カテゴリ:
昨夜のNHK-BSプレミアム『900年の秘めごと~国宝・源氏物語絵巻~』。期待していた通りの素晴らしい内容の番組でした。
まず今回の修復の過程をじっくり見せていただきましたが、絵具の剥落や紙の損傷がとても激しく、4年におよぶ大修理は相当に困難を極めたものであったことが分かりました。江戸時代にも修理がされていたようですが、その裏打ちの紙をはがした過程で下絵の様子などいろいろなことが判明したようです。それにしましても長い時を経て、これだけの絵画が残っていたことに驚嘆するとともに、これほどまでに素晴らしい修復をして供覧させていただいたことにも頭がさがります。
寂聴さんの源氏物語に寄せる熱い思い、そして900年という時を経て現代に生きる私たちへのメッセージがお話しから伝わってきました。また 宮廷画家たちが物語の登場人物の心情などに思いを巡らし、試行錯誤しながらも絵筆に情熱を込めた様子など修復過程から分かった事実はとても興味深いものでした。

《写真はNHK-BSプレミアムの画面を撮影したものです》
IMG_3293.jpg

私の少し後に徳川美術館を訪れたreikoさんから同館で販売されている企画展書籍をお借りしました。写真が大きくて鮮明で、実際に観た絵巻よりも数段詳しく細部まで読み取ることが出来ます。源氏物語が書かれた背景やそれぞれの詞書の説明なども詳細に記されていますので、源氏物語のさわりしか読んだことがない私などにとって同物語へのアプローチには良いテキストと思っています。

IMG_3288.jpg

物語としても絵画としても好きなのが、「宿木(やどりぎ)」の一場面を描いた第49帖です。前述のテキストと番組の内容を加味して書いてみます。

男性は光源氏の孫である匂宮(におうのみや)、女性は匂宮の妻である中君(なかのきみ)です。舞台は秋のしみじみとした夕暮れ。二条院の庭の枯れかかった前栽(ススキ、萩、藤袴)が風になびき、御簾をわずかに揺らして、揺れ動く二人の心情を表しています。匂宮はリラックスして青革張りの琵琶を奏でています。中君はこの時、懐妊中の身です。脇息(きょうそく)にもたれて扇を手に琵琶の音を聴いています。琵琶は中君も好きな楽器なのですが、匂宮が新たに夕霧の娘である六君(ろくのきみ)を妻としたことで中君は苦悩しています。一方の匂宮も、中君の姉である亡き大君(おおいぎみ)を恋い慕う薫(かおる)が中君に近づいていることを知り、中君と薫との仲に猜疑心を抱いています。 今どきのお昼のドラマのようですが、男と女の関係はいつの時代も普遍的な題材になるようです。

組高欄、簀子縁(すのこえん)をめぐらす廂間(ひさしのま)が舞台ですが、左の大きなスペースには前栽のある庭、そして廂間を斜め上から眺めるという構図、人物の微妙な配置・表情など、900年前の絵画とは思えない斬新さがありますね。

にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログへ