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『護られなかった者たちへ』 中山七里

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中山七里の『護られなかった者たちへ』を読み終えました。

物語の舞台は震災後の「ヒト・モノ・カネ」が集まっている仙台です。ある日、全身を縛られたまま放置され、餓死させられるという驚愕の連続殺人事件が起きます。一人目は誰もが善人と認める市の福祉保健事務所職員、二人目はこちらも人格者と名高い現役の県議会議員です。 
この連続殺人事件が起きる数日前にこの物語の主人公である利根という男が7年の刑期を終えて出所していました。利根は知人の生活保護申請を巡って塩釜の福祉職員らと口論になり、相手を殴った上に庁舎に火を放ったことで逮捕され、懲役10年の実刑判決を受け、模範囚として7年で刑期を終えていました。物語は、事件を捜査する県警の刑事の人生とも絡んで複雑に進行していきます。
利根と殺害された二人の接点とは・・・思わぬ展開が待ち受けていますし、最後のどんでん返しが凄いです。
これ以上のネタバレはこの小説の面白さや興味を半減させてしまいそうですので、これくらいにさせていただきます。

ミステリーとしても面白いですが、生活保護を巡る日本の社会福祉制度の問題点に着目して物語が構成されていますので、とても骨太で読み応えがあります。おすすめしたい一冊です。

最後に犯人がSNSに投稿していた犯行声明の一部を掲載させていただきます。(P379~380)
『現在の社会保障システムでは生活保護の仕組みが十全とはとても言えません。人員と予算の不足、そして何より支給される側の意識が成熟していないからです。不正受給の多発もそれと無関係ではありません。声の大きい者、強面のするものが生活保護費を掠り盗り、昔堅気で遠慮や自立が美徳だと教え込まれた人が今日の食費にも事欠いている。それが今の日本の現状です。そして不公平を是正するはずの福祉保健事務所の職員の力はあまりに微力なのです。(中略)護られなかった人たちへ。あなたは決して一人ぼっちではありません。何度でも勇気を持って声を上げてください。』
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『ふたご』 藤崎彩織

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直木賞にノミネートされた藤崎彩織の『ふたご』を読んでみました。
ご存知のように彼女は2011年にメジャーデビューした4人組バンド「SEKAI NO OWARI(セカオワ)」でピアノや作詞作曲、ライブの演出などを担当しています。そんな彼女が演奏活動と掛け持ちで5年という歳月をかけて書き上げた一冊だそうです。

主人公は、中学二年生でピアノの道を進もうとしている西山夏子。学校や友達とうまく関係を結べずにいます。そんな時、独自の感性を持つ一年先輩の月島悠介に出会い、何となく惹かれていきます。しかし、月島は進学した高校を「やりたいことがない」と中退し、心機一転で旅立ったアメリカの留学先からも2週間で帰ってきます。ある日、月島はパニック障害になり、それがきっかけでADHD(注意欠陥多動性障害)と診断され精神科に入院します。
その後、徐々に回復し、夏子が大学生になったころ、「バンドをやる」と夢に向かって歩き出します。夏子も月島に振り回されつつもバンドのメンバーに加わり、紆余曲折を経て成功への階段を歩き始めていく、そんなストーリーです。
1部と2部に分かれており、1部は二人の出会いから夏子が高校を卒業するまでのいわゆる青春篇。そしてバンドを結成して仲間が増え、音楽会社の新人発掘部門に見いだされるまでが2部という構成になっています。

私にとって「SEKAI NO OWARI」は、NHKの「紅白」でたまたま聴いたくらいの知識しかありませんし、当然のようにグループや彼女の音楽ファンでもありません。そんな無知な読者ですが、この小説はほとんど「SEKAI NO OWARI」のメンバーや結成に纏わる実話なのかなと思ったりしています。
個人的に物語にはまったく興味が湧きませんでしたが、藤崎彩織さんの文章はシンプルなうえに日本語が綺麗だなと思って読んでいました。次作はもっと素敵なものを読ませてくれそうで、楽しみな作家さんが増えて嬉しく思っています。
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わぁ~、『かがみの孤城』が大賞受賞

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本日午後7時からの「本屋大賞 2018」の模様をライブ配信で固唾をのんで観ていました。
結果は、予想通り辻村深月さんの『かがみの孤城』でした。
投票数はダントツ(651.0点)で、2位(盤上の向日葵 283.5点)に大差をつけての文句なしの受賞でした。
もう嬉しくて、ひとりで祝杯をあげていました。(^^♪
いろいろな文学賞がありますが、「本屋大賞」が一般読者の皮膚感覚に一番近いような気がしますね。
まだ、読まれていない方は、ぜひお読みになってください。
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輝く「2018年 本屋大賞」に選ばれるのは・・・

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全国の書店員が選ぶ「2018年 本屋大賞」が、明日4月10日午後7時に発表されます。
今年で15回目になり、有志の書店員で構成するNPO本屋大賞実行委員会が主催しているのだそうです。書店で働く書店員による投票で決めることはご存知の通りですが、今回は全国の504書店、665人の投票があったそうです。以下の10作品がノミネートされていますが、輝く大賞はどの一冊でしょうね。

・『AX』(伊坂幸太郎)
・『かがみの孤城』(辻村深月)
・『キラキラ共和国』(小川糸)
・『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人)
・『屍人荘の殺人』(今村昌弘)
・『騙し絵の牙』(塩田武士)
・『たゆたえども沈まず』(原田マハ)
・『盤上の向日葵』(柚月裕子)
・『百貨の魔法』(村山早紀)
・『星の子』(今村夏子)

私は『崩れる脳を抱きしめて』は読んでいないのですが、他の9冊は読み終えています。
今回はいずれも力作ぞろいで読み応えのある作品ばかりでしたが、そのなかでもピックアップするとすれば、『AX』『かがみの孤城』『屍人荘の殺人』『騙し絵の牙』『盤上の向日葵』かなと思っています。
そして大賞ですが、これは絶対に辻村深月さんの『かがみの孤城』を挙げたいと思います。
中学生が主人公の物語ですが、年代や性別にかかわらず、楽しく読める内容ですし、ストーリーは勿論のこと、ファンタジーやサスペンス、ミステリー要素などがバランスよく組み込まれていて、とても良かったと思います。500頁を超える小説ですが、辻村さんのリズミカルな文章が読んでいて心地よく、読後感も最高でした。もう、輝く大賞はこの一冊以外にはないかなとまで思っています。
皆さんはいかがでしょうか。ハラハラ・ドキドキしながら発表の瞬間を待っています。
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『七色結び』 神田茜

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講談師の神田山陽のお弟子さんであった神田茜の『七色結び』。こういう楽しい小説は大好きです。
主人公は40代の普通の主婦・矢沢鶴子です。夫は会社員の光太郎。息子は中学生の永亀、そして姑のナナの4人家族です。義父の矢沢永一は数年前に亡くなっています。
彼女は、義父・義母のちょっと華やかな名前の表札の隣に自分たちの「光太郎・鶴子」という時代がかった名前の表札を並べることに躊躇いを感じています。
彼女は、断れない性格から次々と面倒ごとを引き受けてしまうのが常なのですが、ついにはPTA会長までやることになります。これがまた問題続出で大変なことになってしまうのですが、そんな時に姑のナナさんが嵌っているビジュアル系ミュージシャンの会報誌を目にするのです。最初はナナさんのことを呆れていたものの、自分も現実逃避をするかのようにどんどんビジュアル系の深みに嵌っていきます。ミュージシャンの存在を心の支えに硬直化しつつあるPTAを改革しようと奮闘する鶴子さんの活躍が涙ぐましくも痛快です。ストーリーが笑えて楽しいですし、後半には思わぬ展開が待ち受けていますので、ぜひ読んでみてください。軽いタッチですので、すぐ読めちゃいます。
『七色結び』というタイトルは、鶴子さんが内職をしている水引からきています。
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『海馬の尻尾』 萩原浩

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萩原浩の『海馬の尻尾』を読み終えました。

舞台は近未来で、テロで2度目の原発事故が起きてしまった日本という設定です。主人公の及川は粗暴極まりないヤクザで、背中には観音菩薩の刺青、そして身体中に子供時代の虐待の痕と抗争による傷があります。2度目の懲役を終えた及川は酒乱でもあり、組でも持て余されています。ある日、見かねた若頭(かしら)からアルコール依存症を治すように大学病院行きを命じられることから物語が始まります。検査の結果、アルコール依存症だけではなく、反社会性パーソナリティ障害(サイコパス)と診断されます。他の組との抗争から身を隠す必要もあり、しぶしぶ治療プログラムを受け入れて山の中の施設に入所し、そこで様々な患者たちと出会います。その中の一人にウィリアムズ症候群(妖精顔症候群)の少女・梨帆がおり、彼女との触れ合いの中で、及川自身も少しずつ変わっていきます。恐怖心が欠如している男が治療の過程で恐怖心という感覚を覚え、人の顔にも声にも表情があることを学んでいく過程は医学的にも興味深いですし、脳内の認知感情の複雑さというか不思議さには驚かされます。

