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カテゴリ:ちょっと面白かった本

『羊と鋼の森』 宮下奈都

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宮下奈都の『羊と鋼の森』は一気に読んでしまいました。
流れるような文体というか、一つ一つの言葉が綺麗で、そのことにまず惹きつけられる小説です。ピアノの調律に魅せられた一人の青年が、調律師として、そして人として成長する姿を静かに温かく描いています。作者の宮下さんの自宅のピアノを調律した方が「このピアノにはいい羊がいるね」と言ったことがこの小説を書くきっかけだったそうです。「羊」はハンマーのフェルト、「鋼」はピアノ線、そして「森」は林立するチューニングピンか響板を含めたスプルース(松)のことを表現しているのかなと思って読んでいました。
直木賞の候補作となったほか、「本屋大賞」にもノミネートされていますし、紀伊國屋書店のスタッフが薦める本の1位にも先日なったそうです。
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『Aではない君と』 薬丸岳

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薬丸岳の『Aではない君と』をやっと読み終えました。
重大な少年犯罪を起こした加害者の父親の目線で描かれた作品で、重いテーマゆえに加害者、被害者の立場からいろいろなことを想起しながら読み進めました。子供の事を顧みなかった過去を反省する加害少年の両親、そして親の心痛をおもんばかり取り調べに口を閉ざす加害少年の審判過程がつぶさに綴られ物語は進行していきます。戸惑い苦しみながら前に進んで家族の姿が印象的です。
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『坂の途中の家』 角田光代

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角田光代の『坂の途中の家』をやっと読み終えました。
主人公が刑事裁判の補充裁判員に選ばれることから物語が始まります。担当事案は30代の母親が生後8ヶ月の幼女を浴槽に落として死なせ殺人罪に問われるという事件です。法廷での証言に触れるにつれ、主人公は3歳になる娘がいる自分自身のことを被告人にオーバーラップしていきます。
読み進めるうちに、いつしか読者も法廷に身を置いて当事者になっているような気持ちにさせられます。相当の読み疲れ感が残ってしまうほどに、作者の心理描写は細かく鋭いです。心の闇に迫る作者の筆の力に引き込まれてしまった一冊です。
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『はだれ雪』 葉室麟

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元禄14年3月14日、江戸城松之廊下にて赤穂藩藩主浅野内匠頭長矩による刃傷事件に端を発し、浅野内匠頭の切腹、そして翌年12月14日の赤穂浪士47人による吉良上野介邸討ち入りという一連の事件を取り上げたいわゆる「忠臣蔵」。これほどまでに多くの日本人に愛されて歌舞伎、映画、小説などに取り上げられた出来事は「忠臣蔵」をおいてないように思います。本書は史実に基づきつつ脚色を加えたものと思いますが、新しい「忠臣蔵」の世界を描写しているといっても過言でない作品と思います。時代背景そして難しい出来事に巻き込まれながらも、人として正しく生きることの大切さ、愛するものを守ることの大切さを描いています。いつもながらストーリーが面白いですが、葉室麟の流麗な文章に惹きつけられます。それにしましても赤穂浪士とりわけ大石内蔵助、堀部安兵衛など恰好いいですね。
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『生還者』 下村敦史

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下村敦史の『生還者』、面白くて一気に読み終えました。
世界第3位の標高を誇るヒマラヤ山脈のカンチェンジュンガで大規模な雪崩が発生し、日本人登山者7名が巻き込まれるという惨事から物語は始まります。生存者は絶望視されていたものの、二人の男性が奇跡的に救出されます。しかし、山中での登山隊の行動、雪崩発生時の状況など二人の証言は真っ向から対立するものでした。二人の生還者のどちらが真実を語っているのか、最後まで息をのむような展開で物語は進んでいきます。山登りが趣味でない方でも楽しめる山岳ミステリーです。
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『あの人が同窓会に来ない理由』 はらだみずき

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はらだみずきの『あの人が同窓会に来ない理由』は、一気に読んでしまいました。
40歳を目前にした男女が幹事として中学の同窓会を企画することから物語が始まります。同窓会代行業の女性を交えて参加者を増やすことに知恵を絞り奔走するのですが、所在不明者や欠席者が続出し作業は難航します。かつてのクラスメイトそれぞれの過去と現在を織り交ぜ、思い通りにならない人生模様を描いたちょっぴりミステリータッチの小説です。

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『終の日までの』 森浩美

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森浩美の『終の日までの』を読み終えました。
今生きているこの日常の延長線上に置かれた人生の別れをごく普通の出来事のように描いた8つのお話で構成されています。心が温かくなる話、心に沁みる話、しみじみとする話、泣ける話などを、暗くならずちょっとコミカルに描いた短編集です。最後のお話の『三塁コーチャーは腕をまわせ』が一番良かったかな。

そうそう、巻末の著者紹介で知ったのですが、森さんは元々作詞家で、荻野目洋子の『Dance Beatは夜明けまで』森川由加里の『SHOW ME』、田原俊彦の『抱きしめてTONIGHT』などのヒット曲の作詞を手掛けていたようです。
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『冬の光』 篠田節子

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篠田節子の『冬の光』を読み終えました。
篠田さんは「老境を目の前にして、自分が歩んできた小市民的な人生に意味を見出せなくなる、実存的な不安のようなものを描きたいと思いました」と仰っていますが、主人公・富岡康宏の独り善がりのロマンチシズムには、同じ時代を同じ小市民的に生きてきた同性のひとりとして、共感することはできませんでした。
物語の半分ほどは、四国八十八ヶ所の霊跡を巡る旅に費やされており、あたかも巡礼に行ったような気分にさせられます。歩くのは好きですが、四国巡礼へ行きたいと思ったことはありませんし、この本を読んだだけで行かなくても充分かなと思ってしまいました。
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『わかれ』 瀬戸内寂聴

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瀬戸内寂聴さんの短編集『わかれ』を読み終えました。90歳を過ぎてなお、書かずにはいられない衝動にかられたという9編の短編で構成されています。親しかった作家や親族、明治期の革命家、連合赤軍の活動家など、生者と死者の垣根を越えて対話をしつつ、いずれも素敵な物語に仕上げています。
なかでも、新聞配達の男性と山中に独居する女性との仄かな触れ合いを描いた「山姥(やまんば)」をご自身は気に入っておられるようですが、私もいいなと思って読んでいました。
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『命の響』 舘野泉

