスミの信条ですが、生きてれば沢山の出会いやいいことがありますし、また「生きとし生けるものが幸せでありますように」って思いつつ死んでいくのもそんなに悪くはないな・・・なんて思わせる物語です。
人はさりげなく生まれて死んでいき、しかしそのさざ波は周囲に波紋のように広がり、今ここにあることへの感謝と生きる希望を与える・・・そんなメッセージをナスミは残したような気がしています。

もう、「大人の教科書」にしても良いと思えるような一冊でした。あなたの涙の一滴もページに落としてみてください。本当にいい本でした。
2019年のお正月には『富士ファミリー』の放映があれば嬉しいなと思います。みんなで楽しみに待ちましょうね。(^^♪
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『青空と逃げる』 辻村深月

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辻村深月の『青空と逃げる』を読み終えたところです。
『かがみの孤城』で2018年本屋大賞を受賞した辻村さんの作品だけあって、読み応えのある素晴らしい一冊でした。

主人公は本条早苗という主婦とその息子で小学5年生の力(ちから)です。早苗の夫の拳(けん)とは、ともに都内の小さな劇団に所属していたことがあり、そこで知り合い結婚をしました。3人は平穏に暮らしていましたが、ある日の深夜、夫が乗っていた車が事故を起こしたと警察から連絡が入ります。その後の調べで、人気女優の遥山真輝の運転する車に一緒に乗っていたことが判明し、さらに悪いことに彼女は顔の怪我がもとで入院中に自殺してしまうという悲劇が続きます。遥山と拳のスキャンダルは連日、週刊誌やワイドショーを賑わせ、思わぬ形で事件の関係者になってしまった早苗と力は、真偽の定かでない情報と周囲からの悪意を避けるために東京を離れることを決めます。しかも東京を離れる前日には、力の部屋のクローゼットの中に大量の血に染まったバスタオルと包丁を偶然発見し、早苗は気が動転してしまいます。
様々な要素を載せた物語は、高知の四万十川、兵庫県の瀬戸内海に浮かぶ家島、大分の別府温泉、そして仙台、北海道の大空町へと舞台が移っていきます。遥山の関係者と思われる怪しい者たちの追跡から逃れる二人の逃避行はスリリングですが、行く先々で出会う人たちはいずれも善良で優しく、二人の身を案じて暖かく接してくれます。逃避行の旅でいろいろな人々や出来事に接することで、早苗が母親として日々強くなっていき、思春期の力も健やかに成長していきます。
物語は、早苗と力が交互に主人公になり進んでいきます。夫であり父である拳の行方は終盤まで分からず、また事件の真相も同様に謎に包まれたままの、ちょっぴりミステリー的な要素も絡んで物語は佳境に向かっていきます。そして、最後は感動の結末が待っているのですが、それは読んでのお楽しみということで。
家族の絆、人の優しさを実感できるところが辻村作品に共通する素晴らしさなのかなと思っています。
《図書館からお借りしました》
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『スイート・ホーム』 原田マハ

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原田マハの『スイート・ホーム』。今まで読んだ作品とは少し趣きが違いますが、ほっこりと温かくなる感じの短編集で、まあまあ良かったと思います。

作品の舞台は、宝塚歌劇団で知られる宝塚にほど近い閑静な住宅街にある「スイート・ホーム」という洋菓子店です。玄関脇にはキンモクセイの木があり、小さな花が咲く秋にはキンモクセイと洋菓子の甘い香りとまじりあって、何とも素敵な空間というか雰囲気を醸し出しています。このお店は表題作の『スイート・ホーム』で主人公として登場する香田陽皆(ひな)の父親がパティシエをしています。家族は職人気質で気の優しい父と自称「看板娘」の母、そして年頃に育った陽皆と妹の晴日(はるひ)の美人姉妹です。宝石のような輝きと、温かみの溢れるスイーツ、そして丁寧な接客が評判を呼んで、地元の超人気店になっています。
香田一家の何気ない日々の暮らしを縦糸に、そしてこのお店を訪れる常連さんとの語らいや姉妹の恋人達との遣り取りを横糸に、それぞれの短編が暖かい視線で丁寧に描かれています。香田一家はもちろんのこと、登場人物のすべての人がいい人で、そして物語の最初から最後までひとつの翳りもない夢のような幸福な風景で彩られています。

読後感は冒頭の感想のように、まあまあいい本なのですが・・・
こんな幸せな日々を過ごしてみたいなと思う反面、こんなお伽話のようなハッピーな生活なんてあり得ないから小説になっているんだという邪念が頭をもたげてきます。甘ったるいスイーツ風の生活ばかりでは食傷気味になるでしょうし、たまには塩辛い煎餅を食べるような生活も交えたほうがいいのではと、臍曲がりのお爺さんは思うのであります。(笑)

そんなことを思って巻末を見ましたら、関西方面の不動産会社のホームページに書き下ろされた小説であるらしいことが分かり、「なるほどねぇ」と頷いてしまいました。確かに、こんな人たちと楽しく超ハッピーな暮らしが待っているなら、この街に住みたいと思う人がいるかもしれませんね。
この手の本がお好きな方は、お読みになってみてください。
《図書館からお借りしました》
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『青くて痛くて脆い』 住野よる