近未来というこの物語の時代背景において、自衛隊は「自国防衛隊」に改名され、某国で武力衝突を繰り返すという限りなく戦争に近い状況にあります。また同時にフクシマ以上の原発事故後という社会情勢ももう一つの重要なキーになります。読者はこの危機的な社会情勢の中で仕組まれた治療プログラムの本当の意味を最後に知ることになります。500頁に迫る殆どが凄惨な暴力的な描写ですが、全体に喜劇的であり、またミステリー要素もあって読み飽きることはありません。
《図書館からお借りしました》
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『また、桜の国で』 須賀しのぶ

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須賀しのぶの『また、桜の国で』を読み終えました。
昨年の直木賞と本屋大賞の2冠に輝いた『蜜蜂と遠雷』を押さえて、見事に第4回高校生直木賞を受賞した作品ですし、2017年8月から全15回にわたってNHK-FM「青春アドベンチャー」で放送されましたので、ぜひ読んでみたいと思っていました。500頁近い大作ですし、読み応えのある作品で良かったです。

主人公は、ポーランド・ワルシャワにある日本大使館に書記生として着任する棚倉慎(まこと)です。物語の幕開けは慎が乗り込んだワルシャワ行きの電車のコンパートメントです。時代は戦争の色が濃くなる1938年秋のことでした。同じ列車に乗り合わせたユダヤ人のカメラマン、ヤン・フリードマンとひょんなことから同室になります。当時のユダヤ人のおかれた状況は危機的なものでしたし、慎もロシア人の父と日本人の母を持つ混血児という微妙な立ち位置にありましたので、ヤンを見て心を動かされます。
ヤンとの会話の中で、少年の頃にシベリアで保護されて来日したポーランド人孤児の一人、カミルとの思い出が浮かび上がってくるのです。ちなみに、この小説に出てくるイエジ・ストシャウコフスキは実在の人物で、帰国後の1928年に17歳でシベリア孤児の組織「極東青年会」を組織し、自ら会長として活躍したそうです。

のちにこのカミルとも奇跡的に再会するのですが、慎とヤン、カミルの3人は民族や国籍の壁を超え、戦争の惨劇を繰り返してはならないという思いを共有し、1944年のナチス・ドイツの占領に対するレジスタンス「ワルシャワ蜂起」に立ち上がるのです。この「ワルシャワ蜂起」では、20万人にもおよぶ尊い人命が失われ、美しいワルシャワの街も壊滅的な状態に陥ったそうです。
ポーランドとの友誼と現地の人びととの交流を守ろうとする慎の一途な姿、そしてポーランドを舞台にした悲惨な戦闘、ユダヤ人を取り巻く目を覆うほどの惨状など、人間の清濁および歴史の事実を克明に描いた素晴らしい作品でした。

そうそう、この小説にはショパンの『革命のエチュード』が通奏低音のように流れ、重要な役割を担っています。この曲は、時代を遡る1830年にワルシャワがロシアによって制圧された時に起きた「11月蜂起」の際に、パリにいてレジスタンス運動に参加できず敗北感にうちひしがれたショパンが作曲したと言われています。『革命のエチュード』を聴きながら、本書もぜひ読んでいただきたいと思います。
《図書館からお借りしました》
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『駐在日記』 小路幸也

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小路幸也の『駐在日記』。ほんわかと温かい感じの小説で良かったです。
昭和50年、関東のとある田舎町の駐在所に赴任してきた簑島周平さんと彼の奥さんの花さんがこの物語の主人公です。周平さんは前任地の横浜では刑事をしていましたし、花さんは同じく横浜の大学病院で外科医をしていました。花さんは医療にかかわる事件に巻き込まれて利き腕である右手に重傷を負い、勤務医を辞めることになります。そんな花さんに静かな暮らしをさせたくて、周平さんは望んでここ雉子宮の駐在所に勤務することにしました。
4編の連作短編のいずれも田舎の出来事や事件に纏わるお話ですが、心優しい周平さんと花さんのとりなしで平穏というか丸く収まって、思わず「良かったね」と声を出したくなります。
文章も読みやすいですし、優しくてほんわかとさせてくれるいい本でした。
《図書館からお借りしました》
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『キラキラ共和国』 小川糸

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大好きな小川糸さんの『キラキラ共和国』も良かったです。
ツバキ文具店は今まで通りに健在ですし、代書のほうもいろいろな依頼が舞い込んできています。変わったことと言えば、主人公の「ポッポちゃん」こと雨宮鳩子がミツローさんと結婚して守景鳩子になったことと、ミツローさんとともに小学一年生のQPちゃんが家族になったことです。
お隣の明るく元気なバーバラ夫人などに囲まれ、家族三人になった「モリカゲ共和国」のキラキラと輝くような日々を綴っています。ウルウルするような素敵なお話ばかりで、本書を携えて鎌倉の街をのんびり歩きたくなってしまいました。ぜひお読みになってみてください。
《図書館からお借りしました》
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『サハラの薔薇』 下村敦史

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下村敦史の『サハラの薔薇』、面白くて一気読みです。
エジプト考古学が専門の大学准教授の峰という男が主人公です。エジプトで発掘調査中に悲願だった王家の墓を見つけたところから物語が始まります。しかし、石棺の中にあったのは、古代王家のミイラではなく、死後数ヶ月しか経ってないミイラ状の死体だったのです。しかも、考古学的には何の価値もないそのミイラ状の死体が武装グループによって強奪されるという不可解な事件も起こるのです。失意のうちにフランスからの要請による講演に旅立つのですが、その飛行機がなぜか航路を変えてサハラ砂漠に墜落します。わずかに生き残った人々と、オアシスを目指して決死の脱出を図るのですが・・・。
ここからの延々と続くミステリー要素をたっぷり含んだサバイバル・ストーリーが凄いです。
下村さんのいずれの作品も単なるエンタメで終わることはないのですが、本作も世界レベルの大きな社会問題が底流に流れていて、読者は最後にその提起の意味を知ることになります。
サハラ砂漠やアルジェリアの古都を一緒にサバイバルで生き延びるスリリングな臨場感も味わえますし、「オクロの天然原子炉」という耳馴れない不思議な地質学的現象を知ることも出来ますので、面白い一冊でした。
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『屍人荘の殺人』 今村昌弘

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今村昌弘の『屍人荘の殺人』。今期の本屋大賞の10作品の一つとしてノミネートされているだけあってとても面白かったです。

まずもって怪しげな装丁と『屍人荘』というタイトルからして怖そうな印象を受けます。表紙を捲りますと冒頭に本書の登場人物(16名)の紹介と、舞台となる3階建ての山荘の見取り図などが掲載されています。
物語は大学のあるサークルの夏合宿という設定です。この豪華な山荘に集った仲間たちは、思いがけない事件で山荘内に閉じ込められることになり、その中で身の毛もよだつような凄惨な連続殺人事件が起こります。
ミステリーでいうところのいわゆるクローズド・サークルという王道設定なのですが、この小説はそれにとどまらない奇想天外というか斬新な展開が用意されています。あまりにも展開が凄すぎてミステリーとして収拾がつくのかハラハラしますが、最後は謎解きのピースが見事に嵌るところはさすがと思いました。
詳しいことを書いちゃいますと読む楽しみがなくなってしまいますので、これ以上詳細は書きませんが、ホラー要素あり、本格的なトリックあり、そしてミステリーとしても超一級で抜群に面白かったです。
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『俺はエージェント』 大沢在昌

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大沢在昌の『俺はエージェント』を読んでみました。
装丁の面白そうな絵と題名、そして帯の「007になりたい俺と時代遅れの老兵たちの決死の大作戦」という言葉に惹かれて読み始めたのですが、私にはちょっと期待外れの一冊でした。

1960年代の東西冷戦を背景にしたジェームズ・ボンドが活躍する007シリーズ。それに続く二番煎じともいえるB級スパイ小説好きが高じてエージェント(工作員ないし諜報員の意)に憧れる三十間近いフリーターの村井という青年が主人公です。行きつけの大衆居酒屋で常連客の白川というお爺さんと自称・推理作家の大西という男らと一緒にスパイ談議に花を咲かせていると、白川に一本の電話がかかってきます。その電話によって主人公・村井の平凡な日常は終わりを告げることになります。それは23年ぶりに復活した「コベナント」という極秘ミッションの発動だったのです。
村井と白井という40以上も歳の差のある迷コンビが、このミッションによって本格的な工作・諜報の世界に投げ込まれ、次々と襲いくる陰謀や危機に立ち向かっていきます。全体に登場人物などからしてユーモラスで漫画チックなのですが、現代の複雑にして混沌とした世界情勢と日本の世相の捉え方は真面目で的確であり、彼らシークレット・エージェントの活躍が何となくすんなりと受け入れられるのですから不思議です。ただ、最後まで誰が味方なのか敵なのか判然としない500頁超の長編、少し読み疲れの否めない一冊でした。
《図書館からお借りしました》
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『百貨の魔法』 村山早紀

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村山早紀の『百貨の魔法』を読み終えたところです。この本も星5つあげてもいいくらいに面白い小説でした。前作の『桜風堂ものがたり』の銀河堂書店も、この星野百貨店のテナントとして登場します。

風早という街の商店街にある老舗デパートの星野百貨店が物語の舞台です。全国どこの百貨店も同じでしょうが、この星野百貨店も御多分にもれず、時代の波には抗しきれずに閉店が近いのではと噂されています。そんな星野百貨店には金色と銀色の目を持つ幻の白い猫が住んでいて、人々の願い事を叶えるという魔法のような都市伝説があります。百貨店のエントランスに桜の花びらが舞い込む季節、コンシェルジュ・カウンターに芹沢結子という謎めいた女性が就任します。さあ、そこから魔法にかけられたような店員たちの不思議な物語が動き出します。

私のなかのデパートというと函館の『棒二森屋』です。1869年(明治2年)に『金森森屋洋物店』として創業したのが始まりですから、創業150年の老舗中の老舗ということが言えると思います。郊外に大型の本州系大型スーパーが相次いで進出したことなどがあり、1980年代から急速に売り上げを落とし、ついにダイエー傘下に入ったのち、1994年に運営していた『棒二森屋』株式会社は清算・消滅しました。現在もイオン系列として名前はそのままに営業していますが、本館建物の老朽化が激しく、取り壊しを含めて議論されているようです。

・・・60年近くも前の昔々の『棒二森屋』でのお話です。
ハレの日に母に手を引かれてエントランスを通り抜ける感じは、大袈裟に言うとディズニーランドに入り込むような高揚感に溢れたものだったように思い出しています。化粧品、皮製品、高級たばこ、そして地階から立ち上ってくる食品の匂いがまじりあって、何ともゴージャスな雰囲気に溢れている空間に胸が高鳴った記憶があります。書店は勿論のこと、スポーツ用品、小鳥などのペット、楽器などなど何でも揃っていましたし、美味しいものばかりでなかなかメニューを決めきれなかったデパートの食堂、そして極めつけは屋上の遊園地でしたね。そうそう、最上階には小さいながらも映画館もありましたよ。

デパートを一歩外に出ても電車道路には行き交う人で溢れ活気に満ちていました。現在は、櫛の歯が欠けたように空き地が目立ち、シャッターを下ろすお店が増えて、人通りも途絶えている『棒二森屋』界隈ですが、賑やかだった時期を知っているだけに何とも寂しい限りです。私のなかの昭和はどんどん遠くなりつつあります。

・・・再び本の話に戻って。
この『百貨の魔法』も、本屋大賞を受賞して欲しいなと思っています。
あなたの中のキラキラするような思い出のデパートを蘇らせてくれる素敵な一冊です。
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『たゆたえども沈まず』 原田マハ

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原田マハの『たゆたえども沈まず』。これも面白かったです。

まずもって『たゆたえども沈まず』というタイトル。小説の中でゴッホが呟く言葉なのですが、ラテン語で「Fluctuat nec mergitur」と綴るようです。パリ市民であれば誰でも知っているもので、もともとはセーヌ河の船乗りたちのお守りみたいな言葉で「どんな困難があってもたゆたいながら、沈まず負けずに踏ん張る」という意味なんだそうです。

物語は、あのフィンセント・ファン・ゴッホの弟のテオドルス・ファン・ゴッホが一人目の主人公。そしてもう一人は明治初期に単身渡仏した実在の美術商・林忠正の開成学校の後輩で、後に彼の助手となる加納重吉という架空の人物です。兄弟愛で結ばれた弟・テオドルスから見た兄・フィンセントの話を縦軸に、日本文化や美術の紹介に努め高い見識を備えた林忠正を傍から見つめる加納重吉の話を横軸に物語は進んでいきます。
印象派やポスト印象派の画家たちに影響を与えたジャポニスムの仕掛け人である林忠正ですが、良く知られているゴッホ兄弟の物語に豊かな彩りを添えています。表紙の装丁画に使われているニューヨーク市近代美術館(MOMA)の名作「星月夜」は、4人の思いが手繰り結び合って描かれたという設定で物語はドラマチックにフィナーレを迎えます。なお、この作品は、1889年にサン・レミ・ド・プロヴァンスのサン・ポール・ド・モゾル修道院の精神病院での療養中に描かれたものです。

現在、京都市でゴッホ展『巡りゆく日本の夢』が開催されていますが、あわせてご覧になると楽しいと思います。
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『AX アックス』 伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の『AX アックス』も面白かったです。
主人公の「兜 (殺し屋ネーム)」は超一流の殺し屋ですが、家では妻に頭が上がりません。同業者の殺し屋からも「こんな恐妻家だと知ったら、がっかりするやつもいるだろうな」と言われるほどですし、一人息子の克巳も父の弱腰にはあきれています。まして「兜」の昼の顔は普通の文具メーカーの営業マンですから、家族は「兜」がそんな恐ろしい裏稼業をしているとは夢にも思っていません。
克巳が生まれた頃から、「兜」はこの仕事を辞めたいと考えていましたが、この仕事から抜け出すのは簡単ではなく、仕方なく続けています。

物語の中盤までは「兜」を中心に、中盤以降は不慮の死を遂げた「兜」と、歳月を経て家庭を持つようになった克巳がランダムに時間を行き来しつつ交互に語るような形で核心へと進んでいきます。そして、最後のオチが凄いです。

これ以上書きますと、この小説の面白さを奪ってしまいますので、このへんで終わりにしますが、スリリングかつユーモラス、そしてどこか優しさを感じる伊坂ワールドをお楽しみいただければと思います。
《図書館からお借りしました》
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『星の子』 今村夏子

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芥川賞および本屋大賞にノミネートされた今村夏子の『星の子』を読んでみました。
とても平易な文章で書かれていますし、200頁ほどの小説ですから一気に読めてしまいます。

物語はの主人公は中学3年の林ちひろという普通の女の子です。ちひろが幼少時から病弱だったことから両親は怪しげな新興宗教に入会しています。両親は「金星のめぐみ」と称する特別な水を愛飲したり、教団が主催する集会や合宿に積極的に参加したりする熱心な信者です。周囲の親戚などからの勧告があったり、ちひろ自身も両親の行動に時に違和感を持つものの、あえて否定はせずに新興宗教を中心にした生活に順応していきます。

あたかも学校を中心とする「普通」の世界で過ごすより、新興宗教という「怪しげ」な世界にいる時のほうが、ちひろ個人にとっては人間らしく活き活きとしているとさえ思えてきます。ちひろは取り立てて大きな躊躇いもなく、それらのコミュニティを行き来し、物語もどちらへの肩入れをすることもなく淡々と進行していきます。

ちひろの両親のように「愛する家族のために」という麗しい言葉のもとに一蓮托生を選ぶことは正しく美しい行為なのか、はたまた「怪しげ」と「まとも」という価値観をジャッジするのは誰なのかという命題を読むものにつきつけます。

単純なストーリーですが、いろいろな読み方が出来る不思議な一冊です。
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『騙し絵の牙』 塩田武士

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「グリコ・森永事件」をモデルにした小説『罪の声』で数々の賞を受賞した塩田武士。
それ以来になる小説『騙し絵の牙』を読んでみましたが、さすがに塩田さんの文章には唸ってしまいました。文章がとても読みやすいですし、物語の組み立ても素晴らしいと思います。

物語の舞台は大手出版社です。主人公の速水輝也はこの出版社の雑誌編集長であり、俳優の大泉洋さんのイメージをキャラクター化しています。やたらかっこいい大泉洋さん演じる主人公をイメージしつつ読み進める感じです。本書の発案当初から映像化を見据えた「完全アテガキ社会派小説」という触れ込みですので、この奇想天外な面白い企てにちょっと嵌ってしまいます。

書籍離れなど出版業界を取り巻く環境は厳しさを増していますが、速水たちが編集している雑誌も御多分にもれず廃刊の危機に晒されています。時を同じくして上司からの圧力、部下との軋轢、家庭の不和など諸々の問題が噴出してきますが、持ち前の話術とパフォーマンスで何とか乗り越えていきます。

これだけでも物語として面白いのですが、もうひとつ最終盤になってどんでん返しが待っています。「最後は大泉洋に騙される」というキャッチフレーズが本書のウリですが、これは読んでのお楽しみということで・・・。表紙写真の大泉洋さんの影が女性の顔になっているのがお気づきになりましたでしょうか。(^^♪
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『クリスマスを探偵と』 伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の『クリスマスを探偵と』。クリスマスの頃に読みたかったのですが、図書館の順番の関係で今頃になってしまいました。

伊坂幸太郎の文とイラストレーターのマヌエーレ・フィオールの絵による「大人の絵本」といった感じの本です。文はとても短いですので、30分もあれば読めちゃいます。
クリスマス・イヴに父親の浮気を調査するにわか探偵のカールが主人公です。浮気の現場の家を見張る公園で出会った不思議な男とたまたま会話を交わすのですが、その会話の中から少年時代のクリスマスに纏わるいろいろな思い出が蘇ってきます。
なんとなく哀しくて、ちょっぴりメルヘンチックで、そして少しだけミステリアスな絵本です。

伊坂幸太郎が大学生の頃に初めて書いた短篇をもとにリメイクした作品のようです。
《図書館からお借りしました》
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『ねこ町駅前商店街日々便り』 柴田よしき

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柴田よしきの『ねこ町駅前商店街日々便り』。とても面白かったです。
読んでいて心が温まるというかアットホームな感じで、こういう小説は大好きです。

舞台は某県某所を走る私鉄・柴山電鉄の赤字ローカル線の終点・根古万知(ねこまんち)。その昔には太良山炭鉱とそこに働く人々で大いに栄えていたのですが、今は駅前の賑わいは途絶えわずか8店舗ほどが細々と営業するいわゆるシャッター商店街です。
そんな商店街にたったひとつある喫茶店「風花」で働いている愛美という女性がこの物語の主人公です。愛美は地元の大学を卒業したのち東京で就職をし、そして結婚をしたものの3年足らずで別れて、故郷の根古万知へ戻ってきました。
そんな愛美は、ひょんなことから緑色の大きな目と灰色の毛が愛らしい拾い猫を飼うことになります。愛美はその猫を「ノンちゃん」と名付け可愛がるのですが、たまたま「ノンちゃん」が柴山電鉄の一日猫駅長を務めるとSNSなどで情報が拡散し駅は大ブレークすることになります。そして、愛美はその勢いをもって商店街を活性化させるために商店街の人々や仲間を巻き込んで奮闘するというストーリーです。
現在の日本が抱える都市への一局集中と衰退する地方の問題がこの小説の根幹にあるのですが、拾い猫の「ノンちゃん」を中心にいろいろな知恵を出し合って、観光客が訪れてみたいと思うような、そして住民にとっても住みやすいと思う地域活性を模索していきます。

『空には星。足下には地面。木々には甘夏の実。丘にはUFO。シャッターには絵が描いてあり、古びた写真館では芝居が上演される。商店街にはアーティストが住み、駅には猫。それが、私の故郷』と愛美が呟くところで小説はエンディングになります。

450頁を超える長編ですが、いろいろな人間模様が描かれていて面白いです。お勧めの一冊です。
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『逃亡刑事』 中山七里

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中山七里の『逃亡刑事』。ストーリーが荒唐無稽な設定で少し漫画チックなのですが、これはこれで痛快で面白かったです。

8歳の御堂猛という少年が児童養護施設から脱走する途中、千葉県警の組織犯罪対策課の生田巡査が拳銃で殺害される場面を目撃するところから物語が始まります。同じ県警の捜査一課に勤務し、美形ながらもガタイがでかくて男まさりの武闘派なことから「千葉県警のアマゾネス」と呼ばれる高頭冴子がこの小説の主人公「逃亡刑事」です。彼女は警察組織内の軋轢から、この事件の罪を着せられることになります。濡れ衣を着せられた彼女は、目撃者として生命の危険に晒されている猛を連れて逃亡するのですが、広域暴力団の助けを借りたり、日本一カオスな街と言われる大阪A地区に潜伏したりして巧みに追跡をかわします。
最初から真犯人は分かっていますので、ミステリーという要素には乏しいのですが、この逃亡劇がスピーディなうえに奇想天外の展開で最高に面白いです。
《図書館からお借りしました》
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『きのう、きょう、あした』 つばた英子

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映画『人生フルーツ』の「つばた英子」さんと「つばたしゅういち」さんの『きのう、きょう、あした』を読んでいます。
しゅういちさんが、2015年6月に庭仕事を終えて昼休みをしているうちに突然お亡くなりになって、現在は英子さんがお二人の思い出の詰まった72㎡のワンルームでお過ごしになっているようです。しゅういちさんのお食事が陰膳になったくらいで、おひとりになっても日々の営みは以前と殆ど変わらないようです。
英子さんのひと手間の加わった美味しそうなお料理とお菓子、そして四季を彩るいろいろな花々や野菜、何気ない日々の暮らしのひとこまなど読んでいて元気をいただける楽しい一冊です。
私たちもお二人のように楽しく過ごしていけたらいいなぁと思っています。

映画でのワンシーンですが・・・
しゅういちさんが旅立たれたときに、英子さんがしゅういちさんの手を握られて、「しゅういちさん、私がそちらへ行く時までお元気にしていてくださいね」と声を掛けられていたのが微笑ましいというか深く心に残っています。何とも愛らしくて素敵な女性ですね。しゅういちさんが、「僕の永遠のガールフレンド」と仰っていたのが頷けるようです。
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『火定』 澤田瞳子

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澤田瞳子の『火定』を読み終えましたが、星4つ半つけてもいいくらいに感動しました。伊吹さんの『彼方の友へ』も良かったですが、こちらの澤田さんの『火定』も甲乙つけ難いほどに良かったです。う~ん、お二人とも直木賞が取れなかったことが残念でなりません。

時は奈良時代の天平年間、権力者である藤原四兄弟までもが罹患して亡くなった寧楽(奈良)の都・平城京での天然痘のパンデミックが主題になっています。太平年間には、世を震撼させた疫病の他にも旱魃や飢饉、大地震などが続き、これらの大きな出来事が引き金となって聖武天皇の親政や大仏建立などがなされたことが知られています。

遣新羅使が持ち込んだとされる天然痘が徐々に都に蔓延し猛威を奮うところから物語が始まります。原因も治療法も分からないなか、市中の病院「施薬院」では医師やスタッフが次々と担ぎ込まれる膨大な感染者の治療に昼夜をおかず奮闘します。
そんな「施薬院」の外では、疫病を避けて畿内から逃げ出す者、藁にもしがみつこうと「まじない」など怪しい宗教を頼る者、はたまたこの機に乗じて金儲けに走る者など世は混乱の渦に巻き込まれてしまいます。

まさに人間の心の中にある清い部分と濁った部分が、パンデミックという極限の状態のなかで炙り出されることになります。「火定」とは、自らの身体を火の中に投げ入れて死ぬ「火定入滅(かじょうにゅうめつ)」という仏教用語から来ているのだそうです。疫病の流行に対して無力さを感じ、おのれを含めた人間の業の深さを嘆く、主人公のひとり名代(なしろ)の叫びが「火定」という響きの中に聴こえてくるようです。
1300年も前の世の物語ですが、今まさに眼前で繰り広げられているような躍動と恐怖をおぼえる小説です。ぜひ読んでいただきたいと思います。
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『砂上』 桜木紫乃

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桜木紫乃の『砂上』を読み終えました。
何とも息苦しい題材の小説で数ページを読んで投げ出そうかと思ったのですが、そこはさすが直木賞作家の筆の力ですね。先を読まずにはいられないような展開で、結果的には最後まで読んでしまいました。

主人公は北海道・江別市に住む柊令央(ひいらぎれお)という女性です。作家になりたいという夢を抱いて新人賞に応募を続けていますが、まったく展望が開けないままに40歳を迎えています。ビストロ勤務で得る数万円の月収と、元夫からの慰謝料で細々と暮らしていますが、そんな彼女のもとに小川乙三(おとみ)という女性編集者が現れます。乙三は、以前に応募して落選していた『砂上』という小説の書き直しを提案します。この小説は令央の私生活そのものと言ってよい程に生々しい家族関係をモチーフにしたもので、まさに自分の身を削るがごとく赤裸々に書いたものだったのです。人生のどん詰まりに追いつめられたこともあり、あらためておのれの人生を直視しつつ、もがき苦しみながらもハードカバーの新刊を世に送ることになります。

