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第152回芥川賞を受賞した小野正嗣の『九年前の祈り』を読み終えました。
大分県の「リアス式海岸が独特の地形を作る海辺の土地」を舞台に、現代文化から取り残されたような小さな集落に生まれ育ち、その中で人生を終えようとしている人々と、彼らと何らかの関わりを持つ人々が、複雑に絡み合いながら物語が進行してゆきます。傍目にはハッピーで毎日がお祭りのような現代社会ですが、「どこの世界に明るいだけの人がおるんか…。そげな人がおったら、そら、ただの馬鹿じゃ」と登場人物が語るように、見えないだけでどこの家庭にも悩み苦しみのたうち回る一面があるのも事実かもしれません。そんな人間の背負った重荷、人間が人間であるがゆえの営みに対する作者の真摯なまなざしが心に響きます。
とても美しい言葉で書かれた小説ですので、外国語とりわけアングロサクソン系の言語に翻訳しても受け入れられるのではと思っています。

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