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"左手のピアニスト、生きる勇気をくれる23の言葉"との副題がついてる舘野泉の『命の響』を読み終えました。"左手の"という部分だけがあまりにも有名になり過ぎて、「左手でどのような演奏をするのだろう」という少し興味本位で舘野さんを見ていた部分が私自身にもありましたが、そんなことを遥かに超越しているというか、新たな音楽の可能性や魅力の追究に挑戦している舘野さんの姿を存分に知ることのできる一冊でした。

遥か昔、確か音鑑(労音)主催だったように思うのですが、リサイタルで舘野さんのピアノを聴いたような気がしています。聴いたような気がしているというのは舘野さんに失礼なのですが、正直あまり記憶に残っていないのです。私も若かったですし、新進気鋭の「北欧音楽のスペシャリスト」というパンフレットを見て、リサイタルを聴きに行ったのかもしれません。

それから何十年になるのでしょうか、間近でお見かけした一昨年の清和の丘コンサートでの舘野さん。以前のように颯爽という訳にはいきませんでしたが、左手から紡ぎ出される音は、深く心に沁みわたるものでした。この本を読んでみて、ここまでの道のりでの心の葛藤、すさまじいリハビリの日々などを知り、あの清和の丘コンサートで見せてくれた柔らかい表情のことを私なりに納得することが出来ました。
清和の丘コンサートで弾いてくださったカッチーニのアヴェ・マリア。このブログを書きながらCDで聴いています。あの時の演奏を思い出すと今でも胸が熱くなります。
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厚沢部町での清和の丘コンサートのことも書かれています。
そうそう、一昨年のコンサートの終演の後にトイレに行き、何気なしに気が付いたらお隣に舘野さんがいらっしゃいました。間が悪いことに廃校の古いトイレで、しかも男子用は2つしかないというシチュエーションです。舘野さんがお先に用を足しておられ、私も所定位置に着いた手前出るに出られない状況になってしまいました。軽く会釈をして、まさしく舘野さんと「感動」のツレションです。気の利いた言葉も思い浮かばず、無言のままの時間の長かったこと、忘れることが出来ません。トイレでなければ、何か簡単な言葉を交わして握手くらいはしてくださっと思うと残念でなりませんが、後にも先にも一生の思い出になることは間違いないようです。(^^♪
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『ユートピア』 湊かなえ

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湊かなえの『ユートピア』。美しい海辺の町、鼻崎町を舞台に、それぞれの理想郷を夢見る三人の女性が出会うことから物語が始まります。
ミステリーとしてのストーリーも面白いのですが、女性の細かい心理描写を書かせてはこの作家さんの右に出る人はいないのではと思うほどに鋭いです。何気ない日常に潜む微妙な女の駆け引き、ユートピアという現存しえない理想郷を追い求める女たちの心理戦争小説といっても良いような感じのミステリーです。
結末で、登場人物のひとりが書いた"神様への手紙"という手記に思いもよらない事実が書かれています。常識的に考えて、実行しそうにない人物が考えた策略の凄さに、戦慄をおぼえるというか唖然とします。
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『二度寝で番茶』 木皿泉

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木皿泉の『二度寝で番茶』、かっぱさん(妻鹿さん)と大福さん(和泉さん)ご夫妻の対談集ですが、とにかくいいです。木皿さんの本を読んでいると、人生が楽しくなるというか、捨てたもんではないなぁという気がしてきます。お二人の会話の中にスーッと入っていって三人でお茶を啜りながら他愛のないことを話しているような、そんな雰囲気の対談集です。
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『6粒と半分のお米』 木皿泉

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木皿泉の『6粒と半分のお米』、読み終えると肩の力がすぅーっと抜けるようで心地よかったです。神戸新聞やいろいろな雑誌へ書かれたエッセイや対談、そして文芸誌の解説、書評、映画評と盛りだくさんですが、いずれも先日のテレビドラマ『富士ファミリー』で観たような、ふんわりと暖かい真綿で包まれたような気持になります。

巻末というか終わりに2014年3月に放送されたNHK FMシアター『どこかで家族』の全シナリオが掲載されています。東日本大震災で罹災し離散した家族4人の物語です。母と息子は愛媛へ、父と娘は地元に残って暮らしを立て直そうとします。当初は、一時的に離れるだけのつもりだったのが、日常に追われ元どおりになるきっかけを失ったまま時間だけが過ぎていきます。それから9年後の2020年、東京オリンピックを機に一家は再会を果たします。
オリンピックのバスケットの試合を4人で観戦しているシーン。実際にゲームをしている時に広く感じたコートが外から見ると意外と小さいことに驚きます。
「中にいる人と、外にいる人って、コートのラインが全然違うように見えるんだよね」と言い合う4人、家族もコートと一緒だということに気付きます。「一緒に住むことが家族なんてよぉ、それは外から見てるヤツが言うことでよぉ、中にいるほうは必死で、ラインなんて、どこにあろうが、もうどうだっていいべな」と言って安心します。4人は家族の深い絆を確認して、それぞれの元の日常へと戻っていくというドラマです。どこか寅さんの映画のようで、木皿さんの家族を見る目がいいですね。
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『風かおる』 葉室麟

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葉室麟の『風かおる』を読み終えました。
好きな作家のひとりですから、一気に読んでしまいました。この作家さんの本はちょっとミステリー風で、人間の本質をついているにも拘わらず、ほのぼのとして読後感がいいのが好きな理由なのかも知れません。
あらすじは記しませんが、『些細な嫉妬から流転する人生を哀歓豊かに描く傑作時代小説』と帯に書いてありました。小説の最後のほうで、事件の全貌を話すひとりの男のくだりが、この小説のすべてを語っているようです。
「(誰が悪かったのか)わからないな。今回の件で悪人はひとりもいないようだ。しかし、ひとの心には時として魔が入り込む。魔は毒となってひとを次々に蝕んでいく。その様はまるで疫病のコロリのようだな」と。
面白い時代小説です。
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『人魚の眠る家』 東野圭吾

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東野圭吾の作家デビュー30周年記念作品という『人魚の眠る家』を読み終えました。
あらすじについては他に譲るとして、本書の核心は脳死、臓器移植、延命処置という難しい問題を取り上げたところにあると思われます。

可愛い我が子が脳死状態と宣告されても、高度医療や最新の科学技術を駆使して延命治療を施したいと思うのは親として当たり前の気持ちでしょうし、一方で臓器移植でしか命を継続することが出来ない子を持つ親の切実な気持ちも理解できます。「こんな物語を自分が書いていいのか、今も悩み続けています」と東野さんは語っていますが、それぞれの個人や家族のおかれた状況、宗教観などに帰結するものが大きく、何が適切で何がそうではなのか一概には論ぜられないように思っています。