読み進むうちに、令央が書く小説『砂上』と桜木さんの書く小説『砂上』が交錯しその境目が分からなくなってきます。そして終いには、虚構と現実が入り乱れて、何がフィクションで何がリアルなのかも渾然一体となって見極めがつかなくなってきます。何とも不思議な小説です。
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『ミ・ト・ン』 小川糸

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大好きな小川糸さんの『ミ・ト・ン』。この本もいいですね。

物語の舞台は、バルト三国の一つ「ラトビア共和国」、小説の中では「ルップマイゼ共和国」となっています。その小さな国は日本と同じような多神教の国で、すべての物には神や精霊が宿ると信じられています。昔ながらの伝統と自然を守り、つつましく人々は暮らしています。そんな小国にありながら温かい家庭に生まれたマリカという女性の一生を綴った物語です。彼女のそばには美しい毛糸で編まれた手袋・ミトンがいつも沢山あります。ミトンには各々に深い意味のある幾何学文様が編み込まれ、赤ちゃんの誕生や結婚式、人生の終わりなどに送ったり送られたりする習わしがあります。

彼女の初恋の人で、のちに良き伴侶となるヤーニスもラトビア人らしい魅力的な男性です。彼は養蜂家として愛するマリカを支えるのですが、結婚後数年して旧ソ連(小説の中では「氷の国」)に連行されて消息が不明になります。

占領下の苦しい日々に耐えながらも、ヤーニスとの楽しき日々の思い出を胸に笑顔を絶やさなかったマリカの生涯、そして彼女を支えた美しい毛糸の手袋・ミトンの存在が心に残ります。ラトビアの美しい風景に思いを馳せ、お読みになってみてください。
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巻末には小川糸さんのトラベル・エッセイと平澤まりこさんの可愛いイラストが掲載されています。小川さんと平澤さんは本著を発刊する前に3回ラトビアを訪問されているそうです。宝石のようにキラキラと輝くラトビアの人々の暮らしと風景に魅了されたと仰っています。ぜひ行ってみたいなと思っています。
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『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ

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ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読み終えました。
すでに沢山の方がお読みになっていると思いますし、これからお読みになる方もおられると思いますので、詳しい内容は帯に書かれている程度にとどめたいと思います。
 
現代の世の中では到底考えられない臓器提供を目的としたクローン人間のための施設「ヘールシャム」で育った若者たちの日常を描いた作品です。彼らは何度かの臓器提供をしたのち、身体に限界を迎えた者から使命を終えこの世を去ります。
物語は全篇に渡ってキャシーという女性の回想というかたちで進行します。キャシーは特別に訓練を受け提供者を介護する介護人として施設で働いていますが、自らも提供者という立場にあります。彼女の内省的な淡々した語り口が、若者たちの生まれながらの運命の残酷さを際立たせています。
ただ、彼女の口から語られる思い出の中のヘールシャムの若者たちは、自身の運命を知りつつも、友情を温め、性に翻弄される私たちの青春時代とそれほど変わらない普通の日常を過ごしていることに、何となく怖さを感じてしまいます。

この小説から何を感じるかは読者によって異なるような気がします。読み始めは、過剰に進みつつある生殖医療などの近未来的な科学技術の問題を提起したものか、はたまたグローバリゼーションの中での搾取する側と搾取される側の問題を扱ったものかと思っていました。でも今こうして読み終わってみますと、この物語の語り手はキャシーひとりであり、キャシーの語ったことがすべてであることに改めて気づかされます。
運命にささやかに抵抗するものの受け入れられず、折り合いをつけようと試みるも上手くいかず、仕方なしに自己を正当化して語るキャシーの姿が妙に身につまされます。何となく私たちに似ている・・・あえて究極の状態に置くことで浮かび上がる人間本来の姿、そんなことを描きたかったのかなと思ったりしています。
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『オブリヴィオン』 遠田潤子

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遠田潤子の『オブリヴィオン』も面白かったです。
主人公の森二は妻殺しの罪で服役し、模範囚として4年の刑期を終えて刑務所を出所する場面から物語が始まります。刑務所の門で迎えるのは、実兄でヤクザ稼業で身を立てている光一と、妻の兄にあたる義兄の圭介です。しかし、当の森二は二人を無視して元の家には帰らず安アパートに入居するのですが、その隣室にはバンドネオンを演奏する混血で美しい少女の沙羅が住んでいます。この沙羅が演奏するアストル・ピアソラの「オブリヴィオン」という曲、この小説の中では全篇に通奏低音のように流れて重要な意味をなしています。
森二はなぜ妻を殺したのか、その夜に何があったのか、謎の一つ一つが明らかになるにつれ、複雑な人間関係とやるせないほどの現実が少しずつ浮き彫りになってきます。
「オブリヴィオン」には忘却とか恩赦という意味がありますが、物語は人生を間違えてしまった人たちが、勇気を出して新しい一歩を踏み出す姿を描いているのかなと思います。

このピアソラの「オブリヴィオン」という曲は私も好きでよく聴いているのですが、ピアソラ独自のリズムで、4拍子の中で「一拍半・一拍半・一拍」という独自のパターンが多用されているのが特徴です。もともとイタリアの映画音楽として作曲されましたが、映画も音楽もあまりパッとしなかったようです。その後、「カンツォーネの女王」として名高いミルバが歌って評判になり広く知られるようになったそうです。ミルバと言えば「ウナ・セラ・ディ東京」が懐かしいですね。
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『彼方の友へ』 伊吹有喜

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実業之日本社 創業120周年記念作品として発刊された伊吹有喜の『彼方の友へ』を読みましたが、すごく面白かったです。

明治41(1908)年の創刊から昭和30(1955)年まで、激動の時代をくぐり抜けて刊行されていた少女雑誌『少女の友』がモデルとなってこの小説が生まれたのだそうです。
舞台は昭和12年の東京。主人公の佐倉波津子(ハツ)は16歳。芸術に心を寄せる少女ですが、経済的なことから進学をあきらめ、西洋音楽を教える私塾で女中として働いています。しかし、戦争の色が濃くなったこともあり私塾をたたむことになり、ハツは自分の身の振り方に悩みます。そんな折に親戚から憧れの少女雑誌『乙女の友』の編集部の雑用係をしないかという話が舞い込みます。ハツは主筆の有賀憲一郎、看板作家の長谷川純司など個性あふれる人々に囲まれ、迷い悩み苦しみながらも自らの才能を開花させていきます。

それから幾年月が経ち、卒寿を迎えて老人施設のベッドの上で微睡むハツ。そんな彼女のもとに「フローラ・ゲーム」と書かれた美しい小さな箱が届けられます。
昭和12年、昭和15年、昭和18年、そして昭和20年と激動の過去と現代を行き来しつつ物語は進んでいきます。若かり日の淡い恋慕の情や奮闘した日々のことに思いを馳せ、「彼方の友へ」とつぶやくハツの心情が胸に迫ってきます。

おすすめの一冊です。そして今期の「直木賞」をぜひ受賞して欲しい小説と思っています。
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『銀河鉄道の父』 門井慶喜

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門井慶喜の『銀河鉄道の父』を読み終えました。
あの宮沢賢治の父・政次郎から見た賢治像を描いたという側面もありますが、むしろ政次郎のことを書いた本という感じがします。賢治の家は、花巻で質屋と古着屋を営む地元でも有数の商家であり、裕福な家庭で幼少から青年期までを過ごした息子とそれを支える父親の姿が描かれています。賢治の童話などが生まれた背景や過程を知ることが出来ますし、封建的な父親像といわゆる過保護で親バカという両面で揺れる政次郎の心の動きが読みどころです。
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『ワルツを踊ろう』 中山七里

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中山七里の『ワルツを踊ろう』を読み終えました。
『ワルツ~』という題名と表紙の装丁に惹かれて読み始めたのですが、これほど想像していた内容と違う本に出合うのも稀かなと思っています。
舞台は東京のはずれの7世帯9人が住む山奥の限界集落。そこに外資系金融機関をリストラされた39歳の独身男性が住むことになります。もともと実家がこの集落にあり、両親が亡くなって空き家になったことと自分の貯えが寂しくなってきたことがUターンするきっかけになります。
村落に溶け込もうといろいろと努力しますが、ことごとく裏目に出てしまいます。ワルツを大音量で流して和ませようと試みたり、カラオケ大会を開いてみたり、はたまた有機野菜をネット販売してみたりと・・・。そんな努力もむなしく逆に村人から反感を買うようになり、窓ガラスを割られたり、糞尿を撒かれたり、愛犬を殺害されたりと酷い仕打ちを受けるようになります。
そんな村人の中に一人だけ彼を理解し心から優しくしてくれる住民がいます。

