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栄養ドリンクのCMで「疲労回復」という言葉が消えて、代わって「疲労感の軽減」というちょっと遠回しな言い方が主流になっているそうです。
疲労には「疲労感」と「体の疲れ(疲労)」という二つの側面があり、疲労の種類にも労働や運動などによる生理的な疲労と病的疲労があります。

私はこのへんがごっちゃになっていましたが、先日の「ヒューマニエンス」で慈恵会医科大学の近藤一博先生が詳しく解説していましたので、私が理解したことを含め紹介させていただきます。

近藤先生によりますと、以前は活性酸素によって体がさびつくと、それに対する免疫反応で炎症性サイトカインが出るといわれていましたが、生理的疲労の場合、体のどこにも異物は存在せず、免疫反応も起きないそうです。炎症性サイトカインは、疲労因子といわれる「リン酸化eIF2α」によって発生するそうです。「リン酸化eIF2α」って、聴きなれない物質ですね。

つまり、生理的疲労は以下のようなメカニズムによって起こるそうです。
①体を動かしたときに細胞に負荷がかかる⇒乳酸が肝臓で代謝される
②そのときにタンパク質合成因子(eIF2α)に、リン酸がくっついて疲労因子(リン酸化eIF2α)になる
③リン酸化eIF2αによって炎症性サイトカインが作られ、これが脳に届いて「疲労感」という生体アラームが発する
④一方でタンパク質の生成が阻害されることで細胞の機能が低下し、臓器機能の低下や障害が起こる「疲労」状態となる
ただ、活性酸素は疲労とまったく無関係というわけではありませんが、活性酸素が細胞を酸化させる話は老化のメカニズムのほうがメインだそうです。

さて、栄養ドリンクとの関係についてです。
栄養ドリンクやサプリメントに入っていて疲労回復に効くとされていた物質のほとんどは「抗酸化物質」なのだそうです。近藤先生の研究グループは、疲労の負荷をかけたマウスに抗酸化物質を与え、心臓、腎臓、肝臓、肺など全身の組織の疲労因子を測定してみたそうです。すると、消えていたのは肝臓の疲労因子だけで、他の臓器の疲労因子は全て残っていたといいます。「疲労感」を脳に伝える役割を果たす炎症性サイトカインのほとんどは、肝臓で作られることが分かっています。栄養ドリンクやサプリメントに入っている抗酸化物質で消すことができたのは、肝臓の疲労因子だけで、他の臓器の疲労因子は消えていないことが明らかになったそうです。
ということは、抗酸化物質によって抑えることができるのは「疲労感」だけで、体中の「疲労」はそのまま残っていたことになるのですね。

近藤先生は、「疲労感」がないイコール疲れていないと思って頑張りすぎることが問題と言います。栄養ドリンクを飲んでも、ちゃんと寝て、休む日を作ることが大事なのですね。

ちょっと難しい話題でしたが、「疲労感」と「疲労」の区別はお分かりいただけましたでしょうか。
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