平成22年7月17日に改正臓器移植法が施行されて6年目を迎えますが、昨年6月末までに15歳未満の子供からの提供で行われた臓器移植は7例(うち6歳未満は3例)にとどまっているそうで、小児のドナー(臓器提供者)およびレシピエント(移植希望者)それぞれの苦悩がいかに深いかを物語っています。

また、脳死という言葉も普通に見聞きしていましたが、これほどまでに深く考えたことはありませんでした。一昔前までは、誰もが共通して抱いていた死(臨終)という概念がありましたが、臓器移植に伴って脳死判定というものが持ち込まれてからは、死そのものの扱いが複雑になったことをあらためて認識させられました。
医学を含めた科学技術の進歩は人類の幸福に繋がっていると信じていますが、同時に生殖医療や高度治療などの選択肢が際限なく増えるということでもあり、それに伴う社会的な問題も否応なしに個人や社会に課せられてくると思っています。
そんなことを考えさせられた一冊です。多くの方にお読みいただきたいと思います。
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『下町ロケット2』 池井戸潤

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池井戸潤の『下町ロケット2』、前作の『下町ロケット』と同様に面白い小説でした。バルセロナにある聖家族贖罪教会(サグラダ・ファミリア)を建築したアントニ・ガウディにちなんだ「ガウディ計画」、教会や建築とはまったく関係のないモチーフですが、今回の新しい計画の命名がまずもって面白いです。細かいネタバレはいたしませんが、とにかく痛快な内容です。悪い奴らは徹底的に悪く、良い人達はどこまでも良くて、最後は正義が勝つという、水戸黄門を見ているような感じです。ここまで正義だとちょっと胡散臭い感じもしますが、まあ読後感がスカッとしますから良しとしましょう。

いつものように佃製作所をはじめとした正義側の仕事に対する考え方には教えられることが多いです。何のために仕事や研究をするのかという問の投げかけは、技術屋の端くれの私などにも通じるもので心して耳を傾けるべきと思いました。ノーベル化学賞に輝いた北里大学の大村智さんも仰っていましたが、どんな仕事も名誉や地位や身に余る金が目的ではなく、世の人々の幸福のために行うという理念を失ってはいけないということなのでしょう。「ガウディ計画」の関係諸氏は、研究者・技術者としてキラキラ輝いていますね。佃製作所、次は何にトライするのでしょう。『下町ロケット3』として続編が出て欲しいです。
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『追いかけるな』 伊集院静

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伊集院静の『追いかけるな』、こちらも図書館から借りてきました。
「本物の大人はそんなことはしない」というサブタイトルに惹かれて読んでみましたが、この本を読んでcotoは本物の大人でないことがよく分かりました。(^^♪
第1章の『追いかけるから負けるんだ』から始まり、『いつかは笑い話に』、『私は黙っていた』そして最終章の『生きるとは失うこと』まで、「そうそう、よく言ってくれた」と共感できることが沢山ありましたが、個人的には買ってまで読むかと言えば微妙です。
ところでマッチこと近藤真彦さんの『ギンギラギンにさりげなく』は、この方の作詞(作詞家名は伊達 歩)らしいですね。今年の紅白歌合戦の白組のトリは、35周年になるこの歌をひっさげたマッチといいますから何と言っていいのか・・・。cotoは、近頃の紅白にはあまり興味はありませんが、トリになったマッチだけは見てもいいかななんて思っているところです。
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『木暮荘物語』 三浦しをん

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三浦しをんの『木暮荘物語』、新刊ではありませんので、読まれた方は沢山おられるでしょうね。cotoは読んでいませんでしたので、図書館の棚で見つけて借りてきました。この手の小説は大好きですから、一気に読んでしまいました。星4つつけてもいいかなと思うほどに面白かったです。

小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年、全6室のぼろアパート・木暮荘の住人4人と彼らを取り巻く人々とが織りなす人生模様を描いた物語です。一見平穏そうに見える木暮荘の日常。しかし、ひとりの人間として生きるがゆえの悩みが、哀しみという形で滲み出てきます。そんな哀しみを救ってくれるのが、ぼろアパートの小暮荘そしてそこに暮らす人々の繋がりでした。

cotoも学生時代はとても貧乏でしたので、家賃3000円のぼろアパートで自炊生活をしていました。仕送りする親も貧乏でしたが、イマドキの「貧困」などとはこれっぽっちも思ったことはありませんから不思議です。部屋の広さは4畳半、玄関と台所とトイレは共同、風呂などは勿論ありません。窓を開ければお寺と墓地が広がっていて、それは壮観な立地環境にありました。確か町名が寺町とか新寺町とか言ったような・・・。
今にも壊れそうなぼろアパート・S荘、部屋数は上下で廊下を挟んで10室くらいあったように記憶しています。私の隣室は、授業に行ったのをあまり見たことがない理学部のH君。座る隙間は勿論のこと、これでもかというくらいにうず高く積み重なったゴミの上に横たわる万年床。布団と畳の間にはキノコが生えているのではといつも思っていました。夜中に酒盛りをするとアパート中が居酒屋と化してしまうくらいに筒抜けの安普請アパートですから、何度迷惑をかけたことか。でも、あまり怒鳴られた記憶がありませんので、ぼろアパートゆえのお互いさま精神がまだあった時代なのかも知れません。汚れた食器をそのままにしていると、朝にはいつも綺麗に洗ってしまっておいてくれていたKおばさんはどうしているかなぁ・・・。
老若男女いろいろなワケアリの住民が暮らしていたS荘が懐かしいです。
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『過ぎ去りし王国の城』 宮部みゆき

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宮部みゆきの『過ぎ去りし王国の城』は、思っていた以上に面白い小説でした。

ちょっとだけネタバレを・・・
物語は、推薦入試が終わり、暇を持て余す中学3年生の真(しん)が、細密な古城のスケッチを拾うことから始まります。不思議なことに、その絵に触れると絵の世界を見れ、さらに自分のアバター(分身)を描くことで絵の中に入り込めることを知ります。絵心のない彼は、絵が得意ながら家庭でも学校でも孤独な生活を送る珠美にアバターを描いてもらい、先に絵の世界に入り込んでいた漫画家アシスタントのパクさんと出会います。3人は、静かで美しいけれど生命の気配がなく、出入りする人間のエネルギーを吸い取って消耗させる絵の世界を次第に不審に思うようになります。
さらに絵の世界の古城の中で発見した少女が、10年前の少女失踪事件と関係していることが少しずつ明らかになってくると、彼らはある決断を迫られます。