このあとは本を読んでみてください。中盤まではちょっと笑えるほどに滑稽に描かれていますが、中盤以降は一転して凄惨で想像を絶するような怖さが待っています。そして最後のどんでん返しもダブルで怖いです。
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『ミステリー・クロック』 貴志祐介

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貴志祐介の『ミステリー・クロック』を読み終えました。
「ゆるやかな自殺」「鏡の国の殺人」「ミステリー・クロック」「コロッサスの鉤爪」という物語の舞台も内容も異なる4つの短編、中編が収載されています。
「ゆるやかな自殺」は逃げ場のない暴力団事務所での自殺に見せかけた事件、「鏡の国の殺人」は完璧な防犯システムに守られた私設美術館で起きた事件、「ミステリー・クロック」は時計に囲まれた山荘での晩餐会の最中に起きた事件、「コロッサスの鉤爪」は周囲には島ひとつない小笠原の大海原で起きたボート転覆事件、いずれも密室や限られた空間の中で起きた殺人事件の謎解きが主題となっています。
場所や内容が異なると前述しましたが、共通するのは防犯コンサルタントという怪しい仕事をしている榎本径という男と、まったく頼りにならない青砥純子という弁護士が登場して難事件を解決していきます。とても実行することは不可能と思われるようなトリックが超満載で、榎本径が理路整然と謎解きをしていっても私の頭では何が何だか理解不能な状態で読んでいました。
私には少しトリックがしつこいように思いましたが、この手のミステリーがお好きな方にはおすすめかもしれません。
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『マスカレード・ナイト』 東野圭吾

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東野圭吾の『マスカレード・ナイト』。テレビから流れる大晦日恒例の東急ジルベスター・コンサートのカウントダウンが始まる直前に読み終えました。偶然にもこの小説の物語設定の日時と合致するように読み進めた感じです。『マスカレード・ホテル』、『マスカレード・イブ』に続くシリーズ第三段にあたるものです。

ある事件の犯人が、ホテル・コルテシア東京での大晦日のカウントダウン・パーティーに現れるとの予告が警察に入ります。このパーティーには仮面(マスカレード)をつけての仮装パーティというおまけがついています。ホテルという匿名性の守れる不特定多数の集まる場所、しかも顔の認識が出来ないマスカレード・パーティーという特殊な設定、このような物語の仕掛けは東野圭吾でなければ出来ないような気がします。
いくつにも散りばめられたサイドストーリーがあって、最後まで事件の核心がどこにあるのかハラハラドキドキの連続でした。それにもまして、ホテルマンに扮して潜入捜査をする刑事の新田の活躍、そしてこれぞ一流ホテルのコンシェルジュと思わせる山岸尚美の仕事っぷりももうひとつの読みどころです。

賑やかなNHKの紅白歌合戦をちらちら、それに続くジルベスター・コンサートのカウントダウン、まさに小説のマスカレード・パーティーの真っただ中にいるような雰囲気で読み進めることが出来ました。大晦日に読めたのも良かったですし、面白かったです。
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『君たちはどう生きるか』 吉野源三郎

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吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』の書籍版を読んでみました。
1899(明治32)年に生まれ、1981(昭和56)年に82歳で没した著者ですが、現代でもまったく色褪せない素晴らしい本を書いたものと驚嘆しています。そもそも1937(昭和12)年7月に発行された「日本少国民文庫」全16巻シリーズの最終巻として刊行されたもので、子供たちに向けた哲学書であり道徳の書なのだそうです。
主人公はコペル君。いろいろな出来事や悩み事について叔父さんと対談しつつ、人間としてどう生きればいいのかという深い命題に向き合いながらお話が進んでいきます。

『僕は、すべての人がお互いによい友達であるような、そういう世の中が来なければいけないと思っています。人類は今まで進歩してきたのですから、きっと今にそういう世の中に行きつくだろうと思います。そして僕は、それに役立つような人間になりたいと思います。』

・・・コペル君は最後にこのような考えに行きつきます。

書籍版は大人でも楽しめますし、漫画版は多くの子供に読んで欲しいと思っています。
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『この世の春 ㊦』 宮部みゆき

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藩民から今望さまと呼ばれるほどに愛されていた大殿・成興(藩主・重興の父)が、善悪の見極めに長けた馬に嫌われるという不吉な兆候を告げたところで終わった『この世の春』の上巻。それに続く下巻も上巻に勝るとも劣らない複雑な筋立てと息をもつかせぬ展開で、物語にのめり込んでしまいました。

詳しいネタバレを書きますとあとで読まれる方の迷惑になりますので控えますが、私たち人間の心の奥底に横たわる暗闇の部分を書かせたら、宮部みゆきさんの右に出る方はおられないような気がします。そして、同時に人間の心の優しさ愛の深さの描写も見事ですね。まさに最後は「この世の春」です。
強さも弱さも、賢さも愚かさも持っている人間が生み出す物語だからこそ、素晴らしかったり恐ろしかったりするのでしょう。
上下巻とも少しボリュームがありますが、おすすめの一冊です。PC200017

『この世の春 ㊤』 宮部みゆき

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作家生活30周年の記念作品となる宮部みゆきの『この世の春』、上巻を読み終えました。
舞台は江戸時代、北関東のどこかの小藩「北見」。藩主の北見重興(しげおき)が、ある騒動の結果、主君押込にあって若くして隠居させられることから物語が始まります。
重興は自身の中に多重の人格を抱える解離性同一性障害を患っているという設定です。現代のように病態が明らかになっていない時代のお話ですから、怪しげな呪術や藩政に遺恨を持つ陰の勢力の力が見え隠れして、物語は佳境に向かっていきます。サイコホラーの恐怖、ミステリーの謎が満載で凄いです。
今、下巻を読み始めたところです。下巻も読み終えましたら、また感想を書かせていただきます。
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『さらさら流る』 柚木麻子

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柚木麻子の『さらさら流る』を読み終えました。
アットホームな家族に囲まれ、平凡ながらも毎日を穏やかに幸せに過ごしている主人公の井出菫。ある日突然、たまたま自分の裸の写真がネット上に公開されているのを見付けてしまいます。6年前までつきあっていたかつて恋人に懇願されて撮影を許したことを思い出しまが、すぐ消させたはずなのになぜか多くの人の好奇の目に晒されることになっていました。あらゆる負の渦に飲み込れ心に深い傷をおいながらも、家族や親友の助けを借りながら少しずつ真相を明らかにし立ち直っていきます。
彼との最初の出会いは、大学の飲み会で酔い醒ましを兼ねて渋谷から自宅まで暗渠を辿りながら帰ったことですが、この暗渠に纏わる思い出が通奏低音のように全篇に流れています。まさに「さらさら流る」のように。人間は暗渠のように暗いところを流れている時もあるが、必ず日の当たる拓けたところに行きつくということを意味しているのでしょうか。
穏やかな幸せと崩壊そして再生を描いた作品です。現在と過去を行ったり来たりし、彼女と元恋人の視点両方を描きながら物語は進みます。二人の微妙な心の動きの描写が素晴らしく、このへんが柚木さんの文章力の確かなところなのかなと思います。
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『忘れられた巨人』 カズオ・イシグロ

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今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を読んでみました。
長崎生まれの日系英国人ということで、いずれの小説ももとは英語で書かれています。本書も日本語訳ですので英語版で読んだら細かいニュアンスが違うかなと思うのですが、私には読む力がありませんので、ちょっと残念に思っていました。
舞台は6、7世紀のブリテン島で、いきなり語り手が鬼の話をはじめるファンタジックなゲーム画面を思わせる舞台設定で物語が始まります。当時のアーサー王がサクソン人を虐殺してブリテン島を統一したことに起因するブリトン人とサクソン人との対立という背景が絡んでいます。主人公は、記憶をほとんど亡くした老騎士のアクセルと彼の妻のベアトリスという老夫婦です。ある日、息子のいる村を訪ねて旅に出るのですが、その道中で戦士や少年と出会い、竜退治へと向かう展開になっています。というのも、この雌竜が吐き出す魔法の息が、老夫婦はもとより村人みなの大切な歴史の記憶を奪っているからなのです。しかし、この魔法の息による忘却によって、ブリトン人とサクソン人の憎しみが忘れ去られ、束の間の平和がもたらされていたことも事実でした。竜の死は、争いの再燃を意味していることにもなります。

