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エーザイと米国のバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が、FDAによって承認されたとの報道発表がありました。原因とみられる異常なたんぱく質「アミロイド・ベータ 」を脳内から取り除き、認知機能の低下の長期的な抑制を狙う薬とのことです。
内閣府によりますと、2020年の認知症の患者数は約630万人、2025年には約730万人、さらに2060年には1100万人以上になると言われており、高齢者の約3人に1人が認知症になるという予測もあります。

そんなアルツハイマー病をテーマにした南杏子の『アルツ村』を読んでみました。題名からして楽しい小説ではありませんが、まずは出版元の簡単な内容紹介を掲載します。
 
『恍惚の人』から半世紀。現役医師作家による衝撃のメディカル・サスペンス!
高齢者だけが身を寄せ合って暮らす山間の村。そこは楽園か、遺棄の地か。夫の暴力から逃れ、幼い娘を連れて家を出た主婦・明日香。迷い込んだ山奥の村で暮らし始めた明日香は、一見平和な村に隠された大きな秘密に気付き始める。住民はどこから? 村の目的は?
老老介護、ヤングケアラー、介護破綻……世界一の認知症大国、日本。人生を否定される患者。生活を破壊される家族。認知症の「いま」に斬り込む衝撃作!

物語の舞台は、道北の厳寒の地として知られている幌加内町母子里。近くに朱鞠内湖という湖があります。ここに認知症患者ばかりを集めたグループホームのような施設があります。もともとはバブル期のリゾート地で別荘や移住者などが住んでいたところですが、高齢化と共に住民がいなくなり、そこを大陸系の資本が買収して、怪しげなグループホームを運営しているという設定です。
ひょんなことから主人公の明日香が施設内に迷い込んでしまうのですが、周囲を高圧電流柵で囲むほどに厳重に管理されており、所在地も公にされていないという不思議さに彼女は戸惑いと恐怖を感じます。

サスペンスとしての興味が薄れますので、ネタバレはこのくらいにします。

著者が現役の医師ということもあって、認知症の医学的知識や問題点について詳しく書かれています。また、大陸系を主とした外国資本が国内の土地や施設を買いあさっていることもベースとして織り込んでおり、これらを複雑に絡めての物語構成が興味深いところです。
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