物語の中での異世界ファンタジーの要素はそれほど多くはないのですが、彼らが絵の世界に引き込まれるという描写は、現実的なことではありません。ただ、私たちが本や映画の物語という異世界に没入するときの感触に近いものがあり、現実世界においても感覚的に分かるような気がします。物語の中の異世界から影響を受けるということは現実にありますもね。

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『砂の街路図』 佐々木譲

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佐々木譲の『砂の街路図』を読み終えました。
母の四十九日を終えた岩崎俊也。彼の両親が青春時代を過ごした北海道の運河町へ旅立つことから物語はスタートします。20年前、父は家族に内緒でこの町を訪れ、酔って運河に落ち溺死するのですが、その父の死の真相を追うことが旅の目的でした。時代から取り残されたような街並みが広がる運河町を舞台に、父が在籍した大学や所属した漕艇部関係者と接触するうちに、父の隠された過去が暴かれていくことになります。
架空の町が設定ということですが、小樽と函館をミックスしたような感じで、運河町なる街へ実際に足を踏み入れたような気分にさせられるちょっと不思議な雰囲気のミステリーです。

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『流』 東山彰良

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今年の第153回直木賞を受賞した東山彰良の『流』を読み終えました。
同賞選考委員各氏の絶賛の帯紙に惹かれてページをめくったのですが、文章がやや翻訳文的で粗い感じがしたことと、中盤までダラダラとしてスピード感にかけることが最初の印象でした。(東山さんは5歳の時に日本に移り住んだ台湾国籍の方ということを後で知り納得した次第です。)
物語は、蒋介石率いる国民党とともに中国本土から台湾に移り住んできた「外省人」の家族のお話です。東山さん自身を思わせる17歳の秋生という青年が主人公です。祖父を殺した犯人捜しに執念を燃やすのですが、結末は思わぬ展開に発展します。ミステリー仕立てにしつつ、1970年代以降の台湾の猥雑ながらも生き生きとした世相を見事に描いていて、大戦後の台湾、日本そして中国の歴史を再認識することが出来る点からも読む価値があります。

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『あの家に暮らす四人の女』 三浦しをん

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三浦しをんの『あの家に暮らす四人の女』を一気に読み終えました。この手の本は大好きですので、星4つ半いや5つ上げてもいいかなと思っています。「ざんねんな女たちの、現代版『細雪』・・・」というフレーズが帯紙にありましたが、とにかく面白いです。
家主の鶴代、その娘の佐知、佐知と同じ年頃で転がり込んできた雪乃、そして雪乃の会社の後輩・多恵美、それに長らく敷地内の守衛小屋(?)に住む山田という老人。古びた洋館を舞台に繰り広げられる女四人と一人の爺さんの暮らしはお互いの個性が絡み合って、楽しくもあり姦(かしま)しく過ぎていきます。
ドラマ化されても楽しいかなと思っています。鶴代には・・・あの人がいいかな、なんて勝手に配役をキャスティングするのも楽しいです。

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『ラプラスの魔女』 東野圭吾

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東野圭吾の『ラプラスの魔女』を読み終えました。
未来予測をテーマにした作品で、ガリレオシリーズと同様に理系出身の作者らしいSFミステリーです。wikipediaによりますと、「ラプラスの悪魔(魔女)」というのは、『すべての物質のあらゆる力学的状態を知ることができ、かつそれらのデータを解析できるだけの知性があれば、不確実なことは何もなくなり、未来は計算によって予測できる』という理論を提唱した18世紀のフランスの科学者ラプラスの概念に基づいたものなのだそうです。
物語は、脳神経外科の権威である父を持つ羽原円華という少女が、母親と北海道旅行に出かけた際に遭遇した自然災害の場面から始まります。長編にもかかわらず、いろいろな仕掛けが絶妙に絡み合って、ストーリーを複雑に面白くしていきます。東野ファンにはたまらない一冊と言ってよいでしょう。

この小説を読んで、この春に放映されたNHKスペシャル「NEXT WORLD-未来はどこまで予測できるのか-」を思い出しました。舞台は30年後の2045年という設定。人々は超高性能の知能端末を脳内に埋め込んだり身につけて、すべての行動はその人工知能の未来予測に従って生きているというのです。受験勉強などは意味をなさず、人々は間違いを起こさず、超効率的な社会のなかで暮らすらしいのです。高い確率でこのような社会に変貌していくようなのですが、少なくとも私はこんな世界で生きていく自信がありません。うふふ、30年後のNEXT WORLDまで生きていませんね。(^^♪
 
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『リバース』 湊かなえ

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湊かなえの『リバース』を読み終えました。
事務機会社に勤めるしがないサラリーマンの深瀬和久。珈琲を飲むことが唯一の趣味です。大学時代にゼミ仲間での旅行の際、遅れて到着する仲間を迎えに行った広沢由樹が車ごと崖から転落して死亡します。少しだけアルコールが入っていたものの、仲間内では秘密にすることで単独事故ということで処理されますが、数年後、残った仲間たちに匿名の告発文が届きます。告発文を送ったのは誰なのか、その目的は何なのか。深瀬は広沢の中高生時代の過去を遡ることで、手がかりを掴めるのではと考えます。深瀬の大好きな「珈琲」と広沢の実家で採取される「蜂蜜」がキーワードとなって物語は進んでいきます。あまりミステリーらしくありませんが、終章では思わぬどんでん返しが待っています。「リバース」の意味も含めて面白い一冊です。

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『サラバ! (上・下)』 西加奈子

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作家生活10周年で直木賞を受賞した西加奈子の『サラバ!』をやっと読み終えました。
主人公の「僕」こと歩が、長い時間をかけて自分が信じるものを見つけるまでの物語です。上巻は歩と家族の歴史がこと細かく描かれており、個人的には退屈な内容で、何度も読むことを中断してしまいました。それでも何とか数週間をかけて上巻を読み終えて、ページを開いた下巻。こちらはスピーディーな展開でぐいぐい読んでしまいました。
「僕はこの世界に、左足から登場した」という文章で始まる物語。最後まで読むと、この小説は作者の自伝に近い小説だということが分かってきます。そして退屈だった上巻の長い長い圷(あくつ)家の歴史が、下巻での劇的な結末に結びついて行きます。これから読まれる方は、上巻で飽きて放棄せずに下巻まで読み進めてください。(^^♪
装幀の絵も西さんが描いたらしいです。

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『オールド・テロリスト』 村上龍

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村上龍の『オールド・テロリスト』を読み終えました。
社会的な地位や名誉がある11人の老爺が、「いったんリセットしないと、もうこの国はもたない・・・」という已むに已まれぬ思いから独自のネットワークを作って、粛々とテロを計画・実践するといった物語です。オールド・テロリストの主張と行動を描き、そこから現代日本の社会的病理を炙り出そうとした著者の意図が感じられます。連載だったようですから、少し冗長感が否めませんが、時代の空気、社会現象、不可解な事件にいち早く着目し、それらを作品の中に取り込んでいった龍ワールド全開の一冊と言ってよいでしょう。

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「君の膵臓をたべたい」 住野よる

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ちょっとタイトルが怖いのですが、「君の膵臓をたべたい」 住野よる著を読みました。
もう何十年も前の青春時代を思い出すような爽やかで、読み進むにつれ涙なしでは読めない一冊でした。物語は、主人公の『僕』が病院で「共病文庫」と題された1冊の文庫本を拾うことから始まります。敢えてこれ以上の内容は記しませんが、若い「仲良し」の二人がお互いを見つめることから自分を知り、相手を知りそして共に成長していく過程がリズミカルで美しい文章で綴られています。
いま青春真っただ中の若い人、そして遥か昔に青春時代を謳歌した人も共に感動する本だと思います。ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊です。いずれテレビドラマや映画になりそうな予感がします。

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「悲嘆の門」 宮部みゆき

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お盆休みはどこへ行っても人がいっぱいですし、庭いじりも暑いので、家に閉じ籠って読書です。
宮部みゆきの「悲嘆の門」を読み終えました。物語自体「英雄の書」の続編らしく、登場キャラクターも物語の世界設定も前書と同様です。個人的にはこのようなファンタジー要素の強い作品はあまり好きではないのですが、純粋な現代劇やミステリーではない宮部作品として、「これはこういうお話だ」という割り切りで読むと結構面白い作品に仕上がっていると思います。

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「森に願いを」 乾ルカ

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北海道出身の作家・乾ルカによる連作短編集です。都会の中にポツンとある深い森、人生に迷いや悩み事を抱え、行き詰まった人を包み込むように迎えいれてくれます。そんな森に惹きつけられた人たちと森番の青年との心温まる物語です。いい本です。特に若い人に読んでほしい本ですね。

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「櫛挽道守」 木内昇

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木内昇の「櫛挽道守(くしひきちもり)」を読み終えました。 
江戸末期の木曽山中の藪原(やぶはら)という宿を舞台に、櫛職人の家に生まれた登瀬という女性の人生を描いた作品です。信州一の名工と呼ばれる父・吾助の櫛挽きの技に幼い頃から魅せられ、父の背を追いつつひたすら櫛挽きの道に励みます。櫛挽きは男の仕事だといわれ、女は結婚して子どもを産むことが幸せだと信じられていた時代、木曽山中の閉鎖された社会に生きる一女性の細やかな心情を通して、人生とは、仕事とは、家族とは・・・それぞれのあり方を丁寧に描いている作品です。

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『九年前の祈り』 小野正嗣

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第152回芥川賞を受賞した小野正嗣の『九年前の祈り』を読み終えました。
大分県の「リアス式海岸が独特の地形を作る海辺の土地」を舞台に、現代文化から取り残されたような小さな集落に生まれ育ち、その中で人生を終えようとしている人々と、彼らと何らかの関わりを持つ人々が、複雑に絡み合いながら物語が進行してゆきます。傍目にはハッピーで毎日がお祭りのような現代社会ですが、「どこの世界に明るいだけの人がおるんか…。そげな人がおったら、そら、ただの馬鹿じゃ」と登場人物が語るように、見えないだけでどこの家庭にも悩み苦しみのたうち回る一面があるのも事実かもしれません。そんな人間の背負った重荷、人間が人間であるがゆえの営みに対する作者の真摯なまなざしが心に響きます。
とても美しい言葉で書かれた小説ですので、外国語とりわけアングロサクソン系の言語に翻訳しても受け入れられるのではと思っています。

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『春の庭』 柴崎友香

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柴崎友香の『春の庭』、一気に読んでしまいました。
終始穏やかで、ふわふわした感じの作品でした。主人公の太郎、そして同じアパートに暮らす女流漫画家の西ともどもアパートの住民同士のやりとりがどこか浮世離れしていてなんとも不思議な感じです。作品の何かを理解するには至りませんでしたが、写真集「春の庭」の舞台となった家を取り巻くアパート住人の何気ない日々の流れに心地よさを感じました。

第151回芥川賞受賞作。選考委員から「街、路地、そして人々の暮らしが匂いをもって立体的に浮かび上がってくる」と絶賛を浴びた作品のようです。

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『マッサンとリタ』 オリーヴ・チェックランド(和気洋子訳)

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先日の竹鶴政孝による自伝『ウィスキーと私』には本人の記憶違いや彼独自の配慮によると思われる記述違いがあるようで、それを補ううえでもこの本を読んでみたいと思っていました。日英交流史家の著者が膨大な資料をもとに竹鶴夫妻や日英のウィスキーに関することを客観的にまとめて記載しており、注釈も読み応えがあって、専門書のような体裁をとっています。朝ドラを見る際の別の楽しみ方としてぜひお読みいただきたい一冊です。

そうそう、春になってもう少し暖かくなったらちょっと車を走らせて余市の蒸留所を訪ねてみたいと思っています。石壁越しに赤い屋根のモルト・ハウスを眺めて、マッサンとリタさんの魂の一端に触れられたらいいなと思っています。車のCDにはロバート・バーンズの「auld lang syne(なつかしい昔)」、「Comin Thro' The Rye(ライ麦畑で出逢ったら)」を入れておかなくては・・・(^^♪

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『ウィスキーと私』 竹鶴政孝

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朝ドラのマッサンこと竹鶴政孝の『ウィスキーと私』は一気に読んでしまいました。
朝ドラが進行中ですし、詳細はネタバレになってしまいますので避けますが、この本のなかでは、マッサンをスコットランドに留学させた「住吉酒造」の田中大作社長(西川きよし)が印象的に取り上げられています。実際には、実在した「摂津酒造」の阿部喜兵衛社長がモデルですが、マッサンの4年間のスコットランド留学を資金的援助で支え、マッサンとリタさんの結婚に際しては竹原の両親から「阿部社長がリタを見て、この娘ならと思われたら結婚させて欲しい。私たちも喜んで迎える」との確約を得て、二人の住むスコットランドへわざわざ出掛けたというエピソードもあるようです。相当にマッサンの技量に惚れ込んでいたのでしょう。ただ、帰国して復帰したものの会社を取り巻く状況が大きく様変わりしており、ウィスキーを造るような環境は整わないこともあって、翌年には阿部社長のもとを去ることになります。しかしマッサンは生涯にわたって阿部社長の恩義を忘れることがなかったそうです。
さて、今日の朝ドラでは奇しくも「住吉酒造」の田中大作社長(西川きよし)が余市のマッサン夫婦を訪ねてきたところで終わりましたね。何か経営にプラスになるようなお話しがあるのでしょうか・・・。