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住野よるの『青くて痛くて脆い』を読み終えました。
『君の膵臓をたべたい』と同様に、お爺さんからするとちょっと青臭いお話なのですが、若者の細かい心理描写が見事で、なかなかいい本でした。

ドライで現実主義的な大学一年生の「僕」こと田端楓が主人公です。彼の信条は、〈人に不用意に近付きすぎないことと、誰かの意見に反する意見を出来るだけ口に出さないこと〉と決めています。そんな引っ込み思案というか積極性に欠ける性格ゆえに入学当初から孤独な日々を送っています。しかし、講義中に理想論を振りかざして周囲を驚かせる同級生の秋好寿乃とひょんなことから仲良くなります。二人は意気投合して、秘密結社のような「モアイ」というサークルを立ち上げます。活動目的は「四年間で、なりたい自分になる」というものでしたが、発足から2年半後には理想からは大きく掛け離れた巨大な就活サークルになってしまいます。そんなサークルに嫌気がさして楓は去っていくのですが、暫くして就活も終え卒業を待つばかりになった頃に、理想に燃えて創立したサークルへの思いが再燃してきます。そして、思いもしないような手段でサークル執行部へ戦いを挑むことになります。
ここまでが前半部までのあらすじですが、読みどころは後半部です。登場人物の心理描写、刻々と変化するお互いの距離感など、静かなタッチですが、読み応えがあります。

キラキラと輝き、いろいろなことに傷つき、そして後悔の連続だった・・・そんな青春時代のあなたをこの小説の中に見出すかもしれません。まさに「青くて」「痛くて」「脆い」青春の一頁を思い出させるいい本でした。本屋大賞にノミネートされるといいなと思っています。
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『魔力の胎動』 東野圭吾

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東野圭吾の『魔力の胎動』を読み終えたところです。 
映画になっている『ラプラスの魔女』の前日譚とのことです。前作を読んでから2年半も経っていますので、どんな内容だったか忘れていましたが、不思議な能力を持つ少女・羽原円華の名前を目にして、あらすじを思い出しました。

本書は5つの短編からなっています。前日譚ということで、前書のストーリーに向かって遡る形になっていますが、人物の登場時期と合わせますと、すべてが過去の物語ではなく、各章が前作と入り乱れているようです。前作と合わせて読まれると、より面白いかも知れません。
ちょっとネタバレをしますと・・・

・「第一章 あの風に向かって翔べ」
ベテランスキージャンパーの坂屋は鍼灸師のナユタの患者です。近頃の坂屋は思うような結果が出せず、幼い息子に胸を張って自分の職業を言えないでいます。ひょんなことから坂屋の手伝いをすることになった円華。彼女の不思議な能力で坂屋の復帰を目論みます。
・「第二章 この手で魔球を」
同じくナユタの治療を受けているプロ野球選手の石黒。彼はナックルボーラーとして球界から重宝されていますが、受け手の捕手が膝を故障し引退を決めるのです。そこで後継として山東を指名するのですが、ある試合で捕り損ねて以来、まったく捕れなくなってしまいます。ここでも円華がある作戦を立てて、彼の立ち直りを試みます。
・「第三章 その流れの行方は」
ある日、ナユタと高校の同級生の脇谷が恩師・石部のもとに挨拶に伺います。そこで、石部の息子が水難事故によって植物状態になり入院していることを知ります。しかも、事故の原因にも訳がありそうなのです。さらに石部の息子は偶然にも円華の父で脳神経外科医師として勤務する開明大学に入院しているのです。混迷を深める石部親子。そんな親子のために円華は一肌脱ぐことになります。
・「第四章 どの道で迷っていようとも」
有名な盲目の作曲家の朝比奈もナユタの患者です。数ヶ月ぶりに朝比奈の元を訪ねたナユタは、朝比奈の世話をしていた助手が亡くなったということを知ります。しかも、朝比奈は「自分のせいで死んだ、私が殺したも同然だ」と言います。助手の死の真相、そしてナユタの過去や彼の秘められた人間性も明らかになります。
・「第五章 魔力の胎動」
前作の『ラプラスの魔女』で描かれた、赤熊温泉での火山性ガスによる不審死が主題です。3年前にも、灰堀温泉で同じように火山性ガスによって親子3人が亡くなるという事故が起きていましたが、その事件の真相が明かされることになります。これは事故だったのか心中だったのか、そして温泉地に現れた不審な行動をする女の目的は何か、青江修介と奥西哲子が奮闘します。

超人気作家の東野さんですが、個人的には内容にも文章にもちょっと物足りなさを感じています。近頃は殆どが映像化されていますので、その流れで書かれているのかなと思ったりしています。2006年の『容疑者Xの献身』や、2012年の『ナミヤ雑貨店の奇跡』などは超面白かっただけに、あの頃のような小説を読みたいなと思っています。
《図書館からお借りしました》
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