イシグロ氏は、平和な時代を迎えるのだと信じていた1989年のベルリンの壁崩壊後に発生したユーゴでの戦争勃発に大変なショックを受けたと仰っています。ボスニアやコソボでは、異なる民族同士の結婚さえある程度進み、互いに近所づきあいをしたりと平和に暮らしていたといいます。でも、その平和は本物でなく、あくまでもチトー政権によって力によって抑え込まれていたにすぎなかったのだそうです。そう、小説の中の雌竜から息を吹きかけられた状態のようにです。
イシグロ氏は、嘘の平和とは何か、真の平和とは何かという難しい問題を提起しているのでしょう。このところ俄かにキナ臭くなってきたイスラエルとパレスチナの問題しかり、スペインやスコットランドの自治政府独立の問題しかり、その根は深いところにあるようです。
ファンタジックな小説ですが、そんな深い意味を込めた一冊と思います。
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『月の満ち欠け』 佐藤正午

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今年の第157回直木賞を受賞した佐藤正午の『月の満ち欠け』を読み終えました。
月が満ちて欠けるように、生と死を繰り返す「生まれ変わり」をテーマにした作品です。前世を記憶する瑠璃と名付けられた女の子の話で、前世でそれぞれが関わった3人の男性への恋心から何度も生まれ変わります。輪廻転生というとても不思議なお話なのですが、妙に説得力のある内容で、背筋がぞっとするような不気味さとミステリー的な面白さをも兼ね備えている小説です。感動的なラストシーンへの落としどころの上手さはさすがに熟練した直木賞作家の文章力に拠るものと思いました。
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『ホワイト・ラビット』 伊坂幸太郎

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伊坂幸太郎の『ホワイト・ラビット』を読み終えました。
時間や場面が複雑に行き来して、思わず前に遡って二度見しちゃうような込み入った構成になっていますが、最後は複雑なピースが絶妙に結び合わさって物語の全体像が見渡せる、トリック満載のエンタメ小説です。
仙台を舞台にした一夜の籠城劇。誘拐というあり得ない生業を筆頭に、奇妙な人質立て篭もり事件、星座のオリオン座やさそり座といった天文学の蘊蓄(うんちく)、そしてヴィクトル・ユーゴーのあの有名な「レ・ミゼラブル」に纏わるお話、妻子を亡くして生きる目的を失っている警官の登場などなど・・・もう頭が混乱しそうですが、こんなゴチャゴチャ感とちょっとお洒落な文章が伊坂幸太郎ミステリーの醍醐味なのかもしれません。物語の進行の手助けする「狂言回し」の技法も盛り込んでおり、伊坂幸太郎が自在に操る人形劇を見ているような不思議な感覚の小説です。
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『盤上の向日葵』 柚木裕子

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柚木裕子の『盤上の向日葵』。600頁に近い長編ですが、面白くて一気に読み終えました。
舞台は平成6年、将棋のタイトル戦が行われている山形県天童市の会場に刑事が訪れるところから物語は始まります。刑事は山中で発見された600万円もの価値がある将棋の駒と一緒に埋められていた白骨死体の謎を追い、その捜査の進捗と同時並行的に昭和40年代に遡る将棋好きの少年の物語とが交互に語られる形で進んでいきます。読者は終盤にこの天才少年の宿命を知ることになるのですが、これは読んでのお楽しみということで・・・。どこか松本清張の『砂の器』を思い起こさせる感じです。
それにしましても柚木さんの盤上の真剣勝負の一手一手の描写がリアルで凄いです。藤井聡太四段の快進撃で盛り上がっている将棋界ですし、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
私の予想では、この本も「本屋大賞」の候補10冊のなかにノミネートされると思っていますが、どうでしょうね。
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『鳳凰の船』 浮穴みみ

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幕末から明治初期の函館(箱館)を舞台にした小説『鳳凰の船』を読み終えました。
平成30年の北海道命名150年に向けて書かれた作品のようで、函館や七飯の歴史に名を刻んだ人々の激動の人生を描いた5つのお話で構成されています。小説とはいえ、実在の人物が殆どですから、当時の函館や七飯で暮らしていた人々の新しい時代に対する情熱や息遣いが感じられて、なかなか読み応えがあります。

はじめの「鳳凰の船」は、優れた洋式帆船を次々と作った船大工の続豊治が主人公です。豊治はスクーネル型と呼ばれる「箱館丸」を安政4年7月に竣工しており、この船は日本人の手による最初の洋式帆船と言われています。この豊治のもとに伊豆で同じように洋船を作っていた上田寅吉が突然訪ねてくるところから物語が始まります。寅吉はあの榎本武揚とともに箱館を訪れていたのですが、二人の遣り取りのなかに時代に翻弄されながらも未来への情熱に燃える稀代の船大工の姿が描かれていて感動的です。
この「箱館丸」の復元船は函館港西埠頭に展示されています。

2作目の「川の残映」は、日本で地震学の基礎を作ったと言われるイギリス人のジョン・ミルンと結婚してイギリスに渡った願乗寺の娘・堀川トネのお話です。彼女のエドウィン・ダンの妻・鶴に対する微妙な女心の揺れ動きの描写が時代の背景も絡んで面白いです。
また、トネの父親・堀川乗経は願乗寺の住職でしたが、生活用水に乏しい町であった函館(箱館)に願乗寺川と呼ばれた水路を開削し、町の発展に大いに尽力した功労者として知られています。

次の「野火」は、北海道初代長官の岩村通俊が主人公です。かつて七重村開墾条約を結び開墾に尽くしたプロシア人のガルトネルとの遣り取りが読みどころです。ガルトネルと七飯(七重)の結びつきは強く、300万坪もの土地を所有して西洋農法を実践していたと言います。私の家の近くには農園の名残のガルトネル・ブナ林の一部が今でも残っています。

4作目の「函館札」は、函館築島ガラス邸と呼ばれた英国人ブラキストンの邸宅に女中として仕えた16歳のれんが主人公です。ブラキストンは、津軽海峡を境にして動物学的な分布境界線があることを指摘し、この境界線がのちにブラキストン・ラインとして知られたことはご存知の通りです。

最後の「彷徨える砦」は、苦学をして立身出世し函館港湾改良工事監督になった廣井勇とかつて恋仲だった志津とその夫のフランス人ピエールとの関わりを描いたお話です。廣井が改良工事を行ったのは弁天台場であり、この台場は五稜郭を作った武田斐三郎(あやさぶろう)によるものと言われています。面積は3800平方メートル、石垣の高さは8.48メートルもある当時としては稀にみる最新鋭の洋式砲台だったようです。台場自体がとても頑強に作られていたため、廣井による改良工事は難航を極めたことが知られています。台場の石の一部は現在の函館漁港石積み防波堤(函館市入舟町)の一部に使われています。

来年の春にでも、5つのお話に関連することを詳しく紹介したいと思っています。
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『つぼみ』 宮下奈都

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宮下奈都の『つぼみ』を読み終えました。
『スコーレNo.4』のスピンオフ作品を含む短編集です。スピンオフ作品は3編入っているのですが、それがお花(華道)に関するお話でしたので、これらを含めた6編に共通するものとして『つぼみ』というタイトルになったそうです。

主人公たちの織りなす物語はどこか懐かしく、そしてほんのりとした優しさに包まれて、読む者の心の琴線に触れます。そっと「大丈夫だよ」と声をかけてくれるような感じで、読後感がとても心地いいです。

そうそう、表紙の装画もなかなか素敵ですよね。これは日本画家の岩﨑絵里さんの「かなたのひかり せかいのはじまり」という作品なのだそうです。
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『宮辻薬東宮(みや・つじ・やく・とう・ぐう)』

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超人気作家たちが2年の歳月をかけて繋いだ前代未聞のリレー・ミステリー・アンソロジーという触れ込みの『宮辻薬東宮(みや・つじ・やく・とう・ぐう)』を読み終えました。
本の題名は何とも意味不明で怪しげですが、リレーで執筆された宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介という5名の錚々たる面々の名前から頭文字をピックアップして命名したものです。
ミステリーというよりもホラーテイストの色濃いものであり、その手の小説が好きな方にはおすすめと思います。私はあまりホラーというのは好きではありませんが、あまり強烈なものではありませんので、私のような弱虫でも楽しめるような内容になっています。それにしましても、さすがに宮部さんはじめ短編を繋いだ作家さん達は読者の心をとらえるのがお上手で、背筋がゾクゾクするような不思議なお話の怪奇小説に仕上がっています。

トップバッターの宮部さんは郊外の一軒家を舞台にした小説。二番手の辻村さんは宮部作品から写真に纏わるモチーフを引き継いで母娘が織りなす奇妙な物語を綴っています。続く薬丸さんは家出少女が主人公の不思議な物語。東山さんは幼少期を台湾で過ごした経験を生かし、怪異文学の古典「聊斎志異(りょうさいしい)」をベースにスマートフォンを題材にした小説を書いています。最後の宮内さんはゲームのプログラムに巣くう幽霊バグがモチーフになっています。
それぞれ単独で読んでも面白いですし、リレー形式の繋がりを楽しむのもいいです。そうそう、最後の宮内さんの作品で振り出しの宮部さんのお話とリンクするのも面白いです。
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『夜の谷を行く』 桐野夏生

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桐野夏生の『夜の谷を行く』を読み終えました。
物語の材題は、1971年から72年にかけて社会に大きな衝撃を与えた連合赤軍によるあさま山荘事件の前の群馬県山中での凄惨なリンチに発展していった山岳ベース事件がもとになっています。あくまでもフィクションですが、実際に事件にかかわった新左翼組織のメンバーなどは実名ですし、事件の推移も事実に添って展開されます。

私とほぼ同じ年代の団塊世代が起こした事件だけに、この事件に参加した者たちが何を考え、どうして参加したのか興味深いものがあります。あの巨大な鉄の球で山荘を破壊しているテレビの映像が今でもはっきりと蘇ってきます。

物語は、連合赤軍の兵士として山岳ベース事件で逮捕され服役した女性が主人公です。過去を隠し淡々と目立たぬよう生きていますが、もとの仲間からの電話、永田洋子の死、そしてあの東日本大震災が起きることで、心の中に少しずつ変化が現れます。

読後感・・・う~ん。主人公が淡々と日常を過ごしている現代の生活ぶりの描写が妙にコミカルで面白いだけに、45年前の山岳ベースでの非人道的な暴力行為の凄惨さがより深く浮き彫りになって背筋が寒くなるような気がします。ありえないことでしょうが、自分があの山岳ベースにいたらどのように振る舞っていたかと思いつつ主人公に重ねて読むのも、この本を読むうえで意味があるかもしれません。
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『かがみの孤城』 辻村深月

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装丁がとても綺麗で手にした一冊、辻村深月の『かがみの孤城』。
読み進めるほどに頁を捲る指が前へ前へと早まり、まさに一気読みでした。ほとんど予備知識のない一冊でしたが、今年読んだ中では三本の指に入れたいというか、星5個つけても良いほどに感銘を受けました。ファンタジーミステリーとしての構成がとても巧みですし、なにより辻村さんのリズミカルな文章が読むほどに心地よさを感じさせます。

物語の主人公は中学一年生「こころ」です。ある出来事をきっかけに学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしています。ある日、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこはお城のような不思議な建物の中でした。そこには「こころ」を含め、似た境遇にあるらしい中学生が7人集められていました。このお城の主は、狼の面をつけた少女(オオカミさま)です。彼女が取り仕切るお城は9時から17時までの間であれば現実世界との出入りは自由ですが、お城にいられるのは1年間だけという期限が定められています。そんな彼らには隠された鍵を探し出すという課題が与えられます。

こんなお話で前半部は過ぎていきます。思春期の自分もそんなことで傷ついていたなぁとか、傷つけていたなぁなんて思わせる・・・辻村さんの細かい心の揺れ動きの描写が素晴らしいです。

そして後半部。一転してミステリーの要素が絡んで物語は佳境に達します。もうこれ以上お話しすることは出来ませんので、小説をぜひお読みになってください。個人的ですが、来年の「本屋大賞」にノミネートされる一冊と思っています。出来れば、大賞を取って欲しいなとも思っています。
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『宿命と真実の炎』 貫井徳郎

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寒いですし天気が芳しくありませんので、こんな日は本を読むのが一番ですね。そんなことで先日から読んでいた貫井徳郎の『宿命と真実の炎』を読み終えました。

幼い日に父親が絡んだ警察沙汰で離れ離れになった誠也とレイという義兄(妹)が一方(犯罪者側)の主人公として物語は進んでいきます。大人になって再会したふたりは、警察への復讐を誓い、警察官の連続殺人事件を遂行します。当初、事故や自殺と思われていた連続殺人事件ですが、古い体質の警察組織に翻弄されながらも真実を追い求める女刑事・高城理那と、かつては名探偵とまで言われながらもスキャンダルで警察を追われた西條という男の機微に富んだ推理によって徐々に謎が解かれていきます。
幼い頃に誠也とレイに降りかかった衝撃の出来事、それに対する後悔と贖罪、そして復讐へと向かう内面の心の動きが丁寧に綴られていて、怖いというか凄いです。
犯人者の心理と事件を追う警察の推理が複雑に絡み合い、それが最後は一本の糸で結ばれるという、とても読み応えのある小説でした。
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『院長選挙』 久坂部羊

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久坂部羊の『院長選挙』を読み終えました。
「超エリート大学病院を舞台に、医師たちの序列と差別、傲慢と卑屈だけを描いた抱腹絶倒、本音の医療小説」という触れ込みで、ちょっぴりミステリーの要素も入れた小説です。著者は大阪大学医学部卒業の医師だけあって、大学病院の負の部分を「白い巨塔」ばりに、詳細に描いているところはさすがと思います。ただ、現実の生臭さを打ち消すためなのでしょうが、あまりにも面白可笑しく書き過ぎていて、意図したコメディタッチがちょっと上滑りしている感じの否めないところが残念です。
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『アノニム』 原田マハ

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原田マハの『アノニム』を読み終えました。
キャンバスを床に置いて直接絵具を滴らせるドリップ・ペインティングという独自のスタイルを展開したアメリカの抽象表現主義の画家ジャクソン・ポロックの未発見の絵画を題材にした小説です。物語はこの絵が香港の絵画オークションにかけられることから始まります。落札を狙う非道なコレクターの一味と、ひそかにすり替えを企てるアノニムという義賊のような怪盗集団の虚々実々の駆け引きが読みどころです。ちなみにアノニムのメンバーは、天才エンジニアのオーサム、美術品修復家のネバネス、フランス貴族の末裔オブリージュ、花形オークショニア(競売人)のネゴ、ブルックリンでギャラリーを経営する美女ヤミー、気鋭の建築家ミリ、美術史家でありトルコ絨毯店経営者のエポックという7名。頭文字を並べると、anonyme(作者不詳)になる仕掛けも作者の遊び心が感じられて面白いです。
この『アノニム』という小説はシリーズになりそうな感じがしますが、この次は誰にスポットライトが当てられるのでしょうね。個人的にはシャガールあたりがお話として面白そうな気がしていますが・・・。
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『すいか 1 , 2』 木皿泉

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木皿泉の『すいか1』と『すいか2』、もう10数年も前にテレビドラマ化されシリーズ放映されたようですが、そのシナリオの文庫本です。
朝夕食事付きの人気レトロ下宿「ハピネス三茶」に暮らす血のつながりのない女性4人の日常を描いたお話です。大した事件が起きるわけでもなく、私たちとそれほど変わらない平凡な毎日ですが、その日々の営みの中に明日に繋がる何かを見出していきます。いつもおおらかで、すべてに対してポジティブな「ハピネス三茶」の住民と彼らを取り巻く優しい人々の姿に思わず微笑んでしまいます。木皿作品は、日々ちまちまと生きる市井の人達に優しさと希望を与えてくれるようで大好きです。
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『アキラとあきら』 池井戸潤

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池井戸潤の『アキラとあきら』を読み終えました。
文庫体裁とはいえオリジナルの700頁を超える長編小説ですので相当に読み応えがあり、星を5つあげてもいいくらいに面白いです。そしていつものようにスピーディで歯切れが良くて、読後感も最高です。

共に社長の子として生まれながら、まったく違う境遇で少年時代を過ごした二人の青年の物語です。順風満帆の子供時代を過ごしてきた大会社の御曹司の階堂彬というのが一人目の主人公。そして、零細の町工場の子供として過酷な幼少期を過ごした山崎瑛がもう一人の主人公です。二人は偶然にも同じ大学で出会い、そして同じ銀行に入行した後、そこでの経験を踏まえて才能を開花させ共に優秀なバンカーとして成長していきます。幾多の困難を乗り越えて大会社の社長に就任することになった彬と、メインバンクの融資担当者として支えることになった瑛、2人がタッグを組んで難局を乗り越えていく姿が感動的です。
このように日夜身を粉にして働く男達がいるということに胸が篤くなりますし、窮地に陥った人達を何とか助けようと行動する二人の「あきら」のような青年がいる限りこの国は大丈夫かなと思ったりします。
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『この嘘がばれないうちに』 川口俊和

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『コーヒーがさめないうちに』の続編です。舞台は前作と同じ喫茶店「フニクリ・フニクラ」。ある特定の席に座るとコーヒーが冷めない間だけタイムリープ出来るというお話です。今回も泣けるお話が4つ収録されています。いずれも愛する人を思うがために生み出された優しい嘘にウルウルしてしまいます。こんな心温まる素敵なお話、舞台でもテレビドラマにしてもいいでしょうね。
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