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『窓から逃げた100歳老人』 ヨナス・ヨナソン

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スウェーデンの作家ヨナス・ヨナソンの『窓から逃げた100歳老人』(柳瀬尚紀訳)を読みました。
100歳の誕生日パーティー直前、おしっこ履きのまま老人ホームの窓から逃走したアランお爺さん。お酒には目がなく、宗教と政治は大嫌いという主人公です。これまで生きてきた100年間でトルーマン、チャーチル、毛沢東など世界の大物政治家と出会い、近代史を舞台裏から変えてきたという着想が、まったくの出鱈目ながら面白いです。アランお爺さんのはちゃめちゃな逃避行と彼が生きた奇想天外な100年の世界史が交差するドタバタコメディですが、濃厚でどこか北欧文学の香りの漂う作品です。

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『100歳の華麗なる冒険』として映画も公開されているようです。


「風花帖」 葉室麟

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葉室麟の「風花帖」も面白くて一気に読んでしまいました。
文化11年(1714)に豊前小倉藩で、藩主小笠原忠固が江戸幕府の老中になる野心を抱き猟官運動を画策して金をばらまいたことで藩財政が悪化し、家中が二派に割れて争うという騒動が発生します。小倉城にとどまった一派を白(城)組と呼び、他の一派は黒組と呼ばれ隣の黒田領の筑前黒崎宿に籠もったもので、俗に「白黒騒動」と称されるお家騒動です。
そんな騒動に翻弄されながらも、生涯たった一人の女性への叶わぬ想いを貫き通し、自らの命を昇華した下級武士を描いた物語です。白い山頂から風にのって舞う小雪「風花」のように清廉潔白、純情一途に生きた男のあり様に心が惹かれます。

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「山桜記」 葉室麟

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葉室麟の「山桜記」を読み終えました。戦国時代末期から江戸時代初期に生きた実在の武将の奥方達に纏わる7つの短編で構成されています。個人の意思と関係なく政略的な婚姻が当然視されていた武士社会。封建的な世にあって、けっして表舞台に出ることがなかった女性が、愛を追求しつつ山に咲く桜のように清々しく可憐に生きた様が描かれています。

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「泣き童子」 宮部みゆき

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今の時季に怪談話はそぐわないかも知れませんが、炬燵開きという今の季節にぴったりのお話から始まる宮部みゆきの「泣き童子」、面白かったです。
神田三島町の袋物屋三島屋を営む伊兵衛・お民叔父夫婦に行儀見習いとして預けられたおちかは、叔父の提案で変わり百物語を語る人を聞き集めます。そんな三島屋変調百物語の三巻目の作品です。
若い娘がおちかと炬燵のなかで、戒めを守らなかった祖母の身に起こった話を語る「魂取の池」、幼い頃に遭った山津波で幼なじみを失った苦しみとその後の不可思議な出来事を語る「くりから御殿」、人の心の中にある悪を見抜いて泣く、哀しくも恐ろしい「泣き童子」、おこぼさん(小法師)の優しさを綴った「小雪舞う日の怪談語り」、村にまつわる不思議な伝統と、危険を顧みず村の危機を救った母の役割を語る「まぐる笛」、二十四節気の日だけ顔が変わる「節気顔」の6編です。どのお話も怖いのですが、日常生活で忘れかけていることを自らに問いかけてくるようないいお話でした。

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「やってみなはれ みとくんなはれ」 山口瞳/開高健

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NHK朝ドラ「マッサン」で、亀山政春(玉山鉄二)の生涯の師でありライバルとなる「鴨居商店」の社長・鴨居欣次郎(堤真一)がユニークで面白いですね。ニッカウィスキーの創業者のマッサン・亀山政春こと竹鶴政孝は、リタ(エリー)婦人ともども一途で魅力的な人ですが、個人的には鴨居欣次郎こと鳥井信治郎にとても惹きつけられるものを感じます。ご存知のように鳥井信治郎はあの「洋酒の寿屋(現在のサントリー)」の創業者ですが、彼のことを詳しく書いているのが山口瞳と開高健による「やってみなはれ みとくんなはれ」という本です。ご両人とも寿屋の宣伝部の社員として席をおきながら、内職で小説を書いてそれぞれ直木賞と芥川賞を受賞していますが、この鷹揚さをみても鳥井社長(大将)率いる寿屋という会社のとてつもない懐の深さを垣間見ることができます。

本によりますと、信治郎は明治12年に大阪市東区で両替商を営む家に生まれています。小さい頃から才気煥発な腕白小僧だったらしく、13歳で道修町の薬種問屋に丁稚奉公をします。父親の営む両替屋が米屋に転業し、副業としてラムネやサイダー、ときにはイミテーションのウィスキーなども売ることがあったそうで、このウイスキーが薬種問屋で調合されていたこともあって、調合技術の習得などを目的に父親が奉公に出したようです。これが「鳥井信治郎の鼻」といわれる天与の資質に磨きをかけたと云われています。

そして22歳で南区安堂寺橋通に「寿屋洋酒店」を開業し、あの懐かしい「赤玉ポートワイン」を自ら調合し製品化して発売します。葡萄酒が「人参規那鉄」などと呼ばれていた時代ですから、このネーミングは画期的でしたし、あの半身ヌードの斬新なポスターも広告に一役かったのでしょう。ドラマの通り、これが売れまくって会社の土台を築く基になったそうです。このあとも歯磨き粉(これも懐かしいスモカ)、ビール、ソース、醤油、紅茶、合成清酒、ジュースなどなど種々のものに参入し、そして失敗し、その繰り返しを続けたようです。

開高健の筆によると、『スイスの時計をし、ドイツの万年筆を持ち、"国産愛用、舶来不要"を叫んでウィスキー製造に邁進する紳士大将が南無妙法蓮華経をとなえ、八卦に凝り、"体を洗うのや"と言って朝は必ずソーダ水を1本飲むのである。およそ矛盾を恐れない。矛盾を矛盾として呑みこんでケロリとしている。』・・・云々。 朝ドラの鴨居の大将も凄いと思いますが、当の信治郎はこんなもんではなかったことが想像されます。

そうそう、昭和4年にマッサン(竹鶴政孝)のブレンドした山崎工場初のウィスキー(サントリー白札)が発売になりますが、朝ドラでもやっていたように、これが不評でまったく売れませんでした。高級ウィスキーにしか使わないシェリー酒を染み込ませた樽を使っていたにもかかわらず・・・。ウィスキーはまだ一般のものではなかったのでしょう。
ただ、サントリーでは「あの時に売れなくて良かった」というのが伝説になっているそうです。その売れない原酒が貯蔵庫で寝ることになり、熟成した「12年もの」角瓶の発売に繋がっていくのです。これが売れて売れて、売れまくったそうです。ちなみにマッサン(竹鶴政孝)は、昭和9年に約束の期間を終えて鳥井の大将の元を辞していますので、マッサンの最高傑作は皮肉にも心血を注いだ主が去った7年後に見事に開花することになります。

そんなことで私も「山崎ピュアモルト12年」をみびりちびりやりながら読んでいます。芥川賞・直木賞作家コンビが綴った軽妙、洒脱なとても面白い本でした。ぜひ読んでみてください。

・・・それと、今日(1/17)の朝ドラの鴨居の大将の小切手を切るシーン、格好良くて泣けてしまいました。ドラマは来週からいよいよ余市に舞台が移りますね。(^^♪

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「慟哭の海峡」 門田隆将

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あの「アンパンマン」の作者である"やなせたかし"さんと弟の千尋さん、そして千尋さんと同時期を同じ戦場で過ごした中嶋秀次さんという方の生き様を描いたノンフィクションです。「輸送船の墓場」と称され、10万人を超える日本兵が犠牲になったとされる台湾とフィリピンの間のバシー海峡が千尋さんと中嶋さんの物語の舞台です。千尋さんは壮絶な魚雷攻撃で23歳という若さで人生を閉じ、一方の中嶋さんは12日間の漂流を経てただ一人奇跡の生還を遂げます。中嶋さんは死んだ戦友の鎮魂のために戦後の人生を捧げ、千尋さんのお兄さんの"やなせたかし"さんは「アンパンマン」のなかに幼い頃から優秀で可愛いかった弟・千尋さんの面影を映し込んでいきます。「生」と「死」の狭間で揺れ、自己犠牲を貫いた大正生まれの男たちの物語です。

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「お文の影」 宮部みゆき

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reikoさんからお借りした宮部みゆきの「お文の影」、面白かったです。単行本で出版されていた『ばんば憑き』を改編し文庫化したもので、「あやし(怪し・奇し)」の世界のお話全6編で構成されています。この方の細かい心理描写にはいつも惹きつけられますが、江戸怪奇物もただ怖いだけではなく、温かくて切ない心情が伝わってきます。江戸下町の市井の人々の慎ましくも逞しく生きる姿が、切なく悲しい怪談話に絡めて描かれており、心に沁みる6編のよいお話が詰まっています。

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「仮面同窓会」 雫井脩介

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雫井脩介の「仮面同窓会」はすでに読まれた方がおられると思います。
高校の同窓会で再会した4人が、かつて体育担当で生活指導と称して体罰を加えていた元教師に過去の恨みを晴らそうと仕返しを計画することから物語が始まります。若者のノリで面白半分に計画し実行したものが、思わぬ事件に発展し、そしてその事件を契機にしてお互いに疑心暗鬼が生じるようになります。
真相を知りたくグイグイ読み進めるのですが、結末の締めがちょっと甘いというか物足りない感じがしました。それとミステリーにしても読後の後味が良くないように思いました。

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「貘の檻」 道尾秀介

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道尾秀介の「貘の檻」、結構時間がかかりましたが、やっと読み終えました。
32年前の父親が絡んだ殺人事件の真相を求めて信州の寒村を訪ねた主人公を次々に襲う異様な出来事。治療用薬物、写真、昆虫、灌漑用穴堰(地下水路)など多彩な道具立てを駆使したトリックで、夢と現実の世界を行き来しつつ、薄皮を重ねる様に物語が仕立てられていきます。
『ゆうべの夢は獏にあげます』で始まる美しい文章。巧みに配置された伏線、そして衝撃の結末。心理描写も巧みで面白かったです。

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「フォルトゥナの瞳」 百田尚樹

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『この本を手にとった瞬間にあなたの運命が変わるかもしれません』というキャッチフレーズの百田尚樹の「フォルトゥナの瞳」を読みました。
百田さんいわく、もし人の運命をみることができたらと考えたのが執筆をするきっかけになったとのことです。そんな「他人の死がみえる青年」の物語です。作品のテーマは「運命」と「選択」そして「自己犠牲」ですが、決して知りたくはない「他人の死」がみえた時に、私たちだったらどのような選択をし行動をするでしょうか。

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「山女日記」 湊かなえ

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湊かなえの「山女日記」を読みました。いま流行の「山ガール」ならぬ「山女」がどのような日記を書くのかちょっと覗き見をするような気持ちでページをめくってみました。7つの短編は、職場の同僚との関係、結婚への迷い、離婚の危機、父との関係、姉への劣等感などで悩みを抱える女性が、山に登ることで次の一歩を踏み出すヒントを得るといった内容です。物語は妙高山から始まり、火打山、槍ヶ岳、北海道の利尻岳、白馬岳、富士山を望む箱根の金時山、そしてニュージーランドのトンガリロが舞台となります。章ごとに主人公が変わりますが、物語の対象になる主人公が変わるだけで、それぞれの章の登場人物が物語り全体では大きな相関関係にあるというのも面白いです。ちょっと切なくてほろりと泣ける短編集です。
湊さん自身も最初に登ったのが妙高山と火打山の縦走だったそうです。

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「神の子」 薬丸岳

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薬丸岳の「神の子」、評判通りで面白かったです。上下あわせて900ページもあり、どこかで間延びするのではと思っていたのですが、エピローグまで緊張感のある締まった内容で良かったです。薬丸さんの代表作の一つになるのではと思っています。

物語は、戸籍がなく義務教育を受けていないにもかかわらず、神がかったとまで言われるほどの天才的頭脳を持つ少年が主人公です。生きるためにかかわった振り込め詐欺グループで、天才的頭脳を持つがゆえに幹部から興味を持たれることになります。グループに関係する殺人事件で少年院に入り、出所後の身元引き受け先にも決して心を許すことのなかった彼ですが、あるきっかけでベンチャーの起業の手助けををすることになります。彼の卓越した頭脳が後押ししたこともあり、ベンチャーは大きく発展するのですが、それとともに彼の周囲では不穏な動きをする影が見え隠れします。愛されず、愛さずもせず、生来の天才的な頭脳だけを頼りに生きてきた少年を待ち受ける運命とは・・・。ぜひ読んでみて下さい。

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「怖いもの知らずの女たち」 吉永みち子

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先日の田部井淳子さんの講演会で紹介していた「怖いもの知らずの女たち」を読んでみました。殆ど音楽とは縁遠いずぶの素人が一流のホテルでディナーショーを開こうというのですから、田部井さんをはじめ6名の女性陣のバイタリティーには脱帽です。
田部井さんが主宰する「森の女性会議」に参加している6名の面々の経歴がまた凄いです。日本ロレックスの宣伝広報担当、セブンイレブン生え抜きの執行役員、日航客室乗務員を経て弁護士、世界各地をまたにかけるPR会社会長、元宝塚女優でシャツブティックの経営者などなど。それぞれの生い立ちから現在に至るまでの波乱万丈の人生が、山を愛し歌を愛してディナーショー開催にこぎつけるバックボーンとして読者に語りかけてきます。それにしましてもドラマチックで、したたかで、思いきりがよくて、しぶとくて・・・そして、しなやかで恰好いいですね。

たしか講演会では今年で7回目になると仰っていたように記憶していますが、素敵な衣装に身を包んだ女性陣の歌声と超豪華なディナーを味わってみたいと思います。誰か『怖いものを見たい男たちのツアー』を企画してくださいませんか。ショー受付ではアイマスクと耳栓が置いてあるそうですが、それを手にしたらどんな怖い目にあうのでしょうね。(笑)
出版元が「山と渓谷社」というのも結構笑えます。

そうそう吉永さんが本を書く条件として田部井さんに一つだけ注文をつけたそうです。何だと思いますか。
それは「私にも一曲歌わせろ」と云うものだったそうです。吉永さんも相当に怖いもの知らずのようですね。(^^♪

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「四人組がいた。」 高村薫

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高村薫さんの『四人組がいた。』、久々に拍手喝采(個人的にですが・・・)ものの面白い本にぶち当たりました。
物語の舞台はキャベツが特産品の山あいの村。今風に云うと『限界集落』ってとこでしょうか。旧バス道路に面した郵便局兼集会所にたむろする元村長、元助役、郵便局長、キクエ小母さんの怪しげな高齢者4人組が主人公です。お茶を啜りながら何か変わった事でも起きないかと手ぐすねをひいて待ち構えているところにやってくる人々をジジババ風の話術で煙に巻いていきます。ムラ社会の旧弊、怪しげな農村振興策、素朴さに憧れる都会人、山奥のパワースポット、放射能汚染といった題材をもとに、独特のユーモアとぴりりと効いた風刺をからめて現代社会が抱える盲点をあぶりだしていきます。
4人組のような粋なジジババになりたいという願望を込めて、星5つ付けたいと思います。

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「荒神」 宮部みゆき

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宮部みゆきの「荒神」を読み終えました。
時は関が原の合戦から100年後の元禄、今の福島県の山間の仁谷村が一夜にして壊滅状態に陥ることから物語りが始まります。隣り合う永津野藩と香山藩の因縁、奇異な風土病を巡る騒動など不穏な雲行きを背景にこの世のものとは思われない恐ろしいことが起きます。人の心の中にある恨みや憎しみが形になり、人に牙を剥いたものなのか・・・。人としての奢りが災いを招いてしまったものなのか・・・。圧倒的な迫力で読者に迫ってきます。
いみじくも文中に『こうしたことをみんな、誰も悪いと思ってしているのではない。よかれと思ってやっているのだ。わが藩を富ませるため。わが藩の領民のため。大事な家族のため。この地に生きる民を守るため。だから追及すればするほどに、悪事は消えていってしまう。残るのは悲しみと不信ばかりだ』(p552)とあります。現在世界中で起きている戦争や紛争そして人災、とりわけ中東イスラム圏で起きている悲惨な状況や核の脅威などを思わずにはいられませんでした。

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「北海道民のオキテ」 さとうまさ&もえ

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『他県民びっくりの道民の生態』と題した「北海道民のオキテ」、読みながら大笑いしてしまいました。
留萌出身の道民「もえ」と、その夫「まさ」(内地の人です)が繰り広げる新婚生活を面白く漫画仕立てにした本です。道産子の私などは「ああ、そうそう」と全部頷けるのですが、内地(道外)の人からみると不思議で奇想天外なことが多いようです。

第1章の「グルメのオキテ」では、"みんな大好きジンギスカン"と、"ザンギとから揚げは違う"というお話が面白かったです。確かにお花見や野外での集まりがあるとまずジンギスカンですからね。ザンギも北海道ならではの味付けへのこだわりがあるようです。
第2章の「冬のオキテ」では、"部屋の中はいつも南国"と、"「おせち」は大晦日のご馳走"のお話がダントツですね。確かにストーブをがんがん焚き、窓の外は猛吹雪なのにTシャツを着てアイスクリームを食べたりしていますもね。「おせち」も何の不思議もなく、大晦日に食べるものと思っていました。う~ん。言われてみると変ですね。
第3章の「方言のオキテ」では"ゴミもボールも「投げる」"というお話と、"「押ささんない」と「押せない」は違う"という二題かな。こちらではゴミ集積場を「ゴミ・ステーション」と呼びますから、今日も『ゴミ・ステーションにゴミを投げてくる』と言いました。家の窓からゴミ・ステーションめがけてゴミを投げつけるみたいでしょう。「ゴミ・ステーション」というネーミングも北海道らしくていいですね。もう一つの「押ささんない」と「押せない」の違いは皆さんも考えてみてください。
第4章の「日常のオキテ」では、"片道100kmは日帰り圏内"と、"買いだめ体質"でしょうか。日本地図では北海道だけ縮尺が違いますので、道内をドライブをする際にはお気をつけください。そして「買いだめ・・・」、指摘されると確かに買いすぎの傾向がありますね。
北海道民は何事も「大雑把」、言葉を変えると「おおらか」なのです。はい、私もです。(^^♪
他にも北海道のオキテが満載されていますので、道産子を理解するうえでとても参考になると思います。(